【第4回】メタバースと肖像権・パブリシティ権
January 15th, 2025
メタバースと肖像権 つづき
(4)パブリシティ権とは
パブリシティ権は、肖像権と比べて耳慣れない権利かもしれません。法令によって認められている権利ではありませんが、肖像権と同様に判例により認められた権利です。
パブリシティ権とは、著名人の肖像や氏名等が有する顧客誘引力を排他的に利用する権利をいいます(最判平成24年2月2日、民集66巻2号89頁)。つまり、人気の著名人の肖像それ自体を商品化したり、商品の広告に用いたりすれば、それだけ注目が集まり、その商品が売れることが期待できますが(このような作用を「顧客誘引力」と呼びます。)、そのような顧客誘引力は当該著名人等が自分でコントロールする権利を有する権利を有するのであり、著名人以外の第三者が、当該著名人の顧客誘引力を当て込んで、著名人の肖像や氏名等を勝手に使ってはいけないということです。そのため、著名人の肖像を勝手に使った場合、肖像権侵害となり得るだけでなく、パブリシティ権侵害のおそれも同時に生ずることになります。また、肖像権とパブリシティ権は別の権利ですから、ある著名人から肖像の利用の許諾を受けたとしても、許諾が肖像権の範囲に限られていれば、パブリシティ権侵害のおそれがあるということとなります。

(5)メタバースとパブリシティ権
基本的には、肖像権と同様に考えることができます。すなわち、前回ご紹介したような肖像権の侵害のおそれが認められ、かつ、その肖像が著名人のものであり、加えて、かかる肖像権侵害行為により、顧客誘引力が生じている場合には、パブリシティ権の侵害のおそれもあると考えてよいです(顧客誘引力が生じていない場合には、著名人の肖像を勝手に用いたとしても、肖像権侵害のみが問題となります。)。
アバターに特有のパブリシティ権が認められるかという点も、肖像権と同様ですが、競走馬にパブリシティ権は認められないとした判例があり(最判平成16年2月13日、民集58巻2号311号。動物は法律上「物」と分類されており、本判例は、物のパブリシティ権を全般的に否定したものと考えられています。)、この判例の存在が、アバター特有のパブリシティ権を認めるべきか否か(ひいては、アバター特有の肖像権を認めるべきか否か)の判断に影響を与える可能性は十分にあるといえるでしょう。平成16年当時と令和6年現在では、技術も価値観も大きく変容していますから、馬のような「有体的な物」はもちろんのこと、一足飛びに、馬の3Dデータのような「無体的な物」についても、パブリシティ権を認めるべきではないかといった議論が公的になされる可能性もまた全く否定されていません。
(6)肖像権・パブリシティ権侵害を防ぐためには
このような侵害を防ぐためにまず大切なことは、権利者の同意を得ることです。権利者から有効な同意を得た範囲であれば、肖像の利用に伴う権利侵害の発生のリスクを限りなく小さくすることができます。他方、権利者の同意を取得することが困難な場合(特に前回3(3)のような現実世界の人物の映り込みのケースやメタバース内での写真撮影に伴う映り込みのケース)では、他のアバターにぼかしを入れたり、スタンプで覆たりするなど、肖像を識別できない状況にしておくことが安全です。
メタバースを用いる事業者としても、利用規約やガイドラインによって、肖像の利用にかかる規定と違反の際の措置規定を設けておくことで、トラブルの予防と事後の対応の両面で有効といえるでしょう。なお、確かに、オリジナルのアバターの場合、そもそも肖像権やパブリシティ権が認められるかどうかが定まっておらず、今後の議論が待たれる状況ですが、オリジナルのアバターだと考えていたものが、実は、実在の人物を再現したものだった、ということも想定できますから、このような対策を講じておくことは決して無駄ではありません。
おわりに
上述のように、現実世界に実在する人物には肖像権が保障されています。そのため、メタバースにおいて、あるユーザーが、実在する人物の容貌を緻密に再現したアバターを作成・使用した場合には、当該実在する人物の肖像権侵害となる可能性があります。侵害の可能性は、再現の程度はもちろん、そのアバターにどのような行動・言動をさせるのかによって異なり、例えば、精巧なアバターをまといモデルとなった人物の名誉を著しく損なう発言をする場合には「受忍の限度を超えるもの」と認められる可能性があり、肖像権侵害となる可能性が高まるといえるでしょう。 また、視点を変えて、別のユーザーが、上記のようなアバターをまとったユーザーを無断で撮影した場合にも、その態様によっては、当該実在する人物の肖像権を侵害する可能性があります。
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