COVID-19 Resource Center
新型コロナウイルス感染症関連情報

【特設】新型コロナウイルス感染症関連情報

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、企業実務も大きな影響を受けています。弊所では、企業が取るべき対応について、法的観点からのアドバイスをQ&Aでわかりやすく解説するページを特設しました。なお同感染症は、刻々と状況変化しているため、Q&Aは随時追加・更新いたします。

新型コロナウイルス感染症に関する法的問題におけるQ&A

公的情報

担当: 若井大輔 弁護士

新型コロナウイルス感染症関連情報

首相官邸をはじめとして、多くの官公庁や業界団体等が新型コロナウイルス感染症に関する情報を公表していますが、自分に必要な情報を探すのが大変です。

新型コロナウイルス感染症対応に関しては、企業の支援から個々人の生活まで、多様な情報が公表され、日々、アップデートされている状況です。弊所では、皆様の情報収集のお役に立てるよう、ご関心があると思われる分野・項目ごとに、官公庁や業界団体等が公表している情報を以下のとおりとりまとめております。なお、これらの情報については随時更新されている可能性がありますので、詳細はリンク先をご確認ください。

 

*2020年5月7日更新

 

1      基本情報

●首相官邸

  • 新型コロナウイルス お役立ち情報

https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_index.html

  • 新型インフルエンザ等対策特別措置法

https://elaws.egov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031

  • 新型コロナウイルス感染症に備えて ~一人ひとりができる対策を知っておこう~

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html

2      事業支援・事業継続

(1)   資金繰りに関する情報

●財務省

  • 影響を受ける事業者への資金繰り支援等(3月13日(3月27日更新))

https://www.mof.go.jp/financial_system/fiscal_finance/coronavirus-jigyousya/cronavirus-jigyousya.html

●経済産業省

  • 持続化給付金に関するお知らせ(5月1日)

https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-kyufukin.html

  • 新型コロナウイルス感染症で資金繰りにご不安を感じている事業者の皆様へ

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shien-flyer.pdf

  • 日本政策金融公庫や商工中金の新型コロナ感染症特別貸付などに加えて、民間金融機関でもご支援できます

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shien-flyer2.pdf

  • 新型コロナウイルス感染症に係る資金繰り対策の対象事業者の拡大方針(4月24日)

https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200424008/20200424008.html

  • 支援策パンフレット「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」 (5月3日更新)

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

●金融庁・日銀

  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた手形・小切手等の取扱いについて(4月16日)

https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200416.html

(2)   資金調達に関する情報

●日弁連

  • 新型コロナウイルスによる売上減少・資金繰りに不安を感じている事業者様へ -新規融資、新規の保証、各自治体の融資制度について-

https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/20200319.html

(3)   事業再生に関する情報

●中小企業庁

  • 新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール実施要領(4月6日)

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2020/200406saisei.html

(4)   事業継続に関する情報

●厚生労働省

  • 雇用調整助成金の特例措置を実施します~雇用調整助成金を活用して従業員の雇用の維持に努めてください。~(5月1日)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

●農林水産省

  • 新型コロナウイルス感染者発生時の対応・業務継続に関するガイドライン

https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/ncv_guideline.html

●国土交通省

  • 新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を踏まえた工事及び業務の対応(建設工事標準請負契約約款における「不可抗力」に該当 、4月8日)

http://www.mlit.go.jp/tec/content/001339762.pdf

(5)   その他

●首相官邸

  • くらしごとの支援策(5月1日)

https://www.kantei.go.jp/jp/pages/coronavirus_shien.html

3      労務

●内閣サイバーセキュリティセンター

  • テレワークを実施する際にセキュリティ上留意すべき点について(4月14日)

https://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/telework20200414.pdf

●個人情報保護委員会

  • 事業者等においてテレワーク等を活用する場合のマイナンバーの取扱い(4月15日)

https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/covid-19_mynumber_qa/

●総務省

  • テレワークの積極的な活用について

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/02ryutsu02_04000341.html

●厚生労働省

  • 新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(5月3日)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

  • 派遣従業員に係るテレワークの実施等(契約変更時の書面不要など、4月13日)

https://www.mhlw.go.jp/content/000620808.pdf

  • 新型コロナウイルス感染症に伴う労働者派遣に関するQ&A

https://www.mhlw.go.jp/content/000620808.pdf

  • 働き方改革推進支援助成金(新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース)(4月28日)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html

●経済産業省

  • テレワーク導入に関する費用についてお悩みの事業者の皆様へ(PDF形式:317KB)PDFファイル

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/it-hojo.pdf

●一般社団法人日本テレワーク協会

4      株主総会・決算等

(1)   株主総会に関する情報

●経済産業省・法務省

  • 株主総会運営に係るQ&A(4月2日(4月28日更新))

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

  • 法務省
  • 定時株主総会の開催について(2月28日(4月30日更新))

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

(2)            決算・会計検査に関する情報

●金融庁

  • 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について(4月14日、17日更新)
  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた決算業務・監査業務等への対応について(事務連絡)https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/10.pdf●東証
  • 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた上場制度上の対応に係る有価証券上場規程等の一部改正について」(3月31日)

https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20200331.html

(3)   開示関連に関する情報

●東証

  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い

https://www.jpx.co.jp/news/1023/20200210-01.html

  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針について(3月18日)

https://www.jpx.co.jp/news/1020/20200318-01.html

  • 新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い(3月18日)

https://www.jpx.co.jp/news/1023/20200318-01.html

5      税務関連

●国税庁

  • 新型コロナウイルス感染症の影響により国税の納付が難しい方へ 納税の猶予をご利用ください(4月24日)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/0020004-124_03.pdf

  • 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)(4月13日)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/kaisei/2004xx/index.htm

  • 「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の更新(4月30日)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

●財務省

  • 「納税を猶予する「特例制度」」(4月30日)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/brochure1.pdf

  • 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における税制上の措置(4月30日)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/keizaitaisaku.html

6     独占禁止法・下請法

●公正取引委員会

  • 新型コロナウイルス感染症への対応のための取組に係る独占禁止法に関するQ&A(4月23日)

https://www.jftc.go.jp/oshirase/coronaqa.html

  • 新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について(4月28日)

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/apr/200428.html

  • 新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について(3月10日)

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/mar/200310_yousei.html

7      個人情報・セキュリティ

●内閣サイバーセキュリティセンター

  • テレワークを実施する際にセキュリティ上留意すべき点について(4月14日)

https://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/telework20200414.pdf

●個人情報保護委員会

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて(4月2日)

https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/covid-19/

8      その他官公庁の公表情報

●内閣官房

  • 新型コロナウイルス感染症対策/新型コロナウイルス感染症緊急事態措置

https://corona.go.jp/

●内閣府

  • 新型コロナウイルス感染症関連

https://www.cao.go.jp/others/kichou/covid-19.html

●公正取引委員会

  • 新型コロナウイルス感染症関連

https://www.jftc.go.jp/oshirase/200227oshirase.html

●警察庁

  • 新型コロナウイルス感染症への対応について

https://www.npa.go.jp/bureau/soumu/corona/index_corona_special.html

●金融庁

  • 新型コロナウイルス感染症関連

https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/press.html

●消費者庁

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大に対応する際に消費者としてご注意いただきたいこと

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/notice_200227.html

●総務省

  • 新型コロナウイルス感染症対策関連

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/index.html

●法務省

  • 新型コロナウイルス感染症に関する情報はこちらに掲載しています。

http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/20200131comment.html

●外務省

  • 新型コロナウィルス感染症に関する緊急情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/

●文部科学省

  • 新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について

https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/index.html

●厚生労働省

  • 新型コロナウイルス感染症について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

●農林水産省

  • 新型コロナウイルス感染症について

https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/index.html

●経済産業省

  • 新型コロナウイルス感染症関連

https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html

●国土交通省

  • 新型コロナウイルス感染症に関する国土交通省の対応

https://www.mlit.go.jp/kikikanri/kikikanri_tk_000018.html

●環境省

  • 新型コロナウイルスに関連した感染症対策

https://www.env.go.jp/saigai/novel_coronavirus_2020.html

●自治体国際化協会

  • 新型コロナウィルス関連情報(支援者向け)

http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/info/contents/114514.php

9   国別情報

  • 中国

https://www.cn.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

  • 香港

https://www.hk.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

  • 台湾

https://www.koryu.or.jp/about/taipei/

  • インド

https://www.in.emb-japan.go.jp/Japanese/Corona_alerts_j.html

  • インドネシア

https://www.id.emb-japan.go.jp/shingatahaien_oshiraseichiran.html

  • マレーシア

https://www.my.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

  • フィリピン

https://www.ph.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

  • シンガポール

https://www.sg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/covid19.html

  • タイ

https://www.th.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

  • ベトナム

https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona_information.html

株主総会

担当: 渡辺徹 弁護士

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会①】

当社では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、決算・監査業務が遅延しており、決算手続きの完了する見込みがたちません。定時株主総会ではどのような対応を採るべきでしょうか?

対応策としては、①定時株主総会を延期する方式、②当初予定した時期に定時株主総会を開催した上で、継続会を開催する旨の決議を行い、継続会において決算報告等を行う方式が考えられます。

【参照資料】

・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会②】

当社では、決算・監査業務の遅延により、定時株主総会を延期することを考えています。定時株主総会を延期したことにより生じうる問題点について、教えてください。

定時株主総会を延期したことにより生じうる最も大きな問題点は、基準日を変更する必要があるため、定款所定の事業年度末日の基準日株主(3月決算の会社であれば、3月末日時点の株主)が、その後に株式を売却していた場合、配当を受けられなくなることです。配当を受ける権利は、総会決議を経て初めて発生するため、基準日株主が有するのは、配当を受ける期待に過ぎず、定時株主総会を延期したとしても、基準日株主に法的責任を負うものではないと解されています。もっとも、配当を受けられなくなった基準日株主からのクレーム等、実務上の混乱が生じるおそれがあります。

なお、定款において取締役会にて配当決議ができると定められている会社については、上記問題は生じません。

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会③】

定時株主総会を延期する場合、いつまで延期できるのでしょうか。

会社法上、定時株主総会は、事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとされています(296条1項)。一定の時期とはいつまでなのかが問題となりますが、今回の延期理由が計算書類承認手続きの遅延にあることに鑑みれば、有価証券報告書等の提出期限が本年9月末まで延長されたことが参考になります。

【参照資料】

・金融庁「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200414.html

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会④】

当社では、決算・監査業務の遅延により、当初予定した時期に定時株主総会を開催した上で、継続会を開催する旨の決議を行い、継続会において決算報告等を行うことを考えています。この場合、どのような手続をとる必要があるのでしょうか。

招集通知に継続会とする旨を予め記載した上、当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を得る必要があります。当初の株主総会においては、必要な決議事項の決議を行い、他方、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行います。

なお、招集通知の発送時点において、継続会の日時及び場所が確定できていない場合、それらの決定を議長に一任する決議を得ておき、後日、株主に周知する必要があります。

【参照資料】

・新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会⑤】

継続会は、当初予定されていた定時株主総会の開催日の経過後、いつまでに行わなければならないのでしょうか。

従前、継続会は当初の開催日から2週間以内に開催すべきであるとの見解がありましたが、本年の継続会は、計算書類の提供等が実務上困難であることから行われるものであり、計算書類の提供等が確実にできる日を継続会の日とする必要があります。この点、金融庁・法務省・経済産業省より、当初の開催日から「3ヶ月を超えないことが一定の目安になる」との指針が示されており、当初の開催日から3か月を超えない日で、確実に計算書類の提供等が可能な日に開催するべきであると考えます。

【参照資料】

・金融庁・法務省・経済産業省「継続会(317条)について」

https://www.fsa.go.jp/ordinary/coronavirus202001/11.pdf

【決算・監査業務の遅延と定時株主総会⑥】
当社では、定時株主総会までに決算手続きが完了する見込みはたっているものの、印刷等が間に合わず、招集通知に際して貸借対照表や損益計算書を書面で株主に提供できる見込みがたちません。このような場合であっても、必ず①定時株主総会の延期又は②当初予定した時期に定時株主総会を開催した上で、継続会を開催する旨の決議を行い、継続会において決算報告等を行うといった対応をとらなければならないのでしょうか。

令和2年5月15日、会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(法務省令第37号)が公布・施行されたことに伴い、定時株主総会の招集の通知に際して書面により株主に提供することが求められていた貸借対照表や損益計算書などについても、一定の条件の下(例えば、「会計監査報告に無限定適正意見が付されていること」、「ウェブ開示をする際、株主の利益を不当に害することがないよう特に配慮すること」等)、当該事項に係る情報を定時株主総会に係る招集通知を発出する時から株主総会の日から3ヶ月が経過するまでの間、継続してインターネット上のウェブサイトに掲載し、そのURLを株主に通知すれば、株主に提供されたものとみなされることになりました。

このため、ご質問のケースでは、一定の条件を満たすのであれば、①定時株主総会の延期又は②当初予定した時期に定時株主総会を開催した上で、継続会を開催する旨の決議を行い、継続会において決算報告等を行うといった対応をとらずに、定時株主総会を開催することができます。

 

【参照資料】

・法務省「定時株主総会の開催について」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

・会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)の条文

http://www.moj.go.jp/content/001319803.pdf

 

・法務省「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令(令和2年法務省令第37号)について」

http://www.moj.go.jp/content/001319873.pdf

【株主総会前日までの準備①】

事前に、株主総会への来場の自粛要請をすることは可能でしょうか?

感染拡大防止策の一環として、招集通知や自社のホームページにおいて、株主に対して来場の自粛要請をすることは可能です。特に、妊婦や高齢者、基礎疾患等を有する株主に対しては、自身の安全のために出席辞退を要請している例もあり、そのような対応をとることも可能です。

・経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

【株主総会前日までの準備②】

新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限することは可能でしょうか?

株主に来場を控えるよう呼びかけることに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能です。

現下の状況においては、その結果として、設定した会場に株主が出席していなくても、株主総会を開催することは可能と考えられています。

【参照資料】

・経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

【株主総会前日までの準備③】

株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させることは可能でしょうか?

会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能です。

なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えられます。

【参照資料】

・経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

【株主総会前日までの準備④】

インターネットを利用した株主総会を実施しようと思いますが、可能でしょうか?

まず、現行法の下では、「場所」(会社法298条1項1号)を定めることが求められていることから、株主が出席しない「無人」の総会をインターネット上のみ(いわゆる「バーチャルオンリー型株主総会」)で開催することはできません。

他方で、株主が集まる実際の総会を開催しつつ、同時にインターネットを中継する方法(いわゆる「ハイブリッド型バーチャル株主総会」)は、会社法に抵触せず、開催することができます。

ハイブリッド型バーチャル株主総会は、審議の傍聴にとどまり株主総会への会社法上の「出席」を伴わない「参加型」と、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる「出席型」に分類されます。

【株主総会前日までの準備⑤】

インターネットを利用した株主総会(ハイブリッド型バーチャル株主総会)を実施する場合、留意すべき事項はありますか?

ハイブリッド型バーチャル株主総会は、審議への参加機会を拡張する取組みであり、出席型であれば、更に質問権及び議決権の行使を可能にするため、総会の長時間化を伴ってしまいます。インターネットで参加又は出席する株主は安全を確保できているとしても、総会の長時間化は現実の総会上の臨席者(出席株主・役員・総会スタッフ)の感染リスクを高めることになりかねません。

また、出席型の場合、株主の質問権及び議決権を認めることから、通信障害への対策やアクセスする環境の整備、本人確認が必要となり、相応の準備の負担も生じます。

【参照資料】

・経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」

https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

【株主総会前日までの準備⑥】

株主から、新型コロナウイルスの感染拡大に関する質問は、どのようなものが想定されますか。

新型コロナウイルスの感染拡大に関して問われる可能性のある質問は、以下の事項の質問が予想され、各事項について、具体的な回答を準備しておくことが考えられます。

【業績や事業活動に与える影響】
・新型コロナウイルスの感染拡大により当社の業績に与える影響はどうか。
・仮に、業績への悪影響が生じている場合、今後、どのような施策を検討し実施していくのか。
・当社は海外の生産拠点を構えているが、現地の稼働状況はどのようになっているのか。また、今後の見込みはどうか。

【感染状況及び罹患予防】
・新型コロナウイルスに感染した役職員又は家族等の感染が発覚したことにより自宅待機をしている役職員はいるのか。
・仮に、感染している役職員がいる場合、どのような措置を講じているのか。
・感染予防のために、どのような対策をとっているのか。
・テレワーク、在宅勤務等の対応ができているのか。

【株主総会当日の対応(運営上の留意点)①】

会場設営等に関して、留意すべき事項はありますか?

感染拡大を防止するため、以下のような対応をとることが考えられます。

① 株主席の十分な間隔を確保する
② 受付での検温・消毒の実施をする
③ 出席株主への提供用のマスクを用意し、マスクを着用していない株主にマスクを配布のうえ、着用の呼びかけをする
④ マイクはスタンドに固定し、かつ、株主の質問が終わるごとにマイクの消毒を行う
⑤ 会場のドアを開放し、空気が入れ替わるようにする

【株主総会当日の対応(運営上の留意点)②】

発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じることは可能ですか?

議長には、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限があり(会社法315条)、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。

ただし、株主の議決権や質問権の不当な制限とならないように、事前に、招集通知や自社のホームページにおいて、罹患が疑われる株主等については、入場を制限したり、退場を命じる可能性がある旨を告知すべきであると考えます。

【参照資料】

・経済産業省「株主総会運営に係るQ&A」

https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html

【株主総会当日の対応(運営上の留意点)③】

総会の議事の進め方に関して、工夫すべき事項はありますか?

感染拡大を防止するため、総会の所要時間を短縮する必要があると考えます。

具体的には、①事業報告及び(連結)計算書類の内容の報告の短縮、②監査報告の短縮又は省略、③議案の上程の際の説明の短縮が考えられます。他方、株主の質問の制限については、株主総会決議取消事由に該当しないような配慮が必要となります。具体的には、①総会の冒頭で目標終了時刻を明示すること、②株主の質問数を制限することを質疑応答の際に明示することの配慮が考えられます。

M&A

担当: 田島圭貴 弁護士 中嶋隆則 弁護士

【契約締結済のM&Aの中止 ①】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(以下「パンデミック」といいます。)に起因して、買収対象会社の業績が大幅に悪化しているようなのですが、今から買収契約を解除して買収を中止することは可能でしょうか?

まずは買収契約の解除事由を全て確認し、パンデミックを含む現在の事実関係を前提に利用できそうな解除事由がないかを確認します。
仮にそのような解除事由がない場合であっても、いわゆるMAC(Material Adverse Change)の不発生がクロージング(買収実行)の前提条件とされている場合や、MACの不存在が売主による表明保証事項に含まれており、かつ当該表明保証が正確であることがクロージングの前提条件とされている場合には、クロージングを拒否することにより、結果として買収を中止できる可能性があります。

【契約締結済のM&Aの中止 ②】
MAC(Material Adverse Change)とは、具体的にはどのような内容のものなのでしょうか?

MACについて規定している条項をいわゆるMAC条項といいますが(MAE(Material Adverse Effect)条項と呼ばれる場合もあります。)、これは、簡単にいいますと、買収対象会社の事業、資産、キャッシュフロー等に重大な悪影響を及ぼす状況の変化(MAC)が生じていないことをクロージングの前提条件等とするものです。
日本国内の取引では、比較的シンプルな内容のMAC条項が採用されることが多いですが、特に米国等の海外での取引やクロスボーダーの取引では、何がMACに該当するかにつき詳細な定義を設ける実務が定着しています。
MAC条項の主な機能は、買収契約の締結時には予測できない状況の変化に起因して買収対象会社の事業等に悪影響が生じるリスクを売主・買主間で配分することにあり、その内容は具体的な案件毎に様々です。実務上は、自然災害や戦争等の社会全体・業界全体に及ぶ状況の変化はMACの定義から除外されることが多く、そのように定めた場合は、仮に社会全体・業界全体に及ぶ状況の変化に起因して買収対象会社の業績が大幅に悪化する等しても、MAC条項を根拠に買収を中止することはできないことになります(なお、社会全体・業界全体に状況の変化が及んでいる場合であっても、買収対象会社について特に突出して状況の変化が及んでいるようなときについては、例外の例外としてMACに該当すると定めることもあります。)。
したがって、パンデミックがMACに該当するかどうかを判断するためには、まずは、今回の買収契約のMAC条項の内容を丹念に読み込むことが必要です。

【契約締結済のM&Aの中止 ③】
パンデミックは、MACに該当するでしょうか?

パンデミックがMACに該当するかは、MAC条項の具体的文言を踏まえて個別に検討する必要がありますが、特に、買収対象会社の事業が、旅行業、ホテル業、航空産業、外食産業、リテール・ビジネス等で、パンデミックにより甚大な悪影響を受けている場合は、MACに該当すると判断される場合もあると思います。もっとも、前述したように、社会全体・業界全体に及ぶ状況の変化がMACの定義から除外されている場合には、MACに該当すると判断される可能性は低くなります。さらに、米国の裁判実務では、MACの意味を限定的に解釈し、MACへの該当性をかなり厳しく判断する傾向があることに注意が必要です。例えば、デラウェア州の裁判例には、MACに該当するためには、悪影響が重大なものであることに加えて、その影響が年単位の長期にわたるものであることを要求するものもありますので、パンデミックの影響がどの程度・期間まで及ぶかがまだまだ不透明な現時点においては、MACへの該当性について高い精度で検討することは困難といわざるをえません。
このように、MACへの該当性には相当の不透明さが伴いますが、かかる不透明さゆえに、契約条件の再交渉に臨む動機を当事者に与える機能があることが指摘されています。再交渉が奏功するかどうかは個別事案によると言うほかありませんが、MACを巡る法的な権利関係を適切に理解した上で、柔軟な姿勢で解決の途を探ることが肝要でしょう。

【契約締結済のM&Aの中止 ④】
パンデミックがMACに該当しない場合に、買収契約を解除して買収を中止する方法はあるでしょうか?

買収契約に定められているクロージングの前提条件を確認し、MACの不存在以外の前提条件で未充足のものがある場合は、それを根拠にクロージングを拒否することにより、結果として買収を中止することができる可能性があります。
クロージングの前提条件には、MACの不存在以外に、例えば、政府当局からの承認の取得や第三者からの同意の取得が定められていたり、上記のように、表明保証が正確であることが定められていたりすることがあります。
まず、政府当局からの承認の取得や第三者からの同意の取得に関しては、パンデミックに起因して通常より手続きが大幅に遅延している場合がありますが、仮に買収契約上のドロップ・デッド・デイト(その期日までにクロージングが完了しなければ、契約解除が可能となるもの)までに取得できなければ、買収契約を解除できることになります。
また、表明保証が正確であることに関しては、売主による表明保証事項の具体的内容にもよりますが、例えば、パンデミックに起因して買収対象会社が締結している主要な契約の状況等について表明保証の内容と実際の状況との間に乖離が生じ、表明保証違反が生じている可能性があります。
表明保証違反の主な効果は、①クロージングの前提条件の不充足、②契約の解除事由及び③補償請求ですので、理論上は、①又は②を根拠に買収を中止することも可能です。
もっとも、法域にもよるものの、③補償請求と比較して、①又は②を根拠とした契約解除の主張は認められにくい場合がありますので、あくまでその前提で売主側との交渉を進める必要があると思います。

【今後M&Aを実施する際の留意点 ①】
デューディリジェンスについて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(以下「パンデミック」といいます。)との関係で気を付けるべきことはありますか?

まず、デューディリジェンスのプロセス面についてですが、現状、ロックダウンが継続している都市では、買収対象会社を訪問して資料の確認や経営陣・従業員に対するインタビューを実施することは不可能ですし、ロックダウンが解除された後も、当面の間、ソーシャル・ディスタンシングは継続され、経営陣等とのミーティングもビデオ会議や電話会議が中心となることが予想されます。また、テレワークの影響により、特に紙媒体の資料については開示に時間がかかることも予想されることから、かかるプロセスの不確実さを踏まえた上で、余裕を持ったスケジュールを策定しておくことが必要です。
次に、デューディリジェンスの内容面についてですが、パンデミックが買収対象会社の事業等に現に及ぼしている/及ぼし得る影響について可能な限り把握する必要があります。買収対象会社の業種にもよりますが、一般的に特に着目すべき事項としては、事業の持続可能性に関するプラン、仕入先・販売先との関係・代替性の有無、ITシステムと情報セキュリティ、重要な契約の状況(特に、パンデミックを受けて、契約の不履行・履行停止、契約条件の再交渉、解除等の状況が発生していないか、及び契約中に不可抗力条項、解除条項等のかかる状況に対応する条項が設けられているか)、在庫・売掛金の状況、買収対象会社及び売主の保険への加入状況等が挙げられます。
パンデミックの影響がどの程度・期間まで及ぶかが不透明である現状を踏まえますと、通常時と同内容のデューディリジェンスを実施するだけでは足りず、パンデミックに起因して生じうる問題まで踏まえたデューディリジェンスを実施することによって、買収対象会社の事業等がどの程度パンデミックの影響を受けうるかを把握し、適切に買収契約に反映することが必要であると思います。

【今後M&Aを実施する際の留意点 ②】
買収対価について、パンデミックとの関係で気を付けるべきことはありますか?

事業環境の見通しが不透明であり、市場の変動の激しい現状においては、売主側及び買主側のいずれにおいても、買収対象会社の価値の変動リスクに対応するため、買収対価に関して、何らかの価格調整のメカニズムを採用することを検討するべきと考えます。
具体的なメカニズムとしては、クロージング時点の経済指標(ワーキング・キャピタルが最も一般的です。)に基づき買収価格を調整するクロージング・アカウントと呼ばれる価格調整の方法や、クロージング後一定期間における買収対象会社のパフォーマンスに基づき追加で対価を支払うアーンアウト等の方法が実務上一般的です。アーンアウトについては、クロージング後の買収対象会社のパフォーマンスをどのように評価するかや、クロージング後の買収対象会社の事業に売主がどの程度関与しうるか等、現実的に難しい問題をクリアしなければならず、一般的に運用が難しいと言われるところではありますが、例えば特定の許認可が得られること等の非経済指標を採用したり、アーンアウトの評価対象期間を通常より長く設定したりすることで、パンデミックが収束した後の買収対象会社の業績の回復を評価に取り込める可能性があります。
また、上場会社によるM&Aの場合には、買収対価の一部又は全部を買主の株式とすることで、買収対象会社の価値変動のリスクを緩和することも可能と考えます。

【今後M&Aを実施する際の留意点 ③】
売主による表明保証について、パンデミックとの関係で気を付けるべきことはありますか?

まず、買主の立場からは、デューディリジェンスを通じて発見したパンデミックに起因するリスクについて売主に適切な内容の表明保証を要求し、かかるリスクを可能な限り売主側に負わせることを検討するべきです。
逆に、売主の立場からは、パンデミックに起因するリスクを表明保証の対象から除外することで、かかるリスクを可能な限り買主側に負わせることを検討するべきです。
具体的には、デューディリジェンスで調査すべきパンデミックに起因するリスクのうち、仕入先・販売先との関係、ITシステムと情報セキュリティ、重要な契約の状況、在庫・売掛金の状況等についてはパンデミックにより悪影響を受ける可能性が高いと思いますが、例えば「買収対象会社とその主要な取引先との間の取引関係は、クロージング後も同様の条件で継続する見込みであり、契約を解除し、又は取引量を著しく減少させる旨の通知はなされていない。」という趣旨の表明保証事項がある場合には、売主の立場からは、「ただし、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に直接的又は間接的に起因し、又は関連するものは除く。」といったただし書きを追記することにより、パンデミックに起因するリスクを表明保証の対象から除外することが可能です。
また、仮に上記のようにパンデミックに起因するリスクを広範に除外することが買主側に応諾されなかった場合であっても、例えば、該当する表明保証事項について「知る限り」の限定や重要性に基づく限定を付すこと等によって、パンデミックに起因して不透明さが増した将来の事実等について広範な表明保証責任を負わないようにすることも可能です。いずれにせよ、通常よりも更に慎重に各表明保証事項の内容・範囲について検討することが必要といえます。

【今後M&Aを実施する際の留意点 ④】
売主によるコベナンツ(誓約事項)について、パンデミックとの関係で気を付けるべきことはありますか?

売主の立場からは、買収契約締結後クロージングまでの間の、買収対象会社の事業運営に関する誓約事項の内容について、特に注意が必要です。
買収契約においては、案件毎に内容や程度の差はあるものの、売主に対して、契約締結後クロージングまでの期間について、買収対象会社をして過去の事業運営と一貫した通常の事業運営を継続させることの誓約を求めるのが通常です。また、一般的には、「売主が買収契約に定められた全ての義務を重要な点において履行していること」がクロージングの前提条件として定められていますので、売主が上記誓約事項について重大な違反をすると、買主から、クロージングの前提条件を充足していないことを根拠に、買収の中止を主張される可能性もあります。
パンデミックについて見ると、パンデミックの渦中に置かれた事業者は、政府命令による都市のロックダウン、資金繰りの悪化、サプライ・チェーンの途絶等、日々大きく変化する事業環境に迅速に対応しなければならず、事業所の縮小や閉鎖、従業員の一時解雇等を余儀なくされるケースも珍しくありません。買収対象会社がそのような状況に陥った場合、前述したような「過去の事業運営と一貫した通常の事業運営」からは逸脱したと評価される可能性があり、特に、買収対象会社の事業に及ぼす影響の大きい意思決定をする際に買主から事前の同意を取得していないときは、誓約事項への違反を主張される可能性があります。
売主の立場としては、誓約事項の内容について、特定の行為を行わないという内容ではなく、特定の行為を行わないよう合理的な努力を尽くすという内容にする、パンデミックに関する政府命令に対応するためになされた行為や、かかる行為でかつ同一業界内の類似のポジションにある他社の行為に追従するものを除外する等の対応が可能です(なお、いずれの対応にせよ、かかる除外事由に該当するかは不明確さを伴うことから、現時点で具体的に想定しうる行為(サプライヤーの変更、重要な契約の変更、事業所の縮小や閉鎖、従業員の一時解雇等)については、上記の誓約から除外される行為として例示列挙しておくことも有用と考えます。)。
また、仮にかかる除外が買主側に応諾されなかった場合、買収対象会社によるパンデミックへの対応が遅延することにより不当な損害を被ることを可能な限り避けるためには、買主による承諾が不当に留保されない旨明示することや、承諾をするかしないかの回答について期限を設けること等が有用となります。

【今後M&Aを実施する際の留意点 ⑤】
クロージングの前提条件について、パンデミックとの関係で気を付けるべきことはありますか?

買主の立場からは、パンデミックに起因するリスクに柔軟に対応するために、いわゆるMAC(Material Adverse Change)条項(買収対象会社の事業、資産、キャッシュフロー等に重大な悪影響を及ぼす状況の変化が生じていないことをクロージングの前提条件等とするもの)を可能な限り広範に規定しておくことが有用です。
具体的には、①「将来の収益計画・収益見込み」をその対象に加えたり、上記の「重大な悪影響を及ぼす状況の変化」に加えて「重大な悪影響を合理的に及ぼし得る状況の変化」もその範囲に含めたりすることでMAC条項の適用範囲を拡大する、②MAC条項の除外事由を可能な限り限定する(社会全体・業界全体に及ぶ状況の変化であっても広範に除外せず、また、少なくとも買収対象会社について特に突出して状況の変化が及んでいるような場合はMACの範囲に含める等)、及び③「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に起因するもの」がMACに該当する旨を明示的に規定する等の対応が可能です。
また、かかるMAC条項の他には、買収対象会社の事業環境の不確実性に対処するため、一定の事由をクロージングの前提条件に追加することも検討すべきです。具体的には、①一定期間における経済的パフォーマンスの達成、②特定の事業・事業所が停止・閉鎖されていないこと、③特定の契約相手方との関係が継続していること等をクロージングの前提条件とすることが考えられます。
また、上記のとおり、クロージングの前提条件のうち政府当局からの承認(競争当局のクリアランスの取得等)や第三者からの同意に関しては、パンデミックに起因して通常より取得に時間を要する可能性があることを踏まえ、ドロップ・デッド・デイトまでの期間を通常より長めに設定する等の考慮も必要と考えます。
その他方で、売主側及び買主側のいずれについても、例えば競争当局のクリアランスの取得や当事者の株主総会による承認の取得を前提条件とした場合、これらは相手方当事者の任意の協力なくして充足できない場合も多いことから、パンデミックの状況に応じて当該買収を中止させたい相手方により買収の中止を主張する根拠として利用される可能性もあります。
したがって、クロージングの前提条件や解除事由等、買収の成否にかかわる条項については、かかる利用を防ぐために、通常以上に慎重に内容を確認する必要があるといえます。

訴訟/国際仲裁

担当: 児玉実史 弁護士

【訴訟実務】
新型コロナウイルスの影響で、裁判は止まってしまっているのですか?

人が集まって感染が拡大する事態を避けるため、民事事件(個人や企業の間の、お金の支払いや契約の履行などを求める裁判)や、家事事件(離婚や相続などの裁判)については、多くの裁判所で、緊急事態宣言の発令期間中の期日が取り消され、いったん進行が止まりました。緊急事態宣言の解除に伴って、新たな期日が指定されていますが、長い場合は当初予定よりも2か月以上遅延しています。
刑事事件(犯罪をしたとして、懲役などの求刑がなされる裁判)では、被告人が拘置所などに勾留されている事件については、裁判なしに人を長期間拘束してはいけないので、なるべく予定通り審理・判決をする方針ではありましたが、それでも一部延期され、被告人が保釈されるなど、身柄が拘束されていない事件では、期日が取り消されて遅延が生じています。

【参照資料】

・(大阪の裁判所の)新型コロナウイルス感染症への対応について
https://www.courts.go.jp/osaka/index.html

・(東京地方裁判所の)緊急事態宣言解除後の期日等の実施について

https://www.courts.go.jp/tokyo/about/osirase/korona/index.html

https://www.courts.go.jp/tokyo/about/osirase/korona7-15/index.html

・(福岡地方裁判所の)裁判所を利用される方へ

https://www.courts.go.jp/fukuoka/news/index_html/vcms_676.html

(他の地域の裁判所も、同様の対応をしているところが多数あります)

【裁判のオンライン対応①】
裁判は、人が裁判所に集まることなく、オンラインではできないのですか。

日本の民事裁判では、ちょうど今年(2020年)の2月から、一部の裁判所で、審理の一部について、当事者や代理人が裁判所に出頭せずにウェブ会議で行うというやり方の試行が始まったところです。しかし、現在オンラインでできるのは、事前に紙の書面で提出した主張や証拠に基づいて、争点を明確にしていったり、進行を協議したりする期日に限られており、民事裁判手続全体の中ではまだまだ一部にすぎません。
【参照資料】
・日弁連新聞第545号「民事裁判手続のIT化の検討状況」
https://www.nichibenren.or.jp/document/newspaper/year/2019/545.html

【裁判所のオンライン対応②】
今後はオンラインで裁判ができるようになるのですか?

日本政府は、法律を改正したうえ、2022年度から23年度にかけて、幅広くオンラインで期日を進められるようにし、さらに2025年度には、訴状の提出を含め、訴訟記録も電子化したい考えだと報じられています。

【裁判所外での紛争解決】
裁判以外で、現在オンラインで紛争解決はできるのですか?

当事者が合意をすれば、国の裁判所を使わず、民間で仲裁や調停という手続により紛争を解決することもできます。民間の仲裁や調停では、法律に縛られずに柔軟に手続を進められるので、従前から、申立てもその後の手続も、電子メールや電話会議、ウェブ会議を使って効率化を図っていました。
さらに、今回のコロナ禍をきっかけに、申立てから解決まで、すべての手続をオンラインで行って、人の行き来が制限される中でも遅延なく紛争を解決できるようにしよう、という動きが急速に進んでいます。
特に、国際ビジネスに関する紛争を解決する方法の主流ともいえる国際仲裁の分野では、世界各地の仲裁機関を中心に、証人尋問も含めて、画像や音声も鮮明で、かつセキュリティも確保した通信手段を使って、オンラインでスムーズに紛争解決を完結できるよう、さまざまな工夫が発表されています。
【参照資料】
・ICC Guidance Note on Possible Measures Aimed at Mitigating the Effects of the COVID-19 Pandemic
https://iccwbo.org/publication/icc-guidance-note-on-possible-measures-aimed-at-mitigating-the-effects-of-the-covid-19-pandemic/
・Maxwell Chambers Offers Virtual ADR Hearing Solutions
https://www.maxwellchambers.com/2020/02/18/maxwell-chambers-offers-virtual-adr-hearing-solutions/
(他の機関等でも、オンライン審理についての対応策の発表を続々と行っています)

資金繰り対策/事業再生

担当: 中森亘 弁護士 堀野桂子 弁護士 藤原誠 弁護士 太田慎也 弁護士

【資金繰りに窮した場合の対応策(概要)】

資金繰りが苦しくなり、金融機関に融資の相談をしたものの難しい状況です。このままでは資金ショートのおそれがありますが、どのような対応策があるでしょうか。

資金繰りが苦しくなり、借入金を含め債務の返済が困難になった場合には、まずは個別に支払猶予をお願いすることになりますが、そうした個別交渉では難しく、また、一時しのぎ的な対応では乗り切れないと判断される場合には、専門家に依頼して何らかの手続をとることが望ましいと考えられます。その際、手続として利用できる制度には、大きく分けて、民事再生、会社更生などの「法的整理手続」と、法的整理手続によらずに債務の整理を行う「私的整理手続」があります。

「私的整理手続」は、金融債権者のみを対象として、商取引債権は約定どおり支払うことができますので、事業価値を維持したまま事業を継続・再建できるというメリットがあります。このため、まずは「私的整理手続」による再建の可能性を検討し、それがどうしても難しい場合に「法的整理手続」検討することになります(詳細は「Q 【新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 私的整理手続と法的整理手続の違い】」を参照)。

未曾有の事態で全国の企業・事業者が資金繰りに苦しんでいる状況です。借入金や賃料、買掛金等の支払猶予を要請するとともに経費の削減も行いつつ、国や自治体等による支援制度をできるだけ活用し、それでも難しい場合、あるいはそれらと平行して、上記の「私的整理手続」や「法的整理手続」の利用も視野に入れて、この事態を乗り越えましょう。

なお、新型コロナウイルスを原因とする資金繰り悪化に対する支援制度に関しては、以下のQ&Aをご参照ください。

当事務所では、大阪・東京・福岡の三都市に拠点を有し、各拠点に豊富な知識と経験を有した弁護士及びスタッフを多数そろえております。まずはご相談ください。

【新型コロナウイルス対策の資金繰り支援制度について】

新型コロナウイルスの影響を受けて売上げが減少しましたが、どの資金繰り支援制度を利用できるかがよくわかりません。どれだけ売上高が下がったら利用できるのか、また、利用できる業種に限定があるのかなど、教えてください。

新型コロナウイルスの影響により売上げの減少がある場合、売上高の減少の程度に応じ て、利用できる制度が分かれます。また、選択できる制度は一つとは限りません。例えば、前年同月比売上高が15%減少した場合は、危機関連保証と新型コロナウイルス感染症特別貸付の双方に該当します。

以下のご説明は、大まかな要件を記載したものです。利用できそうな制度が確認できましたら、詳細な要件や具体的な申請方法等については、記載しておりますウェブサイト等をご確認ください。資金繰り支援制度全般については、経済産業省の新型コロナウイルス関連証関連特設ウェブサイトをご参照ください。(https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html

 

売上高の減少割合(前年等との比較)

売上高の減少割合(前年等との比較) 該当項目
▲50%以上 ①へ
▲20%以上 ②へ
▲15%以上 ③へ
▲10%以上 ④へ
▲5%以上 ⑤へ
減少なし ⑥へ

① 売上高が前年同月比で▲50%以上減少の場合

制度 給付額 対象企業 申請方法 その他 制度詳細
持続化給付金 ・法人:200万円

・個人事業者:100万円

・昨年1年間の売上からの減少分が上限

・中堅企業、中小企業、小規模事業者、個人事業者、会社以外の法人(医療法人等) ・電子申請 ※1 ・2019年創業の方や、売上期間に偏在がある場合は特例あり リンク

※1 申請要領

中小法人向け (https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_chusho.pdf

個人事業者向け(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin_kojin.pdf

 

② 売上高が前年同月比▲20%以上減少の場合

制度 保証内容 対象業種 申請方法 保証料減免 制度詳細
セーフティネット保証4号 ・借入債務の100%を信用保証協会が保証

・一般保証とは別枠で2.8億円(セーフティネット保証5号と共有)

・対象地域:47都道府県

・対象業種:全業種

 

・市区町村に対する認定申請や信用保証協会への保証申し込みに際して、民間金融機関が必要書類の事前確認や代理申請を実施 ・信用保証付融資における保証料・利子減免制度の対象

※1

リンク

※1 保証料・利子減免制度

区分と減免内容 小・中規模事業者 売上高前年同月比▲15%以上 保証料・金利ゼロ
同上 売上高前年同月比▲5%以上 保証料1/2
個人事業主(事業性のあるフリーランス含む、小規模のみ) 売上高前年同月比

▲5%以上

保証料・金利ゼロ
融資上限 3000万円
補給期間 保証料は全融資期間、利子補給は当初3年間

制度の詳細

https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200501008/20200501008.html

 

③ 売上高が前年同月比▲15%以上減少の場合

制度 保証内容 対象業種 申請方法 保証料減免 制度詳細
危機関連保証 ・借入債務の100%を信用保証協会が保証

・一般保証、セーフティネット保証枠とは別枠で2.8億円

・対象業種:全業種

 

・市区町村に対する認定申請や信用保証協会への保証申し込みに際して、民間金融機関が必要書類の事前確認や代理申請を実施 ・信用保証付融資における保証料・利子減免制度の対象 リンク

④ 売上高が前年または前々年同期比▲10%以上減少の場合

制度 融資内容 対象業種 金利等 利子補給 制度詳細
衛生環境激変対策特別貸付 ・融資元:日本政策金融公庫

・融資限度額:別枠1000万円(旅館業は別枠3000万円)

・旅館業、飲食店営業及び喫茶店営業

 

・基準金利

・振興計画の認定を受けた生活衛生同業組合の組合員は基準金利▲0.9%

・据置期間2年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用なし リンク

⑤ 売上高が前年または前々年同期比▲5%以上減少の場合(※1)

制度 保証/融資内容 対象業種 申請方法/金利等 保証料減免/利子補給 制度詳細
セーフティネット保証5号 ・借入債務の80%を信用保証協会が保証

・一般保証とは別枠で2.8億円(セーフティネット保証5号と共有)

・全業種

 

・市区町村に対する認定申請や信用保証協会への保証申し込みに際して、民間金融機関が必要書類の事前確認や代理申請を実施 ・信用保証付融資における保証料・利子減免制度の対象 リンク
新型コロナウイルス感染症特別貸付 ・融資元:日本政策金融公庫

・融資限度額:中小事業3億円、国民事業6000万円(いずれも別枠)

・全業種 ・当初3年間基準金利▲0.9%、4年目以降基準金利

・据置期間5年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用あり

※2

リンク
商工中金による危機対応融資 ・融資元:商工組合中央金庫

・融資限度額:3億円(別枠)

 

・全業種 ・当初3年間基準金利▲0.9%、4年目以降基準金利

・据置期間5年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用あり

※2

リンク
新型コロナウイルス対策マル経融資 ・融資元:日本政策金融公庫

・融資限度額:1000万円(別枠)

・全業種

(小規模事業者)

・当初3年間、経営改善利率▲0.9%

・据置期間3年または4年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用あり

※2

リンク
生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付 ・融資元:日本政策金融公庫

・融資限度額:6000万円(別枠)

・生活衛生関係の事業者全18業種

※3

・当初3年間基準金利▲0.9%、4年目以降基準金利

・据置期間5年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用あり

※2

リンク
新型コロナウイルス対策衛経融資 ・融資元:日本政策金融公庫

・融資限度額:1000万円(別枠)

・生活衛生同業組合などの経営指導を受けている生活衛生関係の事業を営む小規模事業者 ・当初3年間、経営改善利率▲0.9%

・据置期間3年または4年以内

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用あり

※2

リンク

※1 セーフティネット保証5号は、「前年同月比」▲5%以上減少の場合

※2 特別利子補給制度

区分と減免内容 中小企業者 売上高前年同月比▲20%以上
小規模事業者(法人) 売上高前年同月比▲15%以上
小規模個人事業主 要件なし
補給上限 日本政策金融公庫:中小事業1億円、国民事業3000万円

商工中金:危機対応融資1億円

新規融資と既往債務借換の合計額

補給期間 借入後当初3年間
借換制度 日本政策金融公庫、商工中金の既往債務の借換も利子補給の対象

制度の詳細は、経済産業省のホームページ等で公表予定

※3

生活衛生関係の事業者18種は以下のとおり

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/seikatsu-eisei03/01.html

 

⑥ 売上高の減少がない場合

制度 融資内容 対象業種 金利等 利子補給 制度詳細
セーフティネット貸付の要件緩和 ・融資元:日本政策金融公庫

・中小事業;7.2億円、国民事業4800万円(いずれも同枠)

・今後の影響が見込まれる事業者

 

・基準金利

 

・特別利子補給制度、既往債務の借換制度の適用なし リンク

 

【新型コロナウイルス対策の資金繰り支援制度について 資本支援制度】

新型コロナウイルスの影響で売上げが減少し、融資を受けてきましたが、赤字収支が続き、このままでは債務超過に陥りそうです。このような場合に、資本支援を受けられる制度があると聞いたのですが、具体的に教えてください。

売上げが大幅に減り、融資だけでは立ち行かない中堅・中小企業を対象として、地域経済活性化支援機構(REVIC)が資本注入する制度が新設される予定です。

現時点では、対象となる企業の規模は、売上高10億円以上、従業員数50名以上で、新型コロナウイルス感染症の収束後に経営を立て直すことができる見込みがあることが要件とされる予定です。取引金融機関がREVICに出資を要請し、REVICが再建可能性を判断して実行することが想定されています。資本注入の方法としては、普通株や優先株の引き受け、劣後ローンの利用などが考えられます。

支援制度の詳細が決定しましたら、更新いたします。

【新型コロナウイルス対策の資金繰り支援制度について 地方自治体の制度】

都道府県の要請を受けて休業をしました。この休業に対して、地方自治体から協力金や支援金の交付を受けられる場合があると聞いたのですが、具体的に教えてください。

都道府県の休業等の要請等を受けて休業等をした場合に、地方自治体によっては協力金や支援金の支給を受けられる場合があります。地方自治体によって、その支給条件や制度の検討状況が異なりますので、ここでは、既に申請受付を開始している東京都・大阪府の制度をご紹介します。

 

◆東京都:感染拡大防止協力金

要件 以下のすべてを満たすこと

①東京都内に主たる事業所又は従たる事業所を有し、かつ、中小企業基本法(昭和38年法律第154号)第2条に規定する中小企業及び個人事業主で、大企業が実質的に経営に参画していない事業者であること(以下「中小企業・個人事業主」)。

②緊急事態措置を実施する前(令和2 年4月10日以前)から、次のいずれかの対象施設(※1)に関して必要な許認可等を取得の上、運営していること。

(1)「基本的に休止を要請する施設」に属し、休止を要請されている施  設

(2)「施設の種別によっては休業を要請する施設」に属し、休止を要請されている施設

(3)「社会生活を維持するうえで必要な施設」の内、「食事提供施設」に属し、営業時間短縮の協力を要請されている施設

③緊急事態措置の全ての期間(令和2年4月11日から5月6日まで)の内、少なくとも令和2年4月16日から5月6日までの全ての期間において、東京都の要請に応じ、休業等を行っていること

④申請事業者の代表者、役員又は使用人その他の従業員若しくは構成員等が東京都暴力団排除条例第2条第2号に規定する暴力団、同条第3号に規定する暴力団員又は同条第4号に規定する暴力団関係者に該当せず、かつ、将来にわたっても該当しないこと。また、上記の暴力団、暴力団員及び暴力団関係者が、申請事業者の経営に事実上参画していないこと。

支給額 50万円(2事業所以上で休業等に取り組む事業者には100万円)
申請手続 令和2年4月22日(水)から6月15日(月)までに、申請書類をWeb、郵送または持参で提出することで申請できます。

なお、東京都では、申請にあたって税理士、公認会計士などの専門家による事前の書類確認を経ることを推奨しています(その費用についても一定の基準により東京都が別途措置することになっています)

※1 対象施設一覧

https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/1007617/1007679.html

詳細は、東京都の「東京都感染拡大防止協力金のご案内」(https://www.tokyo-kyugyo.com/)をご参照ください。

 

◆大阪府:休業要請支援金(府・市町村共同支援金)

要件 ①令和2年3月31日以前に開業し、営業実態のある中小企業・個人事業主であること(ただし、反社会的勢力と関係を有する事業者は対象外)。

②大阪府内に主たる事業所を有していること。
中小企業:本社が大阪府内にあること。
個人事業主:事業所が大阪府内にあること。

③大阪府の「施設の使用制限の要請等」を受け、令和2年4月21日から5月6日までの全ての期間において、支援金の対象となる施設を全面的に休業する、当該施設(※1)の運営事業者であること(食事提供施設の運営事業者は、営業時間を午前5時から午後8時までの間へと短縮する等の協力を行った場合のみ)。

④令和2年4月の売上が前年同月対比で50%以上減少していること。

支給額 中小企業 100万円

個人事業主 50万円

申請手続 令和2年4月27日(月)から同年5月31日までに、Web又は郵送で申請できます。

※1 支援金 対象・対象外 施設一覧

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38322/00000000/shisetsu0502.pdf

 

詳細は、大阪府の「『休業要請支援金(府・市町村共同支援金)』について」(http://www.pref.osaka.lg.jp/keieishien/kyugyoshienkin/index.html)をご参照ください。

 

なお、本日時点で、福岡県では協力金等の支給は発表されていませんが、福岡市では休業等要請に従った事業者に対する家賃支援が検討されています(福岡市「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた店舗への家賃支援(新型コロナウイルス感染症対策)」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/kokusaikeizai/business/cotenpo.html)。

ところで、すでに協力金等の支給申請が開始している地方自治体もあれば、現在、鋭意検討中の地方自治体もあります。そこで、事業所を設置している地方自治体の動向を確認して、制度利用をご検討ください。

【新型コロナウイルス対策の資金繰り支援制度について 支払猶予制度】

新型コロナウイルスの影響で資金繰りが厳しくなってきました。まず、固定費の支払をできるだけ抑えたいと考えているのですが、支払を猶予してもらえる制度はありますか。

本来はそれぞれの支払期限に支払をする義務がありますが、新型コロナウイルスの影響から支払いが困難な場合、各種税金、保険料、電気ガス料金といった固定費については支払いの猶予が認められる可能性があります。

 

◆国税

(1)国税納付の特例猶予

新型コロナウイルスの影響により一時的に国税の納付が困難な方に対して、特例猶予の措置が始まりました。この措置を申請すれば、延滞税なし・担保提供なしで、1年間の猶予を受けることができます。要件等の概要は以下のとおりです。

要件 以下のいずれも満たす場合

①新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1ヶ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること

②一時的に納税を行うことが困難であること

対象 令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する所得税、法人税、消費税等ほぼすべての国税
申請期限 令和2年6月30日又は納期限のいずれか遅い日までの申請

※詳細は、国税庁「新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ」(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan.htm)をご確認いただくほか、各国税局に設置している「国税局猶予相談センター」(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan/callcenter/index.htm)へご相談ください。

(2)既存の猶予措置

また、(1)の特例猶予措置を適用できないとしても、既存の猶予措置によって、国税納付の猶予が認められる場合があります(国税庁「新型コロナウイルス感染症の影響により納税が困難な方へ」)(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan.htm)。具体的には、各国税局に設置している「国税局猶予相談センター」(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu_konnan/callcenter/index.htm)へご相談ください。

 

◆地方税

(1)地方税納付の特例猶予

地方税についても、新型コロナウイルスの影響により一時的にその納付が困難な方に対して、特例猶予の措置が始まりました。この措置を申請すれば、延滞税なし・担保提供なしで、1年間の猶予を受けることができます。要件等の概要は以下のとおりです。

要件 以下のいずれも満たす場合

①新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1ヶ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること

②一時的に納税を行うことが困難であること

対象 令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する個人住民税、地方法人二税、固定資産税などほぼすべての地方税
申請期限 令和2年6月30日又は納期限のいずれか遅い日までの申請

※具体的な手続については、各都道府県及び市長村の窓口までご相談ください。

※さらに、償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税については、令和3年度課税の1年分に限り、その課税標準額を、令和2年2月から10月までの任意の3ヶ月間の売上高が前年の同期間と比べて、①30%以上50%未満減少している者については2分の1、②50%以上減少している者についてはゼロとすることが検討されています。

また、自動車税・軽自動車環境性能割の税率を1%分軽減する特例措置の適用時限を6ヶ月延長し、令和3年3月31日までに取得したものを対象とするなど、租税上の措置が検討されています(案の概要は、総務省「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策における租税上の措置(案)について(地方税関係)」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000681224.pdf)をご参照ください。

(2)既存の猶予制度

また、(1)の特例猶予措置を適用できないとしても、既存の猶予措置によって、地方税納付の猶予が認められる場合があります。

具体的には、各都道府県及び市長村の窓口までご相談ください。

 

 

◆労働保険料等

(1)労働保険料等納付の特例猶予

労働保険料等についても、新型コロナウイルスの影響により一時的にその納付が困難な方に対して、特例猶予の措置が始まりました。この措置を申請すれば、延滞税なし・担保提供なしで、1年間の猶予を受けることができます。要件等の概要は以下のとおりです。

要件 以下のいずれも満たす場合

①新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1ヶ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少していること

②一時的に納税を行うことが困難であること

対象 令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する労働保険料等
申請期限 納期限までの申請

※詳細は、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症関連情報」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10647.html)の特例猶予措置に関する情報をご確認いただくほか、具体的な手続については、管轄の都道府県労働局までご相談ください。

(2)通常の猶予措置

また、(1)の特例猶予制度を利用できないとしても、新型コロナウイルスの発生に伴い財産に相当の損失を受けた場合には「災害による納付の猶予」が、又は新型コロナウイルスの影響で一時的に労働保険料等を納付することが困難となった場合には「一般の納付の猶予」が、それぞれ認められる場合があります。いずれも原則1年以内の期間に限るものであり、管轄の都道府県労働局への申請が必要です。

詳細は、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症関連情報」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10647.html)の既存の猶予制度に関する情報をご確認いただくほか、具体的な手続については、管轄の都道府県労働局までご相談ください。

 

◆国民健康保険料、後期高齢者医療制度の保険料、介護保険料

国民健康保険料、後期高齢者医療制度の保険料及び介護保険料について、新型コロナウイルスの影響で納付が困難となった方について、一定の要件に該当する場合には、申請によってその徴収が猶予される場合があります。

さらに、国民健康保険料については、減免の措置を受けられる可能性もあります。

いずれも具体的な要件や手続については、保険者である市区町村や加入している国民健康保険組合にお問い合わせください。

 

◆厚生年金保険料

厚生年金保険料について、新型コロナウイルスの影響で一時的に納付が困難となった方は、管轄の年金事務所を経由して地方(支)局長へ申請することにより、原則1年の範囲内で納付や換価の猶予が認められる場合があります。この申請は、納付困難となった厚生年金保険料等の納期限から6ヶ月以内に行う必要があります(厚生労働省「厚生年金保険料等の猶予制度について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10382.html)。

具体的な手続については、最寄りの年金事務所(https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/index.html)までお問合せください。

◆公共料金(上下水道)、NHK受信料、電気・ガス料金、固定・携帯電話の使用料等

政府は、公共料金(上下水道)、NHK受信料、電気・ガス料金、固定・携帯電話の使用料等についても、新型コロナウイルスの影響によって生活が困窮する者に対して、支払猶予の柔軟な対応を図るよう方針を示しました。

これをうけて、各地方公共団体や事業者ではそれぞれ対応窓口を設けて対応をしています。具体的な要件や手続などについては、提供を受けている、又は供給契約を締結している各地方公共団体や事業者にお問い合わせください。

◆家賃

家賃の猶予については、不動産QAの「Q 【賃貸借契約(賃借人の立場から)①】」をご参照ください。

新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 私的整理手続と法的整理手続の違い】

新型コロナウイルスの影響で資金繰りが苦しくなり、政府等による支援制度を利用しても既存の債務の弁済ができません。どうしたらよいでしょうか。

こちらでご説明したように、そのような場合は、債務を整理するための何らかの手続をとる必要がでてきます。大きく分けて「私的整理手続」及び「法的整理手続」があります。それらの概要は以下のとおりですが(○×等はメリット・デメリット)、取引先を巻き込まず事業価値を維持しながら再建をはかることができるという点で、まずは私的整理の利用を検討すべきです。

私的整理手続 法的整理手続(民事再生)
対象債権者 金融債権者だけなど限定できる 原則として全債権者 ×
債権者の同意 対象債権者全員の同意が必要 × 多数決(債権者の頭数の過半数、及び、議決権の総額の2分の1以上の賛成)
情報の秘匿性 非公開であり、原則として対象債権者以外に知られることはない 非公開であるが、官報公告され、また、全債権者を対象とするので、取引先等にも知られる可能性が高い ×
事業価値の毀損の有無 金融債権者だけを対象にする場合、それ以外の商取引債権などは従前どおり支払われるので事業価値は毀損しない 商取引債権者を含めた全債権者を対象とするため、取引の打ち切りなど、事業価値を毀損しやすい ×
手続の公正・透明性 支援協スキーム等の準則型だと中立な第三者機関が関与するので、一定の公正・透明性を担保できる 法律に基づく手続で裁判所・監督委員のよる監督を受けるため公正・透明性が高い
抜本的再建 対象債権者全員の同意を必要とするため、債権者の同意を得られやすい再生計画とならざるを得ない 全債権者を対象としかつ多数決によるため、抜本的な再生計画を作成することが可能

新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 私的整理手続における金融支援の手法】

私的整理手続を使って、借入金の返済を止めたり、債権カットができたりする場合があると聞きましたが、具体的にどういう方法があるのでしょうか。

金融機関に対して求める金融支援の手法としては、大きく分けて、①リスケジュール、②債権カットの2つがあります。

まず、リスケジュールとは、いわゆる「リスケ」といわれるもので、借入金の弁済条件を見直し、一定期間、元本の返済を減額または据え置くことをいいます。場合によっては、利息の減免を受ける場合もあります。リスケジュールは、関係者に与える影響が小さいため、最初に検討されるべき手法です。リスケジュールを行うためには、今後得られるフリーキャッシュフローをもとに、合理的な期間内に債務超過を解消し、借入金の返済を行う計画を立てる必要がありますが、このような計画を作成する準備期間として3年程度のリスケジュールを実施する「暫定リスケ」を受ける場合もあります。

次に、債権カットは、文字通り債権の減免を受けるものですが、①直接的に債権の減免を受ける方法、②債務者(旧会社)又はスポンサーが新会社(第二会社)を設立し、収益性のある事業(Good)とそれに見合った債務を会社分割等により新会社に承継し、不採算部門(Bad)と過剰債務だけが残った旧会社を特別清算等により清算してしまう、いわゆる「第二会社方式」を用いる方法などがあります。

なお、債権カットと実質的に同様の効果をもたらす、債権を資本に転換する債権の株式化(DES)や、債権を劣後化する方法(DDS)などもあります。

いずれにしても、スポンサーによる資金支援を含めた信用補完があった方が二次破綻のリスクが小さくなりますので、とくに債権カットを伴う場合は、平行してこのようなスポンサーを探すことも重要です。

新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 私的整理手続の種類】

私的整理手続にはどのような手続がありますか。

近年、私的整理手続の手法は多様化しており、以下のようなものがあります。なお、①の純粋私的整理に対し、②~④は、一定の手続準則に従い第三者機関が関与することから「準則型私的整理手続」と呼ばれます。

① 純粋私的整理

債権者と債務者の間の相対交渉により進行される私的整理をいいます。何らかの準則に基づくこともなく、柔軟に手続を進められるメリットがありますが、事実上、リスケジュールに限定されます。

② 支援協スキーム(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2019/190925saisei.htm

産業競争力強化法に基づき、各都道府県ごとに設置される公的機関である「中小企業再生支援協議会」が主宰して行う手続です。各種専門家アドバイザーが関与し再生を支援します。対象債務者は中小企業者(医療法人も含みます)に限定されており、上場企業等の大企業や学校法人等は利用できません。

③ 事業再生ADR(https://www.turnaround.jp/adr/index.php

産業競争力強化法に基づく認定を受けた「事業再生実務家協会」が主宰して行う手続です。専門的知識・経験が豊富で公正中立な手続実施者が厳格な要件及び規則に則って、債務者と債権者の調整を行います。対象企業に制限はありません(個人事業者は対象外)。

④ 特定調停

裁判所で行われる調停手続において、金銭債務に係る利害関係の調整を促進するものであり、中小企業の事業再生を目的とする簡裁・特定調停スキーム(https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/chusho/tokutei_chotei.html

も策定されています。対象債務者に限定はありません(個人事業者も対象)。

新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 新型コロナウイルスの特例】

新型コロナウイルスの影響を受けて、新たに設けられた債務整理に関する制度はあるでしょうか。

こちらで紹介した支援協スキームにおいて、「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」(特例リスケ)の計画策定支援が開始されており、この制度の活用によってリスケジュールを受けることができる場合があります。

まず、対象となる中小企業者は、新型コロナウイルスの影響を受けて、一時的な業況悪化を来たし、以下のいずれかに該当する者を目安とするとされています。なお、過去に協議会の再生計画策定支援を受けた、又は、現在受けている中小企業者であっても対象となります。

①最近1ヶ月の売上高が前年又は前々年の同期として比較して5%以上減少した者

②業歴3ヶ月以上1年1ヶ月未満の場合は、最近1ヶ月の売上高が次のいずれかと比較して5%以上減少している者

a  過去3ヶ月(最近1ヶ月を含む。)の平均売上高

b 令和元年12月の売上高

c 令和元年10月から12月の売上高平均額

そして、対象となる中小企業者からの相談(相談企業)を受けて、協議会が、特例リスケ計画の策定を支援することが適当であると判断した場合、具体的には以下のいずれかに該当する場合には、特例リスク計画策定の支援を開始します。

a 今後6ヶ月間の資金繰りの見通しが認められること

b 金融機関又は政策金融機関から融資を受けることができれば、今後6ヶ月間の資金繰りの見通しが認められること

c その他、統括責任者等が、相談企業の業種・業界の性質に応じ、相談企業の元金返済猶予の要請を行うことが事業改善に向けて有用であると判断した場合

相談企業は特例リスケ計画案の作成を開始しますが、このとき、少なくとも新型コロナウイルス感染症の影響が6ヶ月間継続する場合を想定し、1年間の資金繰り計画を作成します。協議会は、主要債権者と連携の上、相談企業の特例リスケ計画案の作成を支援するとともに、相談企業の資金繰りの状況に応じて、政策金融機関等の新型コロナウイルス感染症の資金繰り支援を利用した融資等による資金調達に向けて金融機関調整を行います。

相談企業が作成した特例リスケ計画案を、対象債権者全てが同意するに至ると、特例リスケ計画は成立となり、協議会の支援も終了となります。もちろん、その後もモニタリングが行われ、相談企業の状況によっては、再生計画策定支援へと移行することも考えられています。

手続の詳細等は、中小企業庁「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール実施要領を制定しました」(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/2020/200406saisei.html)のとおりです。

新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 民事再生手続】

私的整理を利用することが難しい場合は、法的整理(民事再生手続)になると聞きました。民事再生手続は破産とは違うのでしょうか。具体的に教えてください。

全金融機関の同意を得ることができない、資金繰りが切迫しているなどの理由により、私的整理を利用することができない場合には、再建型の法的倒産手続を検討することになります。再建型の法的倒産手続としては民事再生手続があり、概要は以下のとおりです。なお、再建型の法的倒産手続としては会社更生手続も別途あります。会社更生手続は株式会社に限定されますが、民事再生手続は限定がなく、個人事業者でも利用可能です。

まず、裁判所に対し、民事再生手続の申立てを行います。裁判所より弁済禁止の保全処分決定を受け、申立以前の原因により債務者が負う債務に対する弁済が原則として禁止されます。また、通常、裁判所より監督委員が選任されます。

債務者は、裁判所と監督委員による監督のもとで従来どおり事業を継続しながら、再生計画案を作成します。再生計画案には、継続事業から得られる収益をもとに債権者に対する弁済を行う自主再建型のほか、債務者の信用が毀損している場合には、スポンサーによる信用補完を得て、スポンサーから支払われる事業承継対価などをもって、債権者に対する弁済原資とするスポンサー型もあります。再生計画案は、債権放棄を伴う内容であることが一般的で、債権者の頭数の過半数及び議決権総数の2分の1以上の多数決により、一定の割合での債務カットを実現することが可能です。

このように、民事再生手続は、事業の再生のための手続であり、事業を停止して債務者に残った資産を処分、清算する破産手続とは大きく異なります。

【債務を全て返済できる場合における廃業手法】

新型コロナウイルス感染症の影響で、事業の先行きが不透明であるため、廃業を検討しています。今なら、取引債務や借入債務などを返済できる見込みです。この場合、どのように進めればよいでしょうか。

現在負担している取引債務や借入債務などを返済することが可能と見込める場合、まず、個人事業主の場合であれば、取引を縮小しながら、事業資産を処分し、また、債務の弁済を行って、事業を完全に廃止していくことになります。

これに対して、法人の形態で事業を営んでいる場合には、いわゆる通常清算(なお、債務を全部は返済できない債務超過の場合の清算手続を「特別清算」といいます)といって、法人を解散して、清算手続を実施し、その手続の中で事業を廃止していくことが考えられます。通常清算であれば、債権者に迷惑をかけることなく、また、裁判所の関与もない手続であって、費用も比較的安価に抑えることができるため、利用しやすい手続といえます。

ここでは、株式会社を例にご説明します。

株式会社において通常清算をするには、まず、解散する必要があり、株主総会において解散決議を経ることになります(会社法471条3号、309条2項11号)。この解散決議には、原則として、出席株主の議決権の3分の2以上に当たる多数の賛成を得る必要があります(特別決議:会社法309条2項11号)。

解散後は、清算人(解散した株式会社の業務執行者をいい、取締役が就任することが一般的です)が会社を代表して、継続中の契約関係や事務処理を終了させ(現務の結了)、債権の取立てや資産処分を行い、他方、株式会社が負担している全ての債務の弁済を行います。そして、さらに残余財産がある場合には、株主への分配を実施し、これらの清算事務を終了させて、最後に株主総会の決算承認を得れば株式会社の法人格が消滅します(なお、清算手続においては税務申告や清算結了の登記も必要になります)。

なお、事業の清算にあたり、既存の債務を弁済できるかどうかがはっきりしない場合もあります。例えば、不動産の売却価額、売却可能性の見通しがつきにくい場合などです。この場合には、債務を返済できる場合における廃業の方法に加え、Q【取引債務だけであれば全て弁済できるものの、金融債務まで含めると資産が不足している場合の廃業手法】やQ【取引債務を含め弁済ができない場合における廃業手法】の両方を選択肢として方針を検討する必要があります。

【取引債務だけであれば全て弁済できるものの、金融債務まで含めると資産が不足している場合の廃業手法】

新型コロナウイルス感染症の影響で、事業を継続することが困難であるため、廃業を検討しています。今のところ、取引債務だけであれば全て弁済できる資産はあるのですが、金融債務も含めると資産が足りません。このような場合、破産するしかないのでしょうか。

取引債務を全て弁済するに足りる資産がある場合には、破産しなくても、「廃業支援型特定調停スキーム」を活用することにより、金融債務の整理を図りつつ廃業を進めることができる可能性があります。

この点、廃業支援型特定調停スキームとは、金融機関に対して過大な債務を負っている事業者の債務及びその保証人の保証債務を一体として処理する手続であり、準則型私的整理手続の一つである特定調停手続(資金繰り対策Q.8【新型コロナウイルスの影響で各種支援制度を利用しても既存債務の支払いが困難な場合の対応策 私的整理手続の種類】参照)を用いて行います。このとき、保証人については「経営者保証に関するガイドライン」(Q【経営者の保証債務の整理】参照)の適用を受けて保証債務を整理します。このスキームは主たる債務者が個人事業主であっても利用が可能です。

破産との比較で、メリット及びデメリットについて改めて整理すると以下のとおりです(〇×等はメリット・デメリット)。

 

    廃業支援型特定調停スキーム 破産
対象債権者 金融債権者だけなど限定できる。 全債権者 ×
情報の秘匿性

信用情報

非公開。個人事業主の場合でも信用情報機関に登録されることはない。 官報公告される。

個人事業主の場合、信用情報機関に登録される。

×
債権者の同意 対象債権者全員の同意が必要。 × 同意は不要。

 

破産と比較すると、廃業支援型特定調停スキームの場合には、上表①及び②のとおり、対象債権者を金融債権者に限定することで、取引債権者を手続に巻き込むことを回避できるほか、対象債権者以外には秘密裏に手続を進めることができるというメリットがありますので、取引債務を全て弁済するに足りる資産がある場合には、優先的に検討すべき手法といえるでしょう(なお、一般論として、債務超過など支払能力が不足している状況で一部の債権者にのみ返済すると詐害行為になる可能性もありますので留意が必要です)。

もっとも、私的整理の一種ですので、上表③のデメリットは見過ごせないところです。そのため、取引債務を全額弁済できる場合であっても、金融債権者の態度によっては、廃業支援型特定調停スキームの利用を断念し、破産を検討するよりほかない場合もあります。

また、廃業支援型特定調停スキームの場合には、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど債権者にとって経済的な合理性が確保できるかも重要です。そのため、廃業支援型特定調停スキームにおいて特定調停の成立を目指すにあたっては、このような経済的合理性を確保できるかということもポイントとなります。

【取引債務も含め弁済ができない場合における廃業手法】

新型コロナウイルス感染症の影響で、事業を継続することが困難であり、廃業を考えていますが、金融債務はもちろんのこと、取引債務の弁済も困難です。この場合、廃業の手法としては、どのようなものが考えられるでしょうか。

取引債務の弁済も困難である場合は、取引債権者も含めた全債権者に対して負担する債務について、整理を図る必要があります。この場合、主に金融債権者を対象として想定している廃業支援型特定調停スキームを利用することは困難であり、破産の申立てを選択せざるをえないといえます(なお、会社法上の特別清算手続もありますが、債権者の多数の同意がいるなどハードルが高く、一般には資力のある親会社が債務超過の子会社を整理するときに利用されることが多いため、ここでは省略します)。

破産の場合には、官報公告がなされ、個人事業主の場合には信用情報機関に登録されるなどというデメリットはありますが、債権者の同意も不要で、裁判所から選任された破産管財人主導のもと資産と負債が整理され、公正公平に廃業処理を行うことができます。

一般に「破産」というと、マイナスのイメージが大きいため、なかなか踏み切れない場合もあろうかと思いますが、従業員や債権者などの関係者にかける負担を最小限に止めるためにも、債権者等からの差押えや回収などで資産が流出してしまう前に、できるだけ早く決断し、新しい一歩を踏み出すことも重要と思われます。

【経営者の保証債務の整理】

会社の借入債務について、会社の代表者としてその借入先の金融機関に対して個人保証しています。会社を廃業する場合、個人保証については、どう処理したらよいでしょうか。

会社の金融機関に対する借入債務について個人保証をしている場合であって、会社が廃業しその主債務を弁済できない場合には、個人保証の整理を図る必要があります。

この点、個人保証の整理を図る手法としては、破産や民事再生(個人再生)といった法的整理もありますが、「経営者保証ガイドライン」の適用を受けて個人保証の整理を図ることも考えられます。

経営者保証ガイドラインを利用するメリットは、何より破産することなく、かつ、破産の場合に残すことができる財産(自由財産といい、原則として99万円相当に限られます)に比べてより多くの財産、具体的には、自由財産に加えて一定期間の生計費や華美でない自宅のほか、さらにインセンティブ資産として財産を残すことができる可能性があることです。

私的整理の一種であるため、保証先である全ての金融債権者の同意を得る必要がありますが、上記メリットが大きいことから、保証債務の整理方法として優先的に検討すべき手続といえるでしょう。

経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理を行うためには、①主たる債務と保証債務を一体的に整理する場合と、②主たる債務と保証債務の一体的な整理が困難であるため(例えば、主債務者たる会社は破産による場合など)、保証債務のみを整理する場合とがあり、①の場合には主たる債務の整理と同じ準則型私的整理手続を、②の場合にはその保証債務の整理にとって適切な準則型私的整理手続を利用することとされています。

準則型私的整理手続としては特定調停が利用されることが多く、特定調停の申立てまでに、金融債権者との間で残存資産の範囲等について協議を重ね、概ね同意が得られた時点で特定調停を申し立て、調停の成立(又は民事調停法17条に基づく裁判所の調停に代わる決定)により、弁済計画を成立させるという流れで進めることとなります。

 

知財(著作権)

担当: 生田美弥子 弁護士 大須賀滋 弁護士 細井南見 弁護士 里貴之 弁護士 井之上裕祐 弁護士

【ウェビナー等での著作物利用と引用】
ウェビナー等で書籍を使った解説をしたいが、自分で執筆したわけではない書籍内の記載や表現をそのまま利用してもよいのでしょうか。

結論としては、利用できる場合がありますが、著作権者から了解を得ることなく利用するためには、引用(著作権法第32条)という一定のルールに従う必要があります。以下、少し詳しく説明します。
書籍内の記載や表現は、作成者の個性が表われているものであれば著作物とされ(著作権法第2条第1項第1号)、作成者である著作者は著作権法の保護を受けることになります。保護の内容としては、著作者は著作権を有するものとされ(同法第17条第1項)、著作権に含まれる権利(支分権)である複製権を専有します(同法第21条)。その結果、著作権者は、自らの許諾なく自己の著作物を複製して利用する者に対して、差止請求権(同法第112条)及び損害賠償請求権(民法第709条)を行使することができることになります。
ただし、著作権法は文化的所産の公正な利用(同法第1条)を図るため、著作権(本問の場合は複製権)の行使に一定の制限を加えています(同法第30条以下)。その制限の1つが引用(同法第32条)です。
どのような場合に、「引用」と認められるかは、条文の定めからは必ずしも明らかではありませんが、現行著作権法制定前の旧著作権法第30条第1項に、現行法の前身となる「節録引用」の規定があり、その解釈について述べた最高裁判決(最高裁昭和55年3月28日判決・民集34巻3号244頁(モンタージュ事件))があります。この解釈が現行法の解釈に当たっても参照できるものと考えられています。
同判決によれば、引用といえるためには、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できること(明瞭区別性)と両者の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること(主従関係)が必要であるとされています。
したがって、自分で執筆したわけではない書籍内の記載や表現をそのまま利用する場合には、この要件を満たすことが必要です。
明瞭に区別できるというためには、引用する側の著作物の中に引用される側の著作物が混然一体となって組み込まれ、区別できないような状態になっていてはいけません(東京地裁昭和61年4月28日判決・判時1189号108頁(豊後の石風呂事件)では、引用する側の論文の19頁から37頁の間に、引用される側の論文が原文のまま転載され、両論文が区別できない状態であった場合に、明瞭区別性を否定しています。)。
主従関係があるといえるためには、引用される側の著作物が引用する側の著作物に比較してその比重が高い状態になってはいけません(東京地裁平成3年5月22日判決・判時1421号113頁(教科書準拠テープ事件)は、中学校用英語教科書の基本文、本文及び新出単語欄等を朗読、歌唱して録音し、その他の録音内容はテープの使用方法や朗読箇所の説明等にすぎなかった事案について、主従関係を否定しています。ただし、事案は著作権者から独占的録音テープ製造販売権を取得した原告がその債権侵害を主張したものです。)。
したがって、引用と認められるためには、この明瞭区別性と主従関係の要件を満たすように配慮することが必要です。
また、引用する際には、著作物の出所及び著作者名を明示しなければならないとされていますので(同法第48条第1、2項)、その点についても注意が必要です。
なお、最近の下級審の裁判例では、同法第32条の条文の記述に従って、引用が「公正な慣行に合致するもの」であること、「引用の目的上正当な範囲で行われるもの」であることという要件に従って判断するものが増えてきています(例えば、東京地裁平成13年6月13日判決・判タ1077号276頁(絶対音感事件)、知財高裁平成22年10月13日判決・判時2092号135頁(美術鑑定書事件))。しかし、上記に説明した明瞭区別性や主従関係の要件を満たし、著作物の出所及び著作者名の明示を行っていれば、最近の裁判例の判断手法によっても、同法第32条の引用としての保護は受けられるのが通常であると解されます。

【参照資料】
大須賀 滋「制限規定(1)―引用」・牧野利秋ほか編『知的財産訴訟実務大系Ⅲ』(青林書院・第3版・2014)170頁

【学校等での遠隔授業実施のための著作権法改正の概要】
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、教科書などの著作物をオンラインの遠隔授業で使えるようにする制度が施行されると聞きました。その概要を教えてください。

従来の著作権法では、学校その他の教育機関における教材の利用については、授業や学校行事における使用を目的として教材をコピーすることや、授業を学校等とは別の場所で同時に受けている生徒に向けて教材をネットワークを通じて送信することが一定の場合に認められているだけであり、基本的に対面授業をすることが前提となっていました。令和2年4月28日より施行された改正著作権法第35条第1項は、これらに加えて、学校等で対面授業をしていない場合でも、生徒に向けて教材をネットワークを通じて送信することを補償金の支払いを条件に認めています。

今回の改正によって、具体的には、例えば以下の行為が新たに権利者の許諾なく行えるようになります。
・対面形式の授業でなく、遠隔地からネットワークを介して中継形式で授業をする場合に教材をネットワークを通じて送信する行為(画面に教材を表示する行為を含む)
・あらかじめスタジオで教材を用いた授業の内容を撮影、録画しておき、講義映像や教材をネットワークを通じてオンデマンド形式で生徒に送信する行為
・授業以外の時間に、授業の予習・復習等のために、教材を生徒にネットワークを通じて送信する行為
ただし、これらの行為に該当しても、著作権者の利益を不当に害することとなる場合には著作権者の許諾を得る必要があるので注意が必要です。

 

【参照資料】
・SARTRAS「授業目的公衆送信補償金制度とは」
https://sartras.or.jp/seido/
・SARTRAS「改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)について
https://sartras.or.jp/unyoshishin2020/

【教材として著作物を利用する際の補償金の支払に関する特例】
改正著作権法第35条に基づいて教科書などの著作物を使用する場合、当該著作物を無償で使用することができるのですか。

改正著作権法第35条第1項に基づき、著作権者の許諾なしに教材をネットワークを通じて送信等するためには、本来であれば、相当な額の補償金を、指定管理団体である「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SARTRAS)に支払う必要があります(同法第35条第2項、第104条の11)。
ただし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、遠隔授業等において著作物を教材として利用する必要性が高まっていることから、令和2年度に限り、特例的に補償金額を無償とする認可が文化庁長官により行われました。したがって、令和2年度の間は補償金を支払わずに本制度を利用することができます。
なお、現状必須というわけではありませんが、本制度を利用するにあたっては、SARTRASへの届出が求められています。

【参照資料】
・文化庁「令和2年度における授業目的公衆送信補償金の無償認可について」
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2020042401.html
・SARTRAS「教育機関設置者による教育機関名の届け出について」
https://sartras.or.jp/todokede/

【業務に利用するための書籍のスキャンの注意点】
在宅勤務の際に使用するために、業務で使用している書籍の全部(又はその一部)をスキャンしPDF化して利用したいと考えていますが、著作権法上問題はあるのでしょうか。

書籍は、著作権法上の著作物に該当し(著作権法第2条第1項第1号、同法第10条第1項第1号)、その全部又は一部をスキャンしてPDF化する行為は、著作権の及ぶ「複製」行為(同法第2条第1項第15号)にあたり、原則として著作権者の許可が必要となりますので、無許可で行った場合には、複製権侵害(同法第21条)となります。
著作権法に定められている制限規定に該当する場合には、著作権者の許可が不要となり、質問に関係する規定としては、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的として複製する場合には、私的使用のための複製(同法第30条)として、著作権者の許可が不要となります。
質問のように従業員が業務上利用するために書籍の全部又は一部をスキャンしてPDF化することは、組織的な活動の一環として行われるものであり、「個人的に」使用するものとはいえないと考えられていますので、私的使用のための複製には該当せず、著作権者の許可が必要になります。
実際には、著作権者がこのような複製行為を把握することが難しく、訴訟や刑事手続きに発展する可能性は高いとはいえませんが、著作権侵害に該当する行為であることを理解し、著作権を侵害しないよう配慮した利用をする必要があります。

【参照資料】
文化庁「著作物が自由に使える場合」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

【業務で利用するためにスキャンした書籍の共有の注意点】
業務で利用するためにスキャンした書籍のPDFをメールで他の従業員に送信して共有することは、著作権法上問題はあるのでしょうか。

業務上利用するために、書籍をスキャンしてPDF化する行為が著作権侵害に該当することは、上述の記載の回答のとおりです。
また、スキャンしてPDF化した書籍を、特定多数人に対しメールで送信する行為については、著作権の及ぶ「公衆送信」行為(著作権法第2条第1項第7号の2)に該当し、原則として著作権者の許可が必要であり、無許可で行った場合、公衆送信権侵害(同法第23条)となります。
その他、社内の電子掲示板やサーバを利用した資料の共有やクラウドサービスを利用した資料の共有も考えられますが、共有方法次第では、同様に公衆送信権等の侵害となる可能があります。
著作権侵害に該当する行為であることを理解し、著作権を侵害しないよう配慮した利用をする必要があります。

【違法動画のダウンロード等の注意点】
新型コロナウィルスの影響で、動画・音楽・コミック等のコンテンツサービスの利用が活発化しているようですが、コンテンツをアップロード・ダウンロードすることが違法になる場合について教えて下さい。

1.違法アップロードについて
WEB上のコンテンツは、創作性が認められる場合、著作物として法的保護を受けます(著作権法第2条第1項第1号)。コンテンツをWEB上にアップロードする行為は公衆送信(同項第7号の2)と呼ばれ、著作者は、著作物について公衆送信を行う権利(公衆送信権)を専有します(同法第23条第1項)。
著作権者に無断でコンテンツをアップロードする行為は、公衆送信権を侵害する違法な行為であり、民事上の責任のほか、刑事上の責任(10年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金又はこれらの併科)を負うことになります(同法第119条第1項)。
例えば、漫画をスキャンしてブログ等に掲載する行為、テレビ番組や映画をYouTube等にアップロードする行為、CD等の音源をYouTube等にアップロードする行為は、いずれも著作権者の許諾がなければ公衆送信権の侵害行為となります。
近年は、一般人が曲を歌唱又は演奏してSNS等に公開することも多く見られますが、この場合も、無許諾であれば公衆送信権の侵害となり得ます。もっとも、JASRACの管理楽曲については、JASRACとの間で利用許諾契約を締結しているSNSを利用することで、何らの手続を行わずに公開することができる場合があります(例えば、YouTube、Instagram及びFacebookは利用許諾契約を締結していますが、Twitterは締結していません。)。

 

2.違法コンテンツのダウンロード
WEB上に無断でアップロードされたコンテンツ(以下「違法コンテンツ」といいます。)のダウンロード(端末への保存をいうものとします。)は、原則として複製権(同法第21条)の侵害となります。
ただし、現行法では、私的利用目的での違法コンテンツのダウンロードは、①違法コンテンツであると知って、②「デジタル方式の録音又は録画」を行う場合を除き複製が許容されており(同法第30条第1項第3号)、私的利用については、①②を満たす場合のみ、民事上の責任や、刑事上の責任(2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれらの併科)を負うこととされています(同法第119条第3項)。
すなわち、私的利用目的での違法コンテンツのダウンロードは、動画や音楽等のビジュアル・オーディオなものに限り禁止されており、漫画・雑誌・論文等のコンテンツのダウンロードは規制されていません。
この点、本国会(第201回国会)において、違法コンテンツのダウンロードの規制対象を全著作物に拡大する改正が予定されています(令和2年4月29日現在で審議中)。かかる改正がなされると、ビジュアル・オーディオ以外のコンテンツについても、違法コンテンツであると知ってダウンロードする行為が禁止されることになります(改正法第30条第1項第4号)。
ただし、国民の情報収集等を過度に委縮させないため、新たに侵害対象とされる著作物については、①漫画の1コマ~数コマなど「軽微なもの」、②二次創作・パロディ、③「著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合」は規制の対象外となります。また、刑事罰の対象となる場合も、継続的又は反復して行う行為に限定されます(改正法第119条第3項第2号)。
なお、違法コンテンツをストリーミング再生する行為が複製行為に該当するかは議論があるところですが、これを否定した裁判例があります(東京地裁平成28年4月21日判決・判時2316号97頁)。ただし、違法コンテンツを公衆に対してストリーミング再生する場合には、別途、上演権・演奏権(同法第22条)や上映権(同法第22条の2)の侵害にあたることに注意が必要です。

【参照資料】
JASRAC「動画投稿(共有)サイトでの音楽利用」
https://www.jasrac.or.jp/info/network/pickup/movie.html
JASRAC「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」
https://www.jasrac.or.jp/info/network/ugc.html
文化庁「令和2年通常国会 著作権法改正案について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/

知財(特許・営業秘密)

担当: 生田美弥子 弁護士 冨本晃司 弁護士

【各国特許庁のコロナショックに対する対応状況】
現在の世界的なコロナショックを受けて、日本を含めた世界各国の特許庁の特許実務に何か変化は起きているのでしょうか。

各国の特許庁では、以下のような対応がとられています。
(1) 日本
・日本特許庁での窓口での出願等書面の受け付けは行わず、電子出願又は郵送による出願等のみ可能となります。
・対面による面接審査は原則行わず、インターネット回線を利用したテレビ面接又は電話による対応となります。
・審判事件における手続について、新型コロナウイルス感染症の影響により、指定された期間内に手続ができない方は、当該指定された期間内に、①請求する延長期間及び②当該期間延長を必要とする具体的な理由を記載した書面を上申書等により提出することで、指定期間の延長の申出をすることができます。
・日本特許庁への手続について、①方式審査等における特許庁長官による指令や通知類に対する手続(審判係属中のものを除く。)に関しては、新型コロナウイルス感染症の影響により、指定された期間内に手続ができなくなった場合にも、指定期間内の申出又は指定期間徒過後一定期間内に所定の手続を行う場合には、指定期間を徒過していても有効な手続として取り扱われることになります。
また、②手続すべき期間が法律又は政省令で定められている手続(新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書の提出、特許料(登録料)の納付等)に関しては、新型コロナウイルス感染症の影響により、所定期間内にできなくなった場合、救済手続期間内に限り手続をすることができます。通常、不責事由又は正当な理由による期間徒過後の救済については、記載した事実を裏付ける証拠書類の提出が必要となりますが、新型コロナウイルス感染症により影響を受けたという事情に限り、提出が必須とはなりません。

【参照資料】
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う対応等について
https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_shutsugan.html
新型コロナウイルス感染症により影響を受けた手続の取り扱いについて
https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_tetsuzuki_eikyo.html

 

(2) WIPO
基本的に職員はリモートワーキングへの切り替えを行っているとのことですが、運用等については、登録料の支払等も含め、特段の変更は無いようです。

【参照資料】
Covid-19 Update: WIPO’s IP Services
https://www.wipo.int/portal/en/news/2020/article_0015.html

 

(3) USTPO
・USTPOの全オフィスが閉鎖となっており、予定されている審査官面談、ヒアリング、口頭審理については、ビデオ又は電話でのリモート手段により対応されることとなります。
・3月27日から5月31日までが期限となる指令書応答、登録費用支払等について、遅れが新型コロナウイルス感染症による旨のステートメントを提出することで、6月1日まで期限を延長することが可能となります(なお、期限延長に関しては3月31日付でアナウンスされておりましたが、4月28日付で上記のとおり期限の延長期間を拡大しております。)。
【参照資料】
USPTO notices regarding COVID-19
https://www.uspto.gov/coronavirus

 

(4) EPO
・3月15日以降に期限が設定されている手続に関しては、5月4日まで一律に延期されます。かかる期限延長は、EPC及びPCTにおける手続当事者に適用され、また登録料の支払いについても適用されます。
・口頭審理に関して、審判部では5月15日まで開催されません。また、審査部/異議部では、4月30日まで延期となります(ただし、既にビデオ会議に切り替えられている口頭審理は除きます。)。

【参照資料】
Coronavirus (COVID-19) – continually updated information
https://www.epo.org/news-issues/covid-19.html

 

(5) EUIPO
・EUIPOへの手続に関する期限については、5月18日まで一律で延長されます(なお、3月16日付で5月1日までの延長がアナウンスされておりましたが、4月29日付で上記のとおり期限の延長期間を拡大しております。)。

【参照資料】
EUIPO News
https://euipo.europa.eu/ohimportal/news

【テレワークに伴う自宅への営業秘密の持ち帰りにおける留意点】
営業秘密を扱っている部署の従業員からも、昨今の事情を踏まえて、テレワーク業務を行いたいという要望が出てきました。あまり気が進まないのですが、テレワークを認めるうえで、どのような点に注意すべきでしょうか。

原則的には、持ち出しを認める営業秘密については「マル秘」の明示、パスワードを設定する等の漏えい対策を施す必要があります。
窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(不正競争防止法第2条第1項第4号)など、営業秘密に関する一定の行為(同項第4号ないし第10号)は、不正競争行為として民事上・刑事上規制されています。
「営業秘密」(同条第4項)に該当するかが問題となる際には、秘密管理性(秘密「と分かるよう」に管理されていたこと)を満たすかが争点となることが多いです。これに関しては、経済産業省発行の「営業秘密管理指針」が、「営業秘密」として保護されるための最低限度の対策水準を解説しています。
テレワークの際には、①社外から営業秘密の保管されている社内サーバにアクセスする②営業秘密をUSBメモリ等の外部記録媒体に保存して社外に持ち出して利用する等の態様が考えられます。①に関しては、営業秘密の利用形態が通常業務とほぼ変わらないため、通常業務にて施されている秘密管理措置が徹底されている限り、秘密管理性への影響は軽微といえますが、②を認める場合には、営業秘密の保存されている媒体が物理的に増えるため、原則的には、持ち出すデータにパスワードを設定する等の手法により、それが営業秘密であることを認識できるようにする必要があります。(「営業秘密管理指針」13頁)。
また、漏えいがあった際に保護が受けられるかも重要ですが、そもそも意図的な情報漏えいは可能な限り避けるべきです。そのため、秘密情報の管理・利用のためのグッドプラクティス等を記載している「秘密情報の保護ハンドブックの手引き」を参照の上、意図的な秘密情報の漏えいに対する対策を施すことが重要です(この点、個人情報保護における安全管理措置や、テレワーク一般のセキュリティガイドラインも参考になります。)。
最後に、営業秘密の漏えいは、自社に不満を抱いた従業員が故意に引き起こすこともままあります。営業秘密が漏えいした際のリスク、セキュリティ対策のコスト等、秘密を扱う部署の従業員についてテレワークを認めることのハードルは低いとは言えません。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が出ている中では、できる限りテレワークを推進すべきと思われます。

【参照資料】
経済産業省「営業秘密管理指針」(平成31年1月改訂版)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31ts.pdf
経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf
経済産業省「秘密情報の保護ハンドブックの手引き」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/170607_hbtebiki.pdf
総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第4版」(平成30年4月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf

競争法

担当: 籔内俊輔 弁護士 若井大輔 弁護士 加藤駿征 弁護士 村田航椰 弁護士

【フリーランス等に対する報酬の減額】
当社は、個人事業主やフリーランスに委託している業務があるところ、新型コロナウイルス感染症の拡大防止や、それに伴う需要の減少を理由として、委託業務報酬の減額をしたいと考えていますが、許されるでしょうか。

発注者が、取引上相対的に優越する関係にある個人事業主やフリーランスに対して、一方的に委託業務報酬の減額を求め、それに応じさせることは、独占禁止法の禁止する優越的地位の濫用に該当する可能性が高いといえます(独占禁止法第2条第9項第5号ハ)。
もっとも、対価を減額するための要請が対価に関する交渉の一環として行われ、その額が需給関係を反映したものであると認められる場合には、優越的地位の濫用には該当しない(「優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方」第4の3(4)イ)と考えられています。そのため、質問の事例のように、業務を委託した後に、発注者と個人事業主やフリーランスの双方に責任がない事情変更が生じた場合には、相手方と交渉し、その真摯な同意を得た上で、新型コロナウイルス感染症の影響による需要減少を反映した対価に減額することが許される場合があると考えられます。また、交渉経緯や報酬額、支払期日等の新たな取引条件については、書面等により明確化しておくべきと考えられます。
なお、下請法適用対象取引については、代金減額の禁止(同法第4条第1項第3号)に違反するかが問題となりますが、下請法においては発注後の代金減額は「下請事業者の責めに帰すべき理由」がない限り、下請事業者の了解や同意を得ていたとしても、違法となりますので、需要の減少等を理由とした減額はできない点に注意が必要です。
公正取引委員会は、新型コロナウイルス感染症の広がり及びサプライチェーン等への影響を踏まえて、個人事業主・フリーランスとの間の取引条件の変更をするに際しては、「新型コロナウイルス感染症の拡大防止やそれに伴う需要減少等を理由に、個人事業主・フリーランスとの契約を変更する場合には、取引の相手方である個人事業主・フリーランスと十分に協議した上で、報酬額や支払期日等の新たな取引条件を書面等により明確化するなど、下請振興法、独占禁止法及び下請法等の趣旨を踏まえた適正な対応を行うこと」等の配慮をすることを要請していますので、上記のとおり、適正な対応を行うことにより、報酬の減額を含む契約の変更が許容される場合があることを前提としているものと考えられます。
なお、実際に報酬の減額が認められるか否かは個別具体的な事案によって判断が分かれますので、対応にお悩みの場合は弊所までご相談いただけますと幸いです。
(参考)
公正取引委員会「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/mar/200310_yousei.html
公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法の考え方」
https://www.jftc.go.jp/hourei_files/yuuetsutekichii.pdf

【一定の価格以下での販売の指示】
当社は、マスクや除菌剤等を製造するメーカーですが、当社の製造するマスク、除菌剤が薬局・薬店で高額で販売されている場合が見受けられます。当社としては、薬局薬店に対し、一定の価格以下で販売するよう要請したいと考えていますが、独禁法上問題とならないでしょうか。

メーカー等が小売業者の販売価格を定める行為は、再販売価格の拘束に該当し、正当な理由がない場合には、独占禁止法上問題となります(独占禁止法第2条第9項第4号)。
再販売価格の拘束は、条文上は「当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること」とあり、商品の最低価格を指示する場合に限定されていませんので、事例のように商品の最高価格を決める場合であっても、正当な理由がなき限り違法となるものと考えられます(最高価格を定めるのであれば、一般消費者は通常より商品を安く購入できるようにも思えますが、最高価格が定められることで、小売店が最高価格(又はそれに近い価格)での販売しか行わなくなれば、結局商品の価格は再販売価格の拘束がない場合に比べて、高くなってしまい、消費者の不利益となることが考えられます。)。
もっとも、公正取引委員会は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が進む中でマスクのような商品について、小売業者が不当な高価格を設定しないよう期間を限定して、メーカー等が小売業者に対して一定の価格以下で販売するよう指示する行為は、通常、当該商品の購入に関して消費者の利益となり、正当な理由があると認められるので、独占禁止法上問題とはならない、との考え方を示しています(末尾参考資料)。
なお、上記考え方では、一定の価格以下で販売するよう指示することにより、かえって商品の小売価格の上昇を招くような場合には、正当な理由があるとは認められない、ともされていますので、例えば、不当に高価格を設定している小売業者がいない場合で、メーカーが特定の商品の最高価格を指示したことで、かえって小売業者が最高価格(又はそれに近い価格)で販売することになることが予想される場合には違法となる点に留意が必要です。
また、不当な高価格設定が行われることを防止するという必要性が乏しくなった時期においても、最高価格の設定を継続すると、事実上販売価格の目安となって価格が高止まりすることになり、独禁法上問題となる可能性があります。
(参考)
公正取引委員会「新型コロナウイルス感染症への対応のための取組に係る独占禁止法に関するQ&A」
https://www.jftc.go.jp/oshirase/coronaqa.html

【親事業者の風評に基づく受領拒否や返品】
当社(下請法上の親事業者)は、電子機器メーカーですが、電子機器の部品の製造委託をしている外注先(下請法上の下請事業者)の工場内で新型コロナウイルス感染者が出たとの噂を聞いており、当該工場で製造された部品については受領したくないと考えていますが、下請法上問題とならないでしょうか。

下請事業者に責任がある場合を除き、親事業者が発注した商品の受領を拒むことや一旦受領した後にその商品を引き取らせることは、下請法上の受領拒否の禁止(下請法第4条第1項第1号)又は返品の禁止(同項第4号)に該当します。
公正取引委員会は、「下請事業者の責に帰すべき理由」があると認められる場合について、極めて限定的に解釈しており、質問のケースでは下請事業者からの給付に瑕疵等があるといえる場合に当たらない限り、受領拒否や返品はできません(公取委HP『下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準』  (https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html)参照)。
そのため、下請事業者における感染者が、納品された部品の製造に関与していたのかどうか、関与していたとして納品された部品を通じて感染が拡大する可能性があるか等の事情を調査することなく、一律に受領拒否や返品を行うことは、瑕疵等がある部品の受領拒否や返品にあたらず、下請法上問題となる可能性が高いと考えられます。
なお、実際に下請法上の受領拒否の禁止や返品の禁止に該当するか否かは個別具体的な事案によって判断が分かれますので、対応にお悩みの場合は弊所までご相談いただけますと幸いです。
(参考)
公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A」問6
https://www.jftc.go.jp/soudan/shinsaikanren/23jishinqa.html

【下請事業者に対する発注のキャンセル等】
当社(下請法上の親事業者)は部品Aと部品Bによって商品Cを製造していたのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で部品Bを入手することができなくなってしまいました。部品Aは下請法上の下請事業者から供給を受けていますが、部品Aだけ納入されても商品Cを製造することができません。これを理由に、下請事業者に対する部品Aの発注をキャンセルしたいと考えていますが、下請法上問題とならないでしょうか。

個別の事案については具体的な事実を踏まえて判断されますが、下請法の適用がある取引では、下請事業者に責任がある場合を除き、親事業者の都合で下請事業者に対する発注をキャンセルしたり、発注した物品等を受け取らない行為は、下請法上問題となります(下請法第4条第1項第1号)。部品Bが入手できず部品Aのみでは商品Cを製造できないことだけを理由に、下請事業者が部品Aの製造業務を完了した後に発注をキャンセルすることは、受領拒否(下請法第4条第1項第1号)に該当します。親事業者が、納期延期して、結局、下請事業者が製造した物品を受け取らない場合も、受領拒否として問題になり、また、現実に受領ができるようになる時期まで納期を延期する場合も、その間の保管費用を親事業者が負担しなければ不当な給付内容の変更として問題になります(保管費用を負担して納期延期するのが1つの対応策と考えられます)。
他方、下請事業者が部品Aの製造業務を完了する前に、上記理由で発注をキャンセルして下請事業者に生じた費用を補填しないことは、不当な給付内容の変更(下請法第4条第2項4号)に該当します。この場合も、下請事業者が未完成の部品Aの製造のために負担した費用を親事業者がすべて支払った場合には、不当な給付内容の変更には該当しません。また、製造を継続させるが納期を変更する場合は、上記の通り他費用を負担する必要があります。
なお、実際に受領拒否や給付内容の変更に該当するか否か、費用負担をすべき内容は個別具体的な事案によって判断が分かれますので、対応にお悩みの場合は弊所までご相談いただけますと幸いです。
(参考)
公正取引委員会「下請取引適正化推進講習会テキスト」
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/R1textbook.pdf
公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
https://www.jftc.go.jp/shitauke/legislation/unyou.html
公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A」問9
https://www.jftc.go.jp/soudan/shinsaikanren/23jishinqa.html

【下請事業者からの単価引上げ要求の拒否】
新型コロナウイルス感染症の影響により、当社(下請法上の親事業者)が外注している取引先(下請法上の下請事業者)から、生産・調達コストが大幅に上昇したため単価引上げしてほしいという打診がありました。この要望に応じず、親事業者が従来の単価のまま取引を継続することは下請法上問題とならないでしょうか。

生産・調達コストが大幅に上昇するなど、新型コロナウイルス感染症の影響によるコストアップに伴う単価の引上げ要望については、下請事業者と十分な協議を行わずに、一方的に拒絶したり、要望を無視し続けたりして、単価を据え置いた場合は、買いたたきとして下請法上問題となります(下請法第4条第1項第5号)。
個別の事案については、具体的な事実を踏まえて判断することとなりますが、例えば、新型コロナウイルス感染症の影響により、下請事業者において生産・調達コストが大幅に上昇したとして単価引上げ要望がなされているのであれば、単価改定要望の内容、実際のコストアップの程度等について下請事業者から説明や資料提供を受けたり、他の納入業者の価格設定状況等について親事業者側でも情報収集したりする等して、親事業者側からも合理的な対案を示す等して、協議を行うことが求められます。
なお、実際に買いたたきに該当するか否かは個別具体的な事案によって判断が分かれますので、対応にお悩みの場合は弊所までご相談いただけますと幸いです。
(参考)
公正取引委員会「下請取引適正化推進講習会テキスト」
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/R1textbook.pdf
中小企業庁「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2020/200305support.pdf
公正取引委員会「東日本大震災に関連するQ&A」問11
https://www.jftc.go.jp/soudan/shinsaikanren/23jishinqa.html

競争法(海外競争当局)

担当: 若井大輔 弁護士 中亮介 弁護士 中嶋隆則 弁護士

【欧米競争当局による競争法の対応及び留意点について】

欧米の競争当局は、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況において、特別な審査体制や対応を取っていますか。

下記のように、アメリカ及びヨーロッパの競争当局においては、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、特別な審査体制が取られています。また、事態の緊急性や対応の必要性に鑑みて、競争法上の懸念を少しでも払拭するための声明等が発出されています。他方で、パンデミックに乗じてなされる競争法違反(商品の値上げ、賃金の切り下げ、生産の抑制、品質の抑制等を通じて競争を阻害する合意等)については厳しく追及するとされていますので、この点には十分留意する必要があります。

 

1     アメリカの競争当局(FTCDOJ

(1)        企業結合審査関係

a. 手続面

・ FTC及びDOJのほぼ全ての職員がテレワークを継続中です(3月16日、17日)。
https://www.ftc.gov/news-events/blogs/competition-matters/2020/03/changes-bureau-procedure-during-covid-19-coronavirus
https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2020/03/ftc-outlines-agencys-response-coronavirus-challenges

・ 職員との面談は原則として禁止されており、届出者と当局職員との会議は電話会議又はビデオ会議の方法により行われています。

・ 一時的にe-filingシステムが導入されており、HSR法に基づく全ての届出が、署名欄を含めて、電子的方法により提出することとされています(3月13日)
https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2020/03/premerger-notification-office-implements-temporary-e-filing

・ e-filingの手続
https://www.ftc.gov/enforcement/premerger-notification-program/guidance-filing-parties

・ e-filingシステムの導入後、HSR法に基づく待機期間の早期終結制度は利用が一時停止されていましたが、2020年3月30日より再び利用可能となりました。ただし、早期終結は時間とリソースが許す限りで認められるとされており、パンデミック前に比べて早期終結が認められる案件は限定されることが予想されています(3月27日)。

https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2020/03/ftc-resume-processing-hsr-early-termination-requests-march-30

https://www.ftc.gov/news-events/blogs/competition-matters/2020/03/resuming-early-termination-hsr-reviews

b. 実体面での変更

・ 実態調査・審査については、従前どおりの運用を継続し、基準の緩和はしないと説明されています(3月27日)。

https://www.ftc.gov/news-events/blogs/competition-matters/2020/04/antitrust-review-ftc-staying-course-during-uncertain

 

(2)        競争事業者間の協業について

・ FTC及びDOJが共同声明を発表し、一定の競争事業者間の協業がCOVID-19危機への対応に有効であるとの考えの下、いくつかの対応策が示されました(3月24日)。

https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2020/03/ftc-doj-announce-expedited-antitrust-procedure

ジョイント・ステートメント(全文)
https://www.ftc.gov/system/files/documents/public_statements/1569593/statement_on_coronavirus_ftc-doj-3-24-20.pdf

・ 優先的なレビュー・プロセス
事業者がその事業の競争法上の適法性を確認するための手続として、DOJのBusiness Review ProcessとFTCのAdvisory Opinion Processがありますが、DOJ及びFTCは、COVID-19に関連する照会に対しては、必要な情報を全て受領してから7日以内に回答するとされています。

・ 健康や安全に関するパンデミック対応のための協業として競争法に反しないと考えられる例の提示

①  共同研究開発

②  技術的ノウハウの共有

③  ヘルスケア提供者間での医療用品の共同購入

④  地域に医療サービスを提供するための医療機関間の協業

⑤  COVID-19に関連する供給品の生産と流通の一時的な統合

 

2     EUの競走当局の対応(欧州委員会)

(1)        企業結合審査関係

・ 欧州委員会の執行機関である競争総局(DG Comp)では、届出者や第三者(消費者、競争事業者、サプライヤー等)からの情報収集に困難が生じ迅速な審査を実現できないことから、届出のタイミングを当局とも慎重に相談するよう推奨しています。また、届出には電磁的方法を用いることが推奨されています。

・ 審査手続自体は継続しており、順次審査結果も公表されています。

https://ec.europa.eu/competition/mergers/covid_19.html

 

(2)        競争事業者間の協業について

a. 欧州委員会及び各EU加盟国の競争当局による声明

・ Covid-19による危機に対応し必要不可欠な物資やサービスを消費者に提供するため、欧州委員会及び各EU加盟国の競争当局は、一定の場合に競争事業者間での協業が認められる必要性や重要性を認め、幾つかの声明を発表しています。

・ 例:欧州委員会や各EU加盟国の競争当局が構成するEuropean Competition Networkによる声明

https://ec.europa.eu/competition/ecn/202003_joint-statement_ecn_corona-crisis.pdf

・ International Competition Network(ICN)による声明

https://www.internationalcompetitionnetwork.org/wp-content/uploads/2020/04/SG-Covid19Statement-April2020.pdf

b. 欧州委員会による判断枠組みの提供

・ 欧州委員会は、Covid-19対応のために必須の製品やサービスを提供するための競争事業者間における一時的な協業について、判断枠組みを示しました(4月8日)。

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52020XC0408(04)&from=en

・ ここでは、特に需給が逼迫している医薬品業界を例に挙げながら、必要以上に競争事業者間で情報が交換されないこと等の一定の条件を前提として、以下のような取組みについて、競争法上の懸念は生じないと例示しました。

・ 原材料を共同配送すること

・ 予想生産量に照らすと不足が見込まれる重要な医薬品等を特定すること

・ 個社情報を交換しない形で生産量や生産能力に関する情報を集約すること

・ EU加盟国レベルで需要予測のためのモデル作りに取組み、供給ギャップを特定すること

・ 供給ギャップに関する情報を共有し、各社の判断かつ競争事業者と情報を交換しない形で、需要に応えるために当該供給ギャップを埋められるかを表明してもらうよう呼びかけること

・ その他、平時では競争法に抵触しうる行為であっても、緊急時において執行対象とはならないものもあり得ると指摘し、幾つかの例も挙がっています。なお、欧州委員会は協業への参加者に対して、後日欧州委員会の求めに応じて資料を提出できるよう、やり取りや取決め内容を全て書面化しておくべきであると指摘しています。

c. コンフォートレター

・ 欧州委員会は、COVID-19対応に必要な医薬品や医療物資の不足に対処するための協業に関する個々の相談について、適宜コンフォートレター(comfort letter)を発出することにより、企業が安心して協力して対応措置をとることを援助・推進する姿勢を示しています。既に医薬品の提供に関して第1号のコンフォートレターが発出されています。

労務(安全配慮/健康管理/36協定)

担当: 山本健司 弁護士 塩津立人 弁護士 齋藤龍作 弁護士 中森伸 弁護士

【新型コロナウイルス感染拡大との関係で企業が負担する安全配慮義務の内容①】

従業員への新型コロナウイルス感染拡大防止との関係で、当社が、使用者として従業員に対して負う安全配慮義務の内容はどのようなものでしょうか。

使用者は、「従業員の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする」旨の安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っています。

そのため、使用者として、従業員への新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、国の新型コロナウイルスに関する情報を収集しつつ、従業員の感染リスクの低減と職場内での感染防止の観点から、予防対策を実施する必要があると考えられます。

なお、新型コロナウイルスと同じく感染症法に定められている新型インフルエンザについては、以前流行した際に、厚生労働省から「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」が示されています。新型コロナウイルスと新型インフルエンザとでは、ウイルスとしての性質等に違いがあることに留意が必要ですが、感染対策としては共通するところもあり、たとえば、感染が判明した者が触れた場所の清掃・消毒、対人距離の保持、手洗い、咳エチケットの実施及び従業員への指導などの感染拡大防止策(厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」98頁)は、新型コロナウイルスについても参考にすることができると考えられます。

なお、従業員が職場でコロナウイルスに感染した場合に、直ちに安全配慮義務違反による責任が生じるわけではないものの、具体的な感染リスクや感染防止対策の内容如何によっては、使用者が安全配慮義務違反に基づく責任を負う可能性もありますので、使用者は、新型コロナウイルスに関する情報を収集しつつ、具体的な状況に応じて、日々対策を検討していく必要があります。

【参照資料】

・厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」98頁

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/090217keikaku-08.pdf

【新型コロナウイルス感染拡大との関係で企業が負担する安全配慮義務の内容②】

従業員が新型コロナウイルスに感染したことが確認された場合、当社は、他の従業員に対する安全配慮義務の履行として、どのような対策をとるべきですか。

従業員のなかに感染者が確認された場合、他の従業員へ感染が拡大することを防ぐため、まずは濃厚接触者を把握し、感染者及び濃厚接触者と他の従業員との接触を回避するよう努めるべきです。

今般、新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の指定感染症として定められました。そのため、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合、都道府県知事は、同法に基づき、該当する労働者に対して一定の業種への就業制限や入院の勧告等を行うことができるものとされ(感染症法第18条ないし同法第20条等)、使用者としても、都道府県知事により就業制限がかけられた労働者を就業させないようにする必要がありますし、濃厚接触者については、Q1-3の感染している可能性がある従業員として、必要な対策を検討すべきです。

 

【新型コロナウイルス感染拡大との関係で企業が負担する安全配慮義務の内容③】

新型コロナウイルスに感染している可能性がある従業員がいる場合、当社は、他の従業員に対する安全配慮義務の履行として、どのような対策をとるべきですか。

新型コロナウイルスに感染していることは確認されていないものの、感染の可能性がある従業員については、感染法上の就業制限の対象にはなりません。

もっとも、就業規則の定めに基づき、出勤停止や自宅待機を命令することが考えられますし、就業規則に規定がない場合であっても、感染の可能性の合理的根拠がある場合は、業務命令としての自宅待機命令等も検討すべきで、使用者は、具体的な症状等に応じて、他の従業員への感染拡大を防ぐため、出勤停止や自宅待機命令等を行うべきです。

【新型コロナウイルス感染拡大との関係で企業が負担する安全配慮義務の内容④】

コロナウイルス感染を理由とする嫌がらせ等の防止策をとる必要はありますか。

使用者が職場内でのいじめを防止する措置を講じることは、安全配慮義務の1つと位置付けられています(さいたま地裁平成16年9月24日判決・労判883号38頁(誠昇会北本共済病院事件))。

たとえば、新型コロナウイルスに感染したことで就業制限を受けて出社しない場合や、新型コロナウイルスに感染した可能性があるため出勤停止命令を受けた場合に、その事実が他の従業員に広まり、当該従業員がいじめ・嫌がらせを受ける可能性も否定できません。使用者としては、そのような場面に備え、従業員に対して、コロナウイルスに関連したいじめ・嫌がらせが行われることのないよう、周知・啓発を行い、適切な相談対応を行うなど、必要な対応をとる必要があります。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)Q10-1」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q10-1

【従業員の健康管理①】

一般論として、当社は、従業員の健康状態に配慮する義務がありますか。

一般論として、使用者は、安全配慮義務の一環として、従業員の健康に配慮する義務を負います。たとえば、使用者は従業員に対して、年に1回健康診断を受けさせる義務があり(労働安全衛生法第66条)、健康診断実施後の事後措置等により、その健康状態を把握し、労働者の健康保持のために適切な措置をとることも、安全配慮義務の内容となるとされています(岡山地裁平成6年12月20日判決・労判672号42頁(真備学園事件))。

また、健康を害した従業員が、当該業務にそのまま従事すると、健康を悪化させるおそれがあると認められるときには、速やかに休養させるなどの必要な措置をとる必要があるとされています(神戸地裁平成7年7月31日判決・判タ958号200頁(石川島興行事件))。ですので、新型コロナウイルス対策の関係でも、安全配慮義務の一環として、従業員の体温等による感染の有無、その可能性に配慮する義務を負っているものと考えられます。

【従業員の健康管理②】

従業員に毎朝の検温を義務とすることや、体温を報告させる等、従業員の私生活、プライバシーに対してどこまでの干渉が許されますか。

従業員のプライバシーについての十分な配慮が必要でありますが、このような状況下においては、使用者が従業員に対して、①検温を義務づけ、②一定の体温(例えば、37.5度)以上の場合にこれを報告させること自体は、許容されると考えられます。実際、厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」105頁では、感染防止策として、従業員の中に感染した可能性があるものがすぐに発見・報告される仕組みを構築すると記載され、その手法として体温測定が挙げられています。もっとも、従業員の体温等の報告された情報を社内で記録・管理する場合には、従業員のプライバシーに十分に配慮する必要があると考えられます。したがって、例えば、顧客から安心感を得るため、接客担当社員の体温を顧客に開示するような方法は、プライバシーに対する不当な干渉として許されません。

【参考資料】

厚生労働省「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/090217keikaku-08.pdf

【新型コロナウイルス感染を恐れて出勤しない従業員への対応~業務命令違反とすることの合理性の有無】

新型コロナウイルスに感染することを恐れて、出勤しない従業員がいます。出勤しない日についての賃金も支払う必要があるのでしょうか。また、業務命令として、出勤を命じましたが、出勤しません。かかる従業員を業務命令違反として処分してもよいでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、従業員にも様々な形で不安が生じていることが予想されますので、新型コロナウイルスへの感染を恐れて出勤しない従業員がいる場合には、まずは、当該従業員が何を不安に感じているのか聴取するとともに、当該従業員に対して、会社としての感染予防策等を説明し、当該従業員の不安を除去するよう努めることが重要です。その上で、当該従業員が出勤すべき業務上の必要性を伝え、自主的な出勤を促しましょう。

もっとも、法的には、会社と従業員は、雇用契約上、会社は従業員に対して、雇用契約で定めた賃金を支払う義務を負っており、従業員は会社に対して、労働契約で定めた条件で会社の指示に従って誠実に働く義務を負っています。

従業員が、新型コロナウイルスへの感染を恐れて出勤しない場合には、通常は、従業員の責めに帰すべき事由によって上記誠実に働く義務を履行していないことになりますので、当該従業員は、その日の分の賃金を請求することはできません。したがって、会社は、当該従業員に対して、出勤していない日についての賃金を支払う義務は無いものと思われます(なお、理由はどうであれ、時季変更権を行使すべき場面でない限り、従業員が年次有給休暇を取得することは可能です。)。

また、会社は、雇用契約上従業員が出勤すべき日については、従業員に対して、業務命令として出勤を命じることができます。なお、業務命令をする際には、命令の事実が明確になるように、書面やメール等で残しておくことが望ましいでしょう。

会社の出勤命令にも関わらず、当該従業員が出勤しない場合には、業務命令違反となりますので、就業規則上、業務命令違反が懲戒事由として定められているのが通常でしょうから、その懲戒事由に基づいて懲戒処分を行うことを検討することになりますが、従業員の言い分の合理性の有無やその程度に応じて考える必要があります。また、懲戒処分を選択する場合には、就業規則等に定められた適切な手続に則った上で、過去に(特に同種の)懲戒歴がある等特別に重い処分を選択すべき事情がなければ、比較的軽微な懲戒処分から行うことが妥当であるように思われます。

【病気休暇制度の導入①】

今回の新型コロナウイルス騒動を機に、病気休暇制度を導入することを検討しているが、病気休暇の一般的な内容や規定例を教えてください。

病気休暇制度とは、特別休暇制度の一種であり、従業員の業務外での怪我や病気の療養のために、年次有給休暇以外で利用できる休暇制度です。

特別休暇は、「労働基準法」や「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う従業員の福祉に関する法律」などの法律で従業員への付与が義務付けられた「法定休暇」ではなく、使用者が任意で付与することができる「法定外休暇」に該当します。したがって、付与条件や日数、給与の支払いの有無についても、労使による話し合いにより任意に定めることができますが、Q12-2のとおり、就業規則に当該特別休暇制度を明記する必要があります。ただ、最近は有給の病気休暇制度を規定するところは少なくなってきている傾向にあるようにうかがえます。

なお、厚生労働省が公開している新型コロナウイルスへの対応策としての特別休暇の規定例は以下のとおりです(この規程例は、小学校の休校等に伴う特別休暇も認める前提のものですので、ご注意ください。)。

【規定例】

第○条 特別休暇

職員は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、次に掲げる状況に該当する場合には、必要と認められる日数について、特別休暇(有給)を取得することができる。

一 新型コロナウイルスに係る小学校や幼稚園等の休校等に伴い子の面倒を見る必要があるとき、その他やむを得ない社会経済的事情があるとき

二 妊娠中の女性労働者、高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患等)を有する労働者から申出があるとき

三 新型コロナウイルス感染症に罹患の疑いがあるとき

【病気休暇制度の導入②】

病気休暇制度を導入するためには、どのような手続が必要ですか。

「休暇」に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)に該当します(労働基準法第89条)。したがって、病気休暇を含む特別休暇制度を導入する際には、就業規則に当該特別休暇制度を明記するため、就業規則の変更手続を経る必要があります。

就業規則を変更する際には、就業規則の変更案について、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、従業員の過半数で組織する労働組合がない場合においては従業員の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。そして、就業規則変更届を労働基準監督署長宛に提出する必要がありますが(労働基準法第89条第1項)、この際、変更案に対する従業員の意見書を添付し同時に提出しなければなりません(労働基準法第90条第2項)。これに加えて、変更後の就業規則を従業員に周知させる必要があります(労働基準法第106条第1項)。

上記の変更手続きは、いわゆる不利益変更の問題が生じない、就業規則の内容を有利に変更する場合(例えば、新たに病気休暇を設ける場合)でも必要です。

なお、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策として、新たに特別休暇の規定を導入、整備した中小企業事業主に対し、時間外労働等改善助成金(職場意識改善コース)の交付を行うこととし、令和2年3月9日より申請の受付を開始しましたが、本Q&A掲載時点(令和2年5月7日現在)では、申請の受付は令和2年5月29日までとなっていますのでご注意下さい。詳しくは、厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(職場意識改善特例コース)」をご確認ください。

【参照資料】

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(職場意識改善特例コース)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisiki.html

【(特に医療従事者など)コロナウイルス感染拡大による長時間労働と36協定の特別条項等①】

医療従事者です。新型コロナウイルス対応の必要性が高く、これにより、業務が連日、多忙を極めているのですが、36協定の特別条項の適用対象となりますか。

法定労働時間を超えて労働させる場合や、休日に労働させる場合に締結する必要がある労使協定(いわゆる36協定)における時間外労働時間数は、原則として月45時間、年360時間が限度時間とされています(労働基準法第36条第4項)。もっとも、36協定において、「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」に、さらに労働時間を延長することを定めることもでき(労働基準法第36条第5項)、この条項を「特別条項」といいますが、ここにおいては、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要がある場合で、全体として1年の半分を超えないことが見込まれる臨時的なものに限ることとされ、できる限り具体的な事由を定める必要があります。

したがって、今般の新型コロナウイルス感染症対応については、36協定の締結当時には想定し得ないものであるため、例えば、「深刻な人身被害のおそれのある未知の感染症の流行」といったように一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要がある場合が具体的な事由として定められる等、36協定の定め方次第では、特別条項の理由として認められる場合もあると考えられます。

【(特に医療従事者など)コロナウイルス感染拡大による長時間労働と36協定の特別条項等②】

新型コロナウイルス対応に従事している医療従事者です。当病院の業務が、労働基準法第33条第1項の「災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当し、同条による時間外労働の例外規定の適用が認められますか。

「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」(労働基準法第33条第1項)については、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、臨時の必要の限度において厳格に運用すべきものとされています。そして、運用が認められる場合として、一般的に、地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応、急病への対応その他人命または公益を保護するための必要がある場合が考えられ、このような場合には、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するとされています。

同項の要件に該当するか否かは、上述のとおり、厳格に運用すべきものとされており、業務内容等を勘案し個別具体的な判断を求められるものですので、当該病院が医療サービスを提供する地域における、感染者、発症者の状況、医療体制の状況等によりますが、日常的に急病の受け入れ等を行っている病院における、(小規模な)急病への対応は、業務運営上予想し得る事由とされる可能性がある一方、大規模なものについては「人命または公益を保護するための必要がある場合」として、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」に該当するケースも考えられます。その範囲には、新型コロナウイルスの対応に、直接従事する業務に加えて、必要不可欠に付随する業務もこれに含まれますが、通常は、36協定の特別条項で手当しておくべきでしょう。

 

労務(休業と賃金等の取り扱い/業績悪化に伴うリストラ等)

担当: 松嶋秀真郎 弁護士 利光伸宙 弁護士 髙倉慎二 弁護士 井之上裕祐 弁護士

【休業と賃金の取扱い①】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、当社において感染者は発生していないものの、従業員には休業を命じたのですが、休業期間中であっても従業員に対して一定の賃金の支払いが必要だと聞きました。従業員に対して、休業中における何らかの金銭の支払義務はあるのでしょうか。

一般に、従業員が就労しない(労務を提供しない場合)には、使用者は賃金を支払う義務はありませんが(いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」)、労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由」による従業員の休業の場合、従業員の休業期間中、使用者側は平均賃金の100分の60以上の賃金を支払うことを義務付けています。

他方、不可抗力による休業の場合は、上記の「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、「ノーワーク・ノーペイの原則」どおり、使用者に休業手当の支払義務はないことになります。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により従業員を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められるような場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払が必要とされることが考えられます。

新型コロナウイルスを理由として従業員を休業させる場合、それが「使用者の責に帰すべき事由」による休業なのか、「不可抗力」による休業なのかは、通常の経営者として最大の注意を尽くしたか、最善の努力を尽くしたか等、個別事案に応じて微妙な判断を伴う問題ですので、専門家にご相談いただくのが望ましいといえます。

【参照資料】

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

 

【休業と賃金等の取扱い②】

当社で新型コロナウイルスへの感染が合理的に疑われる従業員が発生しました。当該従業員は体調不良を押して出勤しようとしていますが、会社は当該従業員に自宅待機(休業)を命じることはできるでしょうか。

上記のように、使用者は他の従業員に感染が拡大しないように努めるべき安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っているため、感染が合理的に疑われる従業員(例えば、一定期間継続して発熱が認められる等)に対しては就業規則の定めに基づいて、自宅待機を命じることができ、また命じることが望ましいと考えられます。また、仮にそのような就業規則の定めを欠いていたとしても、使用者は感染拡大につき安全配慮義務を負うため、かかる義務を履行すべく、業務命令として自宅待機を命じることができるものと考えられます。ただし、使用者が自宅待機を命じた期間中、当該従業員に対して休業手当を支払う必要がある場合があります。

【休業と賃金等の取扱い③】

従業員を休業される場合であっても、①検査等により新型コロナウイルスへの感染が確認された従業員の場合、②感染の疑いがあるために自主的に休業する従業員の場合、③感染の疑いがあるために会社の判断で休業させる場合のいずれかによって、休業手当の支払いの要否には違いがあるのでしょうか。

 

まず、従業員が新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により従業員が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。なお、従業員は、健康保険から傷病手当金の支給を受けることができる場合があります。

次に、新型コロナウイルスに感染しているかどうか確認されていない時点で、発熱などの症状があるため従業員が自主的に休む場合には、通常の病欠と同様に取り扱うべきこととなりますが、職場において病気休暇制度等の特別休暇の規定が設けられている場合には、当該制度を活用できないかをまず検討すべきです(場合によっては、病気休暇制度の導入もご検討ください)。

さらに、例えば発熱などの症状があることのみをもって、感染が確認される以前に、一律に従業員を休ませる措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

【参照資料】

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

【休業と派遣労働者(派遣元の場合)】

当社は、労働者派遣事業を営んでいますが、緊急事態宣言下における都道府県知事からの施設使用制限や停止等の要請・指示を受けて、派遣先企業が休業を行うこととなりました(労働者派遣契約の中途解約までには至っていません)。当社は派遣元として、従業員に対して賃金や休業手当等の支払いを行う必要はあるでしょうか。

派遣先企業が休業することに伴い、派遣労働者が休業することとなった場合、休業手当の支払いの要否は、雇用主である派遣元企業について判断されることになります。そして、実際に派遣元企業が休業手当の支払義務を負うか否かは、派遣先企業の休業が不可抗力によるものか否かという観点から決せられます(不可抗力によるものと判断される場合には、派遣元企業は休業手当の支払義務を負いません。)。

なお、このような場合、派遣元としては、派遣先とも協力しながら派遣労働者の新たな就業機会の確保を図り、就業機会が確保できれば、従前通り賃金を支払うことになりますが、就業機会の確保ができない場合には、まずは休業等を行い雇用の維持を図るとともに、休業手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすことが必要となります。

【参照資料】

厚生労働省「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/s01.pdf

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

【雇用調整助成金】

会社が従業員に対して休業手当を支払う場合に、国からその一部の助成を受けられる「雇用調整助成金」という制度があると聞きましたが、どのような制度なのでしょうか。

雇用調整助成金とは、景気の後退等、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を対象に、雇用調整助成金の支給要件を緩和し、従来要求されていた提出書類も削減する特例措置が設けられました。これにより、通常よりも幅広く、かつ簡便に、従業員の雇用の維持を行った事業主が、この助成金を受給できるようになっています。

【参照資料】

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

【学校や幼稚園の休校、休園による不就労と不利益処分】

従業員から、子どもの通う学校や幼稚園が休校、休園となったことに伴い出勤できないとの申出がありましたが、どのように対応すべきでしょうか。

このような理由で従業員が欠勤した場合、従業員側の事情、意思決定により労務の提供が行われていない以上、使用者は当該欠勤日にかかる賃金を支払う義務はありません(いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」)。

もっとも、従業員からこのような申出があった場合には、使用者は、従業員と相談の上、就業規則上の諸制度やテレワークの活用等により対応が可能かを検討することが望ましいといえます。

また、このような理由で従業員が欠勤したとしても、従業員の不就労は、学校等の休校等に伴うものであり、従業員の責めに帰すべき事由によるとまではいえませんので、これを理由とした懲戒等の不利益処分を行うことはできません。

【小学校休業等対応助成金】

会社が従業員に対して臨時休業した小学校などに通う子どもの世話をするために、従業員に有給休暇を取得させた会社に対し、休暇中に支払った賃金を助成する「小学校休業等対応助成金」という制度があると聞きましたが、どのような制度なのでしょうか。

「小学校休業等対応助成金」という制度は、新型コロナウイルス感染症に関する対応として、臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子供を世話するために、令和2年2月27日から6月30日までの間に、従業員(正規・非正規を問いません。)に有給(賃金全額支給)の休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除きます。)を取得させた会社に対し、休暇中に支払った賃金全額(ただし、1日上限8,330円)を助成する制度です。

厚生労働省では、この助成金を活用して有給の休暇制度を設けて、年次有給休暇の有無にかかわらず利用できるようにすることで、保護者たる従業員が希望に応じて休暇を取得できる環境を整えることを推奨しています。このような「有給」の「特別休暇」制度を設けるにあたっては、労働者が安心して休業できるよう、就業規則に明文規定を設け、労働者に周知することが必要となります。

また、厚生労働省では、今般の新型コロナウイルス感染症対策として、新たに特別休暇の規定を整備した中小企業事業主を支援するため、取組の実施に要した経費の一部を支給する働き方改革推進支援助成金制度を設けています。

【参考資料】

厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)問11、13」

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(職場意識改善特例コース)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisiki.html

 

【業績悪化に伴う内定取消しの問題】

当社は、新型コロナウイルスの影響により売上げが激減し、業績が非常に悪化しています。既に複数の学生に対して採用内定を出しているのですが、業績悪化を理由に一部の内定者について内定の取消しを行うことができるでしょうか。

採用内定の法的性質については議論があるものの、採用内定通知を発出するなど、一般的にいう「内定」の段階に至っている場合には、来年(もしくは再来年)の4月を就労の開始時期として、例えば、留年した場合にのみ内定を取り消すという内容の雇用契約(専門的には、始期付解約権留保付雇用契約)が成立しているものと考えられています(最高裁昭和54年7月20日判決・民集33巻5号582頁(大日本印刷事件))。

内定の取消しは、雇用契約を使用者側から一方的に解消するものであり、解雇と類似する手続ですので、その有効性は、内定取消しにつき客観的に合理的な理由が認められるか、社会的相当性が認められるか、という基準により厳格に判断されます。特に、新型コロナウイルス感染拡大に伴う業績悪化を内定取消しの理由とする場合、内定者は自身に何ら非がないにもかかわらず雇用契約を解消されることとなりますので、内定取消しの有効性に関する判断は、いわゆる整理解雇の場合に準じる程度に、使用者にとって厳しいものとなることが予想されます。すなわち、整理解雇の有効性は、一般的に、①人員削減の必要性があるか、②使用者が解雇を回避する努力を尽くしたか、③人選の合理性が認められるか、④解雇までの手続(説明・協議)は相当か、という4要素を考慮して総合判断されるところ、内定取消しの本件でも、同様の判断基準により有効性が判断されるものと解されます。

基本的なスタンスとしては、まず、経営の合理化等の努力に尽力すべきであり、様々な努力を尽くしてもなお、事業を存続させるためには内定取消しを行わざるを得ないといったような場合に至って初めて、内定取消しを検討すべきものです(ただし、その場合でも、上記の4要素を考慮して総合判断されることになりますので、③や④の要素についても、十分な検討が必要です)。

なお、新卒者の採用内定取消しを実施する場合には、事前に、ハローワーク及び学校に通知することが必要となります(職業安定法第54条、職業安定法施行規則第35条第2項第2号)。

内定取消しの防止に関する厚生労働省の問題意識については、厚生労働省「新規学校卒業者の採用に関する指針」も併せてご参照ください。

【参照資料】

・厚生労働省「新規学校卒業者の採用に関する指針」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/jakunensha05/

 

 

【業績悪化に伴う事業場閉鎖の問題】

当社は、新型コロナウイルスの影響による業績悪化により、事業場の閉鎖を行わざるを得ないと考えています。この場合、従業員に対してはどのような対応を行うべきでしょうか。

事業場の閉鎖自体は使用者が自由に決定できますが、それにより余剰人員となる従業員の整理解雇や雇止めが当然に認められるわけではありません。

一般に、無期労働契約従業員の整理解雇の有効性は、①人員削減の必要性が認められるか、②解雇回避努力義務を尽くしているか、③人選の合理性があるか、④手続の相当性が認められるかという4要素を考慮して総合判断され(長崎地裁大村支部昭和50年12月24日判決・労判242号14頁(大村野上事件)等)、その結果、整理解雇が客観的合理性や社会的相当性を欠くと認められる場合には、当該解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。

また、有期労働契約の期間満了による雇止めについても、例えば、無期労働契約と実質的に同視できるときなど、雇止めの客観的合理性、社会的相当性が要求される場合があるほか(同法第19条)、期間途中の解雇を行う場合は、無期労働契約従業員を解雇する場合よりも更に厳格な「やむを得ない事由」の存在が必要とされます(同法第17条第1項)。

そのため、やむを得ず事業場を閉鎖して余剰人員が出る場合は、雇止めの可否のほか、当該余剰人員について他の事業場での勤務可能性や勤務意思を確認し、配置転換により雇用を維持できるか否かの検討も、希望退職の募集等の他の解雇回避の方策の検討と並行して行うべきです。その際は、労働契約上、職種や勤務地が閉鎖対象の事業場での労働に限定されている従業員に対しても、当該限定範囲を超えた配転を提案することを含めて、できる限りの解雇回避努力を行うことが望ましいといえます。

【参考】

・厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)Q10-4、5」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q10-4

 

 

【配転命令における注意点】

新型コロナウイルスの影響による事業状況の変化を踏まえ、従業員に対して配転命令を行う際にはどのような点に注意すべきでしょうか。

使用者が従業員に対する配転命令を有効に行うためには、まず、使用者の就業規則や個別労働契約等で配転命令が可能である旨の合意がなされている必要があります(就業規則にそのような趣旨の定めがおかれていることが多いかと思います)。

次に、個々の配転命令の有効性については、①業務上の必要性が存すれば、原則有効で、②他の不当な動機・目的があるときや、③従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情が存する場合には、権利の濫用になる(無効になる)というように判断されます(最高裁昭和61年7月14日判決・労判477号6頁(東亜ペイント事件))。

新型コロナウイルスの影響により、人員を割くべき事業に変化が生じて配転を命じる場合、通常は業務上の必要性が存在し、動機・目的にも不当性はないと考えられますが、配転により生じる従業員の不利益が著しい場合には、配転命令が無効と判断される可能性があることは否定できません。

個々の事案においては、従業員に生じる不利益の内容自体のほか、使用者による不利益の軽減措置の有無・内容等も重要な考慮要素となるため、それらの総合的な検討が必要となります。

なお、対象従業員との間に職種や勤務地を限定する合意が存在する場合には当該従業員から個別に同意を得ない限り、使用者が一方的に配転命令を行うことはできません。(就業規則に配転命令権を認める定めが存する場合でも、このような限定合意が存在するときは、当該合意が就業規則に優先することになります)。

 

【業績悪化に伴う賃金切下げ】

当社は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、業績が悪化しております。事業場の閉鎖や整理解雇は避けたい一方、人件費を削減する必要があり、従業員の賃金切下げを検討しているのですが、どのような点に注意すべきでしょうか。

就業規則の変更(就業規則に基づく賃金規程等の変更も含みます。)による賃金切下げは、労働条件の不利益変更に該当し、労働者への「周知」と変更の「合理性」が認められた場合に限り有効性が認められます(労働契約法第10条本文)。

そして、就業規則の変更の合理性は、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして判断されます(同条本文)。

ただし、賃金は、労働者の生活の根幹に関わる重要な利益ですので、賃金切下げという労働者にとって重要な不利益を及ぼす就業規則の変更は、変更内容が「そのような不利益を労働者に法的に受忍させるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合」に限り、その効力が認められると解されています(最高裁昭和63年2月16日判決・民集42巻2号60頁(大曲市農業協同組合事件))。

新型コロナウイルスの影響による賃金切下げについていえば、各従業員の賃金減額の大きさ(①)や、新型コロナウイルスの影響により会社経営に実際に生じている業績悪化の状況や資金確保の必要性(②)が考慮されるほか、代償措置・経過措置の有無や賃金支払に関する社会の一般的状況等が相当性(③)において考慮されると考えられます。労働組合等との交渉の状況(④)については、多数組合との合意の存在が特に重視されますが、少数者の意見や利益をも尊重した交渉を行うことが望ましいといえます。

なお、トラブルを避けるためには、賃金切下げについて各従業員の同意を得ることも重要ですが、形式的に同意を取得した場合でも、不利益の内容・程度や同意取得の経緯によっては後に同意の有効性が争われる場合もあるため、慎重な対応が必要となります。

 

【業績悪化に伴う整理解雇の問題】

当社は、新型コロナウイルスの影響により売上げが激減し、業績が非常に悪化しています。人件費削減のため、従業員を整理解雇することを検討しているのですが、整理解雇を実施するにあたっての留意点を教えてください。

一般に、解雇の有効性は、解雇の客観的合理性と社会的相当性という2つの要件により判断されますが(労働契約法第16条)、使用者の経営上の理由により人員削減のために行われる整理解雇については、労働者側の事由を直接の理由とした解雇ではないことから、より具体的に、①人員削減の必要性が認められること、②解雇を回避する努力を尽くしたこと、③解雇対象者の選定の合理性があること、④労使交渉等の手続の妥当性という4つの要素を総合考慮して判断されます(長崎地裁大村支部昭和50年12月24日判決・労判242号14頁(大村野上事件)等)。

基本的には、雇用調整助成金制度なども活用しつつ、可能な限り解雇を回避するため経営努力を尽くすべきです。可能な限り経営努力を尽くしてもなお人員を削減せざるを得ないという場合、例えば、残業規制、一時帰休(必要最低限の人数以外の従業員を休業させ、休業手当を支払うこと)や希望退職の募集等の他の解雇回避の方策の検討・実施をしてもなお事業を継続できないという場合に至って初めて整理解雇を検討するべきです。

 

【業績悪化に伴う雇止めの問題】

当社は、新型コロナウイルスの影響により売上げが激減し、業績が非常に悪化しています。人件費削減のため、有期雇用契約の従業員との契約を更新しないことを検討しているのですが、この場合の留意点を教えてください。

労働契約に期間の定めがある場合は、本来であれば、契約期間満了までに使用者と労働者が更新について合意をしない限り、期間の満了に伴って労働契約は当然に終了します(いわゆる雇止め)。しかし、①当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、当該有期労働契約は実質的に無期労働契約と異ならない場合や、②当該労働者において契約期間満了時点で当該有期労働契約が更新されるものと期待する合理的な理由があると認められる場合には、雇止めの有効性は、正社員に対する解雇と同様の基準である、客観的合理性と社会的相当性が求められることになり(労働契約法第19条)、上記の①及び②のようなケースでは整理解雇に準じて判断されることになります。

なお、有期契約の従業員について、期間満了に伴う雇止めではなく、期間途中で解雇をするためには、「やむを得ない事由」が必要であり(労働契約法第17条第1項)、ここでいう「やむを得ない事由」とは、通常の正社員の解雇よりも厳格に解されておりますので、特に慎重な対応が必要です。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)Q10-4,5」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q10-4

 

【雇用調整助成金に関する特例措置について】

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、雇用調整助成金の支給要件が緩和されたと聞きました。その概要を教えてください。

令和2年4月1日から令和2年6月30日までの間については、全国で、全ての業種の事業主を対象として、概要以下のとおり、雇用調整助成金の支給要件を緩和する特例措置が実施されています。

 

①生産指標要件の緩和

従来、生産指標(生産量(額)、販売量(額)又は売上高等の事業活動を示す指標のことをいいます。)につき、最近3か月間の月平均値が前年同期に比べ10%以上減少していることが必要でしたが、計画届を提出する月の前月の生産指標が前年と比べ5%以上減少していれば足りるというように緩和されました(なお、さらなる緩和措置により、前年同月又は前々年同月とでは適切な比較ができない場合については、前年同月から12か月のうち適切な1か月と比較してもよいこととされています。)。

 

②休業規模要件・短時間休業要件の緩和

従来、休業日数については、対象労働者の所定の労働日数の15分の1以上(中小企業においては20分の1以上)が休業となっていることが必要でしたが、所定の労働日数の30分の1以上(中小企業においては40分の1以上)が休業となっていれば足りるというように緩和されました。

また、短時間休業の場合、従来は労働者全員について1時間以上一斉に休業している必要がありましたが、事業所内の部署・部門ごと、職種・仕事の種類ごと、勤務体制ごとなど、一定のまとまりで1時間以上休業となっていれば足りるというように緩和されました。

 

③計画届提出要件の緩和・オンライン申請受付の開始

休業等計画届については、休業等の初日が令和2年1月24日以降であれば、事後提出でもよいとされていましたが、さらなる緩和措置によって、計画届の提出自体が不要となり、支給申請のみで足りることとされました(従来計画届と一緒に提出していた書類の一部については、支給申請の際に提出することとされています。)。

また、支給申請は、窓口へ申請書を持参せずとも、オンラインで行うことができるようになりました。

 

④助成額の算定方法の簡略化

さらに、支給申請の際に用いる「平均賃金額」や「所定労働日数」の算定方法が大幅に簡素化されました。具体的には、①源泉所得税の納付書によって1人当たりの「平均賃金額」を算定できる、②休業等実施前の任意の1か月をもとに「年間所定労働日数」を計算してよい、③「所定労働日数」についても支給要領記載の固定値を用いて計算してよい、といった形で申請手続の負担が軽減されています。

なお、小規模事業(解雇等をせず雇用を維持する中小企業の中でも、常時雇用する労働者が概ね20人以下の事業のことをいいます。)の事業主については、「平均賃金額」を計算せずとも実際に支払った休業手当額から簡易に助成額を算定できることとされ、申請手続がさらに簡略化されています。

 

加えて、助成内容や助成対象についても、大幅に拡充されています。例えば、助成率については、従来の2分の1から3分の2(中小企業は3分の2から5分の4)まで引き上げられていますし、令和2年1月24日から判定基礎期間の末日までの間に解雇をしていないなど一定の要件を満たす場合には、さらに助成率が4分の3(中小企業は10分の9)まで上乗せされます(ただし、対象労働者1人1日当たり8,330円という上限額があります。)。また、従来助成の対象でなかった、雇用保険被保険者でない労働者の休業についても、助成の対象とされています。

 

さらに、令和2年4月8日から令和2年6月30日までの間に中小企業が休業を実施した場合について、特例の拡充がされています。すなわち、当該期間において、①中小企業が解雇等をせず雇用を維持し、賃金の60%を超えて休業手当を支給する場合には、60%を超える部分について助成率を10分の10とする、②休業等要請を受けた中小企業が雇用を維持し、100%の休業手当を支払っているなど一定の要件を満たす場合には、休業手当全体の助成率を10分の10とするという拡充がされています(ただし、上限額については従前同様です。)。

詳細については、下記の厚生労働省のHPもご覧ください。

 

なお、政府は、雇用調整助成金の上限額を1万5,000円まで引き上げると共に、事業主ではなく個々の労働者が直接申請できる制度の創設についても言及していますので、これらの動向も引き続き見ていく必要があります(令和2年5月19日現在の情報に基づいています。)。

 

【参照資料】

・厚生労働省「雇用調整助成金」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

・厚生労働省「雇用調整助成金の手続を大幅に簡素化します」

https://www.mhlw.go.jp/stf/press1401_202005061030_00001.html

労務(テレワーク/労働者派遣/団体交渉/外国人雇用)

担当: 山本健司 弁護士 塩津立人 弁護士 坂元靖昌 弁護士

【業務命令としてテレワークを命じることの可否】

緊急事態宣言の発令を受けて、当社も従業員に対してテレワークをするように命じたいのですが、可能でしょうか。

 

従業員との間の労働契約の内容として、テレワーク(以下特に断りのない限り在宅勤務を念頭に置きます。)がありうることが明示されている場合には勿論、そうでない場合でも、従業員との間で新たにテレワークを行うことについて合意、あるいは、就業規則を変更すること等で対応可能と考えられます。

なお、緊急事態宣言の発令下でのテレワークについては、業務を引き続き行ってもらう必要性がある一方、従業員の通勤・出勤中等の感染の危険を低下させ、生命、身体等の安全を確保するというもので、合理的理由を有しますので、合意を得ることも容易であると考えられますし、労働条件通知書等の就業場所として「本社オフィス、その他使用者が許可する場所」等の記載があれば、業務命令としてテレワークを命じる根拠になり得る場合もあります。

具体的な合意の取得方法としては、個別に合意を得る方法の他、テレワークを導入する旨の就業規則の変更手続によることが考えられます。

また、新型コロナウィルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主を支援するための働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)もご参照ください。

【参照資料】

テレワーク総合ポータルサイト(テレワークの労務管理に関するQ&A)

https://telework.mhlw.go.jp/qa/qa1-1/

厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き」

https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

厚生労働省ウェブページ(働き方改革推進支援助成金〔テレワークコース〕)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html

 

 

【テレワーク中の労働時間管理】

当社は、テレワーク中の従業員の労働時間を把握しなければならないのでしょうか。また、テレワーク中の従業員の労働時間を適切に管理する方法として、どのような方法があるのでしょうか。

使用者は、テレワークを導入している場合も変わりなく、割増賃金の適正な支払、及び従業員の健康管理の観点から、従業員の労働時間を把握・記録する義務を負います(「情報通信技術を利用した事業場外業務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」3頁)。テレワークにおいては、従業員を直接目視できないことから、労働時間を把握することは、通常勤務の場合と比較して困難となりますが、例えば、ア)従業員からのメール連絡を義務付ける、イ)一般に提供されている労務管理ツールを活用する等して、①始業・就業時刻の管理、②業務時間中の就業確認等を行う必要があります。

方法としては、始業・終業時及び業務の中断・再開時にEメール・電話等の手段による報告するよう命じることなどが考えられます。また、近年では、テレワークを想定したPC上での勤怠管理サービスを提供する企業も複数存在することから、これらのサービスを利用することも考えられます(参照資料の「テレワーク関連ツール一覧 第4.1版」16‐17頁もご参照ください。)。

【参照資料】

厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外業務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/content/000545678.pdf

厚生労働省「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」

https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf

一般社団法人日本テレワーク協会「テレワーク関連ツール一覧 第4.1版」

https://japan-telework.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2019/11/Tool-list-V4.1-20191101.pdf

 

【テレワーク中のサービス残業(時間外労働)防止策】

従業員がテレワーク中に過剰な時間外(休日・深夜も含む。)労働を行うことを防止するにはどのような方法があるのでしょうか。

「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」においては、テレワーク中における従業員の過度な時間外労働を防止するため、以下の4つの方法が提案されています。

①従業員への時間外のメール送付を控える

②時間外の企業内システムへのアクセス制限をかける

③時間外労働を原則禁止とする

④時間外労働を行う従業員に対して注意喚起を行う

使用者は、従業員の労働時間を管理することが求められるのはQ5-2のとおりですが、それだけではなく、長時間労働により従業員に健康障害が生じるのを防止することが求められます。従業員にとって、テレワークには通勤の負担軽減・時間短縮等のメリットがある傍ら、通常勤務と比べて使用者の管理の程度が弱まる結果、長時間労働になりやすい、まさに、「サービス残業」を行わせていることとなりやすい、というデメリットもありますので、使用者としては、このデメリットを軽減・防止するため、上記のような方法が求められます。

ただし、上記①ないし④はあくまでガイドラインに示されている参考例にとどまりますので、使用者としての管理の徹底や、これ以外にも、そもそもテレワーク中の従業員の負担が過大とならないような業務分担の見直しを検討する等の対応が望ましいといえます。

【参照資料】

厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf

 

【みなし労働時間制、フレックスタイム制といった特殊な労働時間制を採用する場合の要件とハードル】

今回の件を機に、緊急事態宣言が解除された後にもテレワークという働き方を正式に採用することを検討しているのですが、その際、労働時間制度についても、テレワークに適したものを採用したいです。どのような労働時間制度があり、それを導入する際にはどのような点に注意すべきでしょうか。

テレワークになじみやすい労働時間制度には、①フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)、②裁量労働制(同法第38条の3、4)、③事業場外みなし労働時間制(同法第38条の2第1項)などがありますが、テレワークの業態によっては要件を満たさない場合があり得ます。また、導入に際して、就業規則の変更等の一定の手続を踏む必要があります。

厚生労働省が公表している、テレワーク実施企業と未実施企業が採用している労働時間制度を比較したデータ(平成26年度)は以下のとおりです。

 

テレワークで働き方改革~テレワークの運用・導入ガイドブック

(出典)「平成26年度テレワークモデル実証事業」 、厚生労働省「テレワークで働き方改革~テレワークの運用・導入ガイドブック」60頁

 

以上のデータを見ると、テレワークを既に実施している企業においては、実施していない企業よりも、①フレックスタイム制、②裁量労働制、③事業場外みなし労働時間制、④短時間労働勤務制を採用している企業が多いようです。以下では、①②③について簡単に説明します。

①フレックスタイム制(同法第32条の3)

フレックスタイム制とは、労働者が単位期間(清算期間)の中で一定時間数労働することを条件として、1日の始業・終業の時刻を労働者の自由な決定に委ねる制度です。1日のうち、必ず就業しなければならない時間帯(コアタイム)を定める例が多いようですが、コアタイムはフレックスタイム制の不可欠の要件ではありません。

働き方改革の一環として、平成31年4月1日から、単位期間の長さが1か月から3か月に伸長され、より活用しやすくするための改正が施されています(同条第1項第3号)。

②裁量労働制(裁量労働のみなし労働時間制)(同法第38条の3、4)

みなし労働時間制とは、労働者が実際に何時間働いたかにかかわらず、一定時間労働したものとみなす制度です。裁量労働制には、システムエンジニア等の一定の専門職について認められる専門業務型裁量労働制と、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲のホワイトカラー労働者に適用される企画業務型裁量労働制の2つがあります。

 

③事業場外のみなし労働時間制(同法第38条の2第1項)

事業場外で、すなわちテレワークで働く場合にみなし労働時間制を採用するには、テレワーク中の労働時間が「算定し難い」場合に該当すると評価されなければなりません。この点、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」5-6頁においては、同要件を満たすための基準として、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの2点を挙げています。

もっとも、上記ガイドラインに基づく判断基準は裁判上も一貫して採用されているものではなく、労働時間が「算定し難い」場合に該当するか否かの判断にあたっては、業務の性質・内容・遂行の態様、業務に関する指示や報告の方法・内容・実施の態様・状況等を踏まえた総合的な考慮に基づく判断を行った最高裁判例も存在します(最高裁平成26年1月24日判決・集民246号1頁(阪急トラベルサポート事件))。

いずれを採用するにしても、一定の事項については労使協定や就業規則の見直しが必要になる場合があり、テレワークの運用形態によっても定めるべき事項・導入できる類型は変わってきますので、慎重に検討する必要があります。

【参照資料】

厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外業務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/content/000545678.pdf

厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」

https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/01_01.pdf

厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き」

https://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~①】

当社は、労働者派遣事業を営んでいますが、緊急事態宣言下における都道府県知事からの施設使用制限や停止等の要請・指示を受けて、派遣先が休業を行うこととなりました(労働者派遣契約の中途解約までには至っていません)。当社は派遣元事業主として、従業員に対して賃金や休業手当等の支払いを行う必要はあるでしょうか。

派遣先が休業することに伴い、派遣労働者が休業することとなった場合、休業手当の支払いの要否は、雇用主である派遣元事業主について判断されることになります。そして、実際に派遣元事業主が休業手当の支払義務を負うか否かは、派遣先の休業が不可抗力によるものか否かという観点から決せられます(不可抗力によるものと判断される場合には、派遣元企業は休業手当の支払義務を負いません。)。

なお、このような場合、派遣元事業主としては、派遣先とも協力しながら派遣労働者の新たな就業機会の確保を図り、就業機会が確保できれば、従前通り賃金を支払うことになりますが、就業機会の確保ができない場合には、まずは休業等を行い雇用の維持を図るとともに、休業手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすことが必要となります。

【参照資料】

・厚生労働省「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/s01.pdf

・厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~②】

派遣先から、派遣先が休業することに伴って、労働者派遣契約は解除せずに維持しながらも、派遣労働者を就労させていない間は、派遣料金は支払わないとの連絡がありました。派遣元事業主は、派遣料金を派遣先に請求できないのでしょうか。

派遣料金の設定や支払については、労働者派遣法等の法令が規律するところではなく、派遣事業主と派遣先との労働者派遣契約の内容に委ねられています。そこで、まずは、派遣先との労働者派遣契約における派遣料金に関する取り決めをご確認いただく必要があります。

労働者派遣契約において、派遣先の休業時の派遣料金に関する取り決めが設けられていない等、契約上の規定によって解決できない場合は、派遣先との協議によって決せられることとなります。派遣元事業主は、派遣労働者に対して支払う休業手当等について、一定の場合には、その一部を助成する雇用調整助成金の支給を受けられることも考慮しつつ(新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、支給要件の緩和や支給上限の引き上げ等を内容とする特例措置等が公表されています。詳細は下記の厚生労働省HP(「雇用調整助成金」、「新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大について」)をご参照ください。)、派遣先とよく協議を行ってください。

派遣先の休業理由は、自主的な休業、改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けての休業、テナントビルの閉鎖に伴う休業等、様々なものが想定され、事案に応じて交渉のポイントも変わってくるように思いますので、派遣先との協議・交渉を行う際には、事前に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

・厚生労働省「雇用調整助成金」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11041.html

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~③】

派遣先から、新型コロナウイルスの影響により余剰人員が生じたことを理由に、労働者派遣契約の解除を申し入れられました。労働者派遣契約は終了してしまうのでしょうか。

労働者派遣契約の満了前に、派遣先の一方的な申入れにより労働者派遣契約を中途解除できるかについては、労働者派遣契約の内容に委ねられています。まずは、派遣先との労働者派遣契約に、派遣先の一方的な申入れによる中途解除を可能とする規定があるかについてご確認ください。

労働者派遣契約において、一定の場合には派遣先の一方的な申入れによる労働者派遣契約の中途解除が可能である旨の規定が存在する場合、申入れを可能とする事由を充足しているかを検討するために、派遣先から中途解除の理由を把握する必要があります。この点、派遣先には、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合であって、派遣元事業主から請求があったときは、労働者派遣契約の解除を行った理由を当該派遣元事業主に対し明らかにするものとすることが求められていますので(労働者派遣事業関係業務取扱要領第5・2・(1)イ(ハ)⑨(ⅳ))、派遣先からあいまいな理由で解除を申し入れられた場合は、解除を行う理由の開示を求めることが考えられます。

【参照資料】

・厚生労働省職業安定局「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(令和2年4月)

https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/all.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~④】

派遣先から、新型コロナウイルスの影響により、労働者派遣契約を中途解除されることになりました。派遣元事業主が派遣先に対して何らかの補償等を求めることは可能でしょうか。

労働者派遣法第29条の2により、派遣先は、自らの都合により労働者派遣契約を解除する場合には、新たな就業の機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等の措置を講じなければならないとされています。

派遣先の都合によるかどうかについては、個別の事例ごとに判断されます。

例えば、新型コロナウイルスの影響により客足が遠のいて余剰人員が生じたことを理由とする中途解除の場合は、派遣先の都合による中途解除であると判断される場合が多いでしょう。

また、改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けて派遣先において事業を休止したことに伴い、労働者派遣契約を中途解除する場合であっても、一律に労働者派遣法第29条の2に基づく措置を講ずる義務がなくなるものではないとされています。

なお、労働者派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらないものであっても、派遣先は、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2・6・(3)にあるとおり、関連会社での就業をあっせんするなどにより、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~⑤】

改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けて事業を休止した派遣先から、労働者派遣契約の中途解除を申し込まれています。次の派遣先を探すことが困難なのですが、派遣元事業主として派遣労働者を解雇することはできるでしょうか。また、派遣元事業主としてどのような対応を行うべきでしょうか。

「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」第2・2・(3)及び(4)にあるとおり、派遣元事業主は、ある派遣先との間で労働者派遣契約が中途解除された場合であっても、労働者派遣の終了のみを理由として派遣労働者を解雇してはなりません。

派遣先とも協力しながら派遣労働者の新たな就業機会の確保を図り、それができない場合はまずは休業等を行い雇用の維持を図るとともに、休業手当の支払等の労働基準法等に基づく責任を果たすことが必要です。

また、労働者派遣法第30条に基づき、派遣先の同一の組織単位での派遣就業見込みが一定期間以上である派遣労働者については、派遣先への直接雇用の依頼、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置の義務(派遣就業見込みが3年以上の場合は義務、1年以上3年未満の場合は努力義務)が生じますので、この点もご留意ください。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う経済上の理由により事業活動の縮小を余儀無くされた派遣元事業主が、派遣労働者の雇用の維持のために休業等を実施し、休業手当を支払う場合、雇用調整助成金が利用できる場合がありますので、これを活用することもご検討ください。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~⑥】

派遣先から、新型コロナウイルスの影響により、労働者派遣契約の内容変更を求められ、これに応じることにしました。留意する点はあるでしょうか。

労働者派遣法上、労働者派遣契約書への記載が義務付けられている事項について変更しようとする場合は、労働者派遣契約書を締結し直す必要があります。

また、派遣元事業主が派遣労働者に対して交付する就業条件明示書への明示が義務付けられている事項に変更がある場合は、就業条件明示書を派遣労働者に再交付する必要があります。

いずれにせよ、派遣労働者との紛争を防止するため、労働者派遣契約の内容変更については、事前に派遣労働者に対してもよく説明し、納得を得ておくことが望ましいです。

 

【労働者派遣に関する諸問題~派遣元事業主の立場から~⑦】

派遣労働者について自宅でのテレワークを実施するに当たって、派遣先から、派遣労働者の自宅の住所を把握するために情報を開示してほしいと依頼されました。派遣先に教えてもいいのでしょうか。

派遣先からの求めに応じ、派遣元事業主から派遣先に対し、派遣労働者の自宅の住所に関する情報を提供する場合には、派遣元事業主として、派遣労働者本人に使用目的(テレワークの実施に当たって派遣先が住所を把握することが必要であり、派遣先に提供すること)を示して同意を得ることが必要になります。

これは、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において、派遣元事業主による個人情報の使用(提供を含む)は収集目的の範囲内に限られており、派遣元事業主から派遣先に提供できる情報は、労働者派遣法に基づいて派遣先に通知すべき事項のほか、派遣労働者の業務遂行能力に関する情報に限られていますが、使用目的を示して本人の同意を得た場合はこの限りでないこととされているためです。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<派遣労働者に係るテレワークの実施について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000620808.pdf

 

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~①】

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当社の判断で休業することとしました。休業期間中は派遣労働者を就労させていないので、休業期間に対応する派遣料金は支払わなくてもいいでしょうか。

派遣料金の設定や支払については、労働者派遣法等の法令が規律するところではなく、派遣事業主と派遣先との労働者派遣契約の内容に委ねられています。そこで、まずは、派遣元事業主との労働者派遣契約における派遣料金に関する取り決めをご確認いただく必要があります。

労働者派遣契約において、派遣先の休業時の派遣料金に関する取り決めが設けられていない等、契約上の規定によって解決できない場合は、派遣元事業主との協議によって決せられることとなります。派遣元事業主とよく協議して、派遣料金の取り扱いを決定してください。派遣元事業主は、派遣労働者に対して支払う休業手当等の一部を助成する雇用調整助成金の支給を申請できる場合がありますので(新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、支給要件の緩和や支給上限の引き上げ等を内容とする特例措置等が公表されています。詳細は下記の厚生労働省HP(「雇用調整助成金」、「新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大について」)をご参照ください。)、派遣元事業主に雇用調整助成金の受給申請を行うよう提案して受給額との調整を図りながら、協議を行うことをお勧めします。

派遣先の休業理由は、自主的な休業、改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けての休業、テナントビルの閉鎖に伴う休業等、様々なものが想定され、事案に応じて交渉の方法も変わってきますので、派遣元事業主との協議・交渉を行う際には、事前に弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

・厚生労働省「雇用調整助成金」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11041.html

 

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~②】

新型コロナウイルスの影響により人員余剰が生じています。労働者派遣契約を解除等により終了させることはできるでしょうか。

労働者派遣契約の満了前に、派遣先の一方的な申入れにより労働者派遣契約を中途解除できるかについては、労働者派遣契約の内容に委ねられています。まずは、派遣先との労働者派遣契約に、派遣先の一方的な申入れによる中途解除を可能とする規定がないかをご確認ください。

労働者派遣契約に基づく一方的な中途解除の申入れが行えない場合であっても、派遣元事業主との合意より、労働者派遣契約を解約により終了させることは可能です。ただし、派遣元事業主との合意により労働者派遣契約の解除を行おうとうする場合であっても、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行う必要があります(労働者派遣事業関係業務取扱要領第5・2・(1)イ(ハ)⑨(ⅰ))。

 

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~③】

改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受け、事業を休止したことを理由として、労働者派遣契約を中途解除せざるをえない場合であっても、派遣先は、労働者派遣法第29条の2に基づく措置を講ずる必要はありますか。

労働者派遣法第29条の2により、派遣先は、自らの都合により労働者派遣契約を中途解除する場合には、新たな就業の機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等の措置を講じなければならないものとされています。

中途解除が派遣先の都合によるかどうかについては、個別の事例ごとに判断されるものであり、改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けて派遣先において事業を休止したことに伴い、労働者派遣契約を中途解除する場合であっても、一律に労働者派遣法第29条の2に基づく措置を講ずる義務がなくなるものではありません。

なお、労働者派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらないものであっても、派遣先は、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2・6・(3)にあるとおり、関連会社での就業をあっせんするなどにより、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~④】

改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受け、事業を休止しました。これに伴い、派遣元事業主に対して、労働者派遣契約の内容の一部変更を依頼したいのですが、可能でしょうか。

まずは、労働者派遣契約に、契約内容の変更に関する取り決めがないかをご確認ください。

労働者派遣契約にこの点に関する取り決めがない場合は、派遣元事業主と協議のうえ、派遣先との合意によって労働者派遣契約の内容の変更等を決定することとなります。

変更される労働者派遣契約の内容が、労働者派遣法等の法令により、労働者派遣契約書への記載が義務付けられている事項である場合は、派遣元事業主との間で労働者派遣契約書を締結し直す必要があります。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた事業の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000622039.pdf

 

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~⑤】

改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されたこと等を踏まえ、派遣労働者についてもテレワークの実施を行いたいのですが、留意すべきことはありますか。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、テレワークが有効な対策の1つであり、派遣労働者についても、派遣先が自ら雇用する労働者と同様に、積極的なテレワークの活用が推奨されています(「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<派遣労働者に係るテレワークの実施について>」)。なお、派遣先での派遣労働者に対する指揮命令は、必ずしも対面で実施しなければならないものではありませんので、業務の内容を踏まえ、テレワークによっても必要な指揮命令をしながら業務遂行が可能かどうかを個別に検討することになります。

また、派遣労働者に関しテレワークを実施するためには、就業の場所などについて、労働者派遣契約の一部変更を行うことが必要になる場合があります。この場合の契約の変更については、緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面による契約の変更を行うことを要するものではありませんが、派遣元事業主と派遣先の間で十分話し合い、合意しておくことは必要です。

なお、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」と「派遣先が講ずべき措置に関する指針」では、派遣元事業主及び派遣先は、派遣労働者の就業の場所を定期的に巡回することとされていますが、これは、派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認するためのものです。例えば、電話やメール等により、就業状況を確認することができる場合には、派遣労働者の自宅等を巡回する必要まではありません。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<派遣労働者に係るテレワークの実施について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000620808.pdf

【労働者派遣に関する諸問題~派遣先の立場から~⑥】

派遣労働者について自宅でのテレワークを実施するに当たって、派遣先として、自宅の住所を把握しておきたいのですが、派遣元事業主から教えてもらってもいいですか。

テレワークの実施に当たって必要な場合には、派遣先が派遣労働者の自宅の住所を把握することは差し支えありません。

ただし、派遣先からの求めに応じ、派遣元事業主から派遣先に対し、派遣労働者の自宅の住所に関する情報を提供する場合には、派遣元事業主として、派遣労働者本人に使用目的(テレワークの実施に当たって派遣先が住所を把握することが必要であり、派遣先に提供すること)を示して同意を得ることが必要になります。これは、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」において、派遣元事業主による個人情報の使用(提供を含む)は収集目的の範囲内に限られており、派遣元事業主から派遣先に提供できる情報は、労働者派遣法に基づいて派遣先に通知すべき事項のほか、派遣労働者の業務遂行能力に関する情報に限られていますが、使用目的を示して本人の同意を得た場合はこの限りでないこととされているためです。

また、派遣先として、直接派遣労働者本人から自宅の住所に関する情報を取得する場合には、あらかじめ派遣元事業主に連絡の上、使用目的を本人に示した上で、本人の同意を得ていただくことが必要です。

【参照資料】

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A(労働者派遣について)<派遣労働者に係るテレワークの実施について>」

https://www.mhlw.go.jp/content/000620808.pdf

【新型コロナウイルス感染拡大と団体交渉の問題①】

労働組合から団体交渉の申入れを受けましたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、開催すること自体に感染リスクを感じます。直接の交渉を拒否して、書面でのやり取りのみで済ませてもよいでしょうか。

団体交渉は、労働組合等の代表と使用者代表とが直接交渉することを意味し、文書によるやり取りは団体交渉とはいえないと考えられています。その結果として、正当な理由なしに、使用者が、労働組合の団体交渉要求に対し、書面の交換による交渉に固執し、直接交渉に応じないことは団交拒否(労働組合法第7条第2号)の不当労働行為となると理解されています(東京高裁平成2年12月26日判決・労判632号21頁(清和電器産業事件))。

したがって、団体交渉を申し入れられているにもかかわらず、単純に、これを書面によるやり取りのみで済ませようと固執することは避けるべきであり、開催にあたってリスクの低い日程や方法を十分検討し、このような条件下での直接の交渉の実現に向けて可能な限り尽力する必要があります。

【新型コロナウイルス感染拡大と団体交渉の問題②】

労働組合から、開催日まで2週間の余裕を持って団体交渉の申入れを受けて労働組合が指定する日程で団体交渉を開催する予定にしていましたが、直前に、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令され、県から外出自粛を要請されている状況となりました。感染リスクを考えると、労働組合の指定する日程で団体交渉を開催することは困難であると思うのですが、日程変更は可能でしょうか。

使用者は、必ず労働組合より申入れを受けた日程に沿う形で団体交渉に応じる義務を負うものではなく、準備の都合上その他の理由により、合理的範囲内で延期を申し入れることは団交拒否(労働組合法第7条第2号)には当たらないと解されています(東京高裁昭和53年4月27日判決・労民集29巻2号262頁(延岡郵便局事件))。

令和2年5月7 日現在、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されており、全国的に、他者との接触の機会を減らすため外出自粛が呼びかけられている状況にあるところ、団体交渉は、通常、密閉空間である会議室等において、労働組合側、使用者側双方の多数の参加者が出席して長時間行われるものですので、平時と同様に行われる限りは厚生労働省が避けるべきとする「3密」(①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる))に該当し得るといわざるを得ません。また、参加者が会場に移動する過程でも、状況次第ですが、感染リスクは避けられないものと考えられます。

以上を踏まえますと、使用者側が、労働組合より申入れを受けた日程に対して、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受け、感染拡大防止のために、緊急事態宣言の対象期間満了後に団体交渉を行うことを理由を示して申し入れたとしても、そのことが直ちに不当労働行為に該当するとはいえないと解されます。

もっとも、当然ながら、使用者は、労働組合からの申入れから合理的範囲内の時期に交渉に応じる義務がありますので、そのような期間内の日程での再調整を行う必要はあります。

なお、使用者が労働組合との合意の下で団体交渉の日程を延期することは何ら妨げられませんので、どのような対応を採るにしても、まずは、感染リスク等、昨今の状況を踏まえて、時期だけでなく開催方法も含め労働組合側と協議することが望ましいでしょう。

【外国人の労働者に関する取扱い全般について】

当社は、日本人以外にも外国人を雇用しています、新型コロナウイルスの影響により休業手当、年次有給休暇の付与等について、区別することは許されるのでしょうか?

また、内定取消や整理解雇について、外国人であることを理由にして別異に取り扱うことは許されますか?

使用者が、外国人であることを理由に差別的に取り扱うことは許されません。

我が国においては、憲法第14条において、法の下の平等が定められており、労働基準法第3条において国籍による差別が明確に禁止されており、外国人に対する差別的取り扱いは許されておりません。

したがいまして、使用者の都合で労働者を休ませた場合に会社が支払う休業手当、年次有給休暇の付与について、対象の労働者が外国人であるという理由で異なるルールを適用することは正当な理由がない限り許されません。内定取消、整理解雇についても同様です。

【参照資料】

・厚生労働省「外国人の皆さんへ(新型コロナウイルス感染症に関する情報)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00001.html

【外国人雇用と雇用調整助成金】

当社は、日本人以外にも外国人を雇用しています。外国人を含めて全労働者の雇用を維持することを前提に雇用調整助成金を申請することを考えているのですが、この場合、外国人の労働者の分も支給してもらえるのでしょうか?

雇用調整助成金の申請において、外国人が労働者であっても申請の対象となります。

雇用調整助成金は被保険者が対象となっていましたが、もともと外国人労働者であっても被保険者として取り扱われておりますし、さらに今回の新型コロナウイルス感染症特例措置により雇用保険被保険者でない方を休業させる場合も給付対象となることとされております。したがって、貴社が雇用している外国人労働者に関しても給付対象となるとお考えください。

【参照資料】

・厚生労働省「外国人を雇用する事業主の方へ」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin17/dl/pamphlet_rule.pdf

・厚生労働省「外国人の皆さんへ(新型コロナウイルス感染症に関する情報)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00001.html

【技能実習生】

当社は、技能実習生を受け入れています。ある技能実習生が、実習期間が終了して、本国に帰国することを考えていたのですが、今回のコロナウイルスの問題で本国に帰国することができなくなってしまいました。どうすればよろしいでしょうか?

当該外国人につき「短期滞在」もしくは「特定活動」へ在留資格を変更させることをご検討ください。

本国への帰国ができない技能実習生が、引き続き日本に適法に在留するには在留資格を「短期滞在(90日)」もしくは「特定活動(3か月)」に変更することが考えられます。

ただし、「短期滞在」は、就労が認められていませんので、当該実習生に日本に在留している間就労させることをお考えの場合、「特定活動」の在留資格に変更してもらう必要があります。ただしこの場合は、貴社が引き続き受け入れ、かつ同一の業務で就労させることが条件となります。なお、本国へ帰国することができない事情が継続する場合、更新を受けることが可能です。 

【参考資料】

・法務省「新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて」http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00026.html

 

不動産

担当: 小松原崇史 弁護士

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)①】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、テナントから、売上が大きく減少したとして、賃料の支払猶予や賃料の減額・免除を求められています。オーナーは、テナントからのこれらの要望に応じる義務はあるのでしょうか。

オーナーに賃料の支払猶予や賃料の減額・免除に応じる義務はありません。ただし、後述のQ&Aも適宜ご参照ください。
なお、国土交通省からは不動産関連団体を通じて、不動産を賃貸する事業を営む事業者に対して、新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討するよう要請がされています。もっとも、かかる要請に法的な強制力はなく、賃料の支払猶予や賃料の減額・免除に応じるかは、オーナーの判断に委ねられています。
なお、個別の交渉については、弁護士に直接ご相談ください。
【参照資料】
・国土交通省「新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(依頼)」
http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001339166.pdf)。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)②】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、テナントが自らの判断で営業を自粛した場合でも、オーナーは、テナントからの賃料の支払猶予や賃料の減額・免除の要望に応じる義務はないのでしょうか。

営業が可能であれば、テナントが自らの判断で営業を自粛した場合でも、オーナーには、テナントからの賃料の支払猶予や賃料の減額・免除の要望に応じる義務はないと考えられます。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)③】
テナントが、都道府県知事から、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて施設の使用停止の要請又は指示を受けた場合でも、オーナーは、テナントからの賃料の支払猶予や賃料の減額・免除の要望に応じる義務はないのでしょうか。

都道府県知事から、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく施設の使用停止の要請や指示がなされた場合は、テナントの責めに帰することができない事由により、事実上、使用収益ができなくなったとして、使用収益ができなくなった程度に応じて、賃料の減額を請求される可能性があります(2020年4月1日以降に締結・更新された賃貸借契約においては、改正民法第611条第1項が適用され、使用収益できなくなった程度に応じて、賃料が当然に減額される可能性があります)。最終的な判断は事案毎によりますが、賃料の減額が認められる可能性を考慮して、対応を検討する必要があります。
なお、個別の交渉については、弁護士に直接ご相談ください。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)④】
テナントからの要望を受け、賃料の支払猶予や賃料の減額・免除を検討しています。賃料の支払猶予や賃料の減額・免除に応じた場合には、国から何らかの支援を受けられるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響によって売上が減少したテナントに対して賃料を減額・免除した場合には、減額・免除した賃料に相当する額を、税務上の損金に計上することができます。
賃料の減額・免除に合理的な理由がなければ、寄付金として損金算入が否定されることがありますが、寄付金に該当しない場合の例として、次の条件を満たす場合が明示されています。
① テナントにおいて、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、又は困難になるおそれが明らかであること。
② 実施する賃料の減額が、テナントの復旧支援(営業継続や雇用の確保など)を目的としたものであり、そのことが書面などにより確認できること。
③ 賃料の減額が、テナントにおいて被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます。)内に行われたものであること。
【参照資料】
・国土交通省「新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(補足)」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001340447.pdf
・国土交通省「取引先の賃料を免除した場合の損失の税務上の取り扱いの明確化」
https://www.mlit.go.jp/common/001340572.pdf
・国土交通省「新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(補足その2)」
https://www.mlit.go.jp/common/001342992.pdf
・国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑤】
テナントと話し合って、賃料の減額に応じることにしました。どういった点に気を付ける必要がありますか。

紛争を防止するために、減額する賃料額、賃料を減額する期間、期間経過後の賃料の扱いなどを書面で明確にしておく必要があると考えられます。
また、賃料の減額相当額の損金計上が、寄付金として否認されるリスクを避けるためには、テナントから新型コロナウイルス感染症の感染拡大により売上が減少したことが分かる資料を提出させ、さらに、賃料の減額が、テナントの復旧支援であることを書面上に明記しておく必要があると考えられます。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑥】
収入が減少した場合には、固定資産税・都市計画税が減額・免除されることになると聞きました。賃料の支払猶予や賃料の減額・免除に応じた場合でも、固定資産税・都市計画税が減免されるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合、中小事業者、中小企業者が所有し、事業の用に供する家屋(建物)及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が、事業に係る収入の減少幅に応じ、ゼロ又は2分の1となります。不動産所有者等がテナント等の賃料を減免した場合や、書面等により賃料支払いを猶予した場合も収入の減少として扱われます。具体的には、令和2年2~10月までの任意の連続する3ヵ月の収入が対前年同期比30%以上50%未満減少した場合には、固定資産税等を1/2に軽減され、50%以上減少した場合には、固定資産税等が全額免除されます。
【参照資料】
・国土交通省「新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(補足その2)」
https://www.mlit.go.jp/common/001342992.pdf

・国土交通省「ビル賃貸事業者の皆様へ~新型コロナウイルス感染症に係る支援策~」

https://www.mlit.go.jp/common/001343017.pdf

・経済産業省「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業所の皆さまへ」72頁

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑦】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、賃借人からの賃料の支払が滞っています。この場合、賃貸借契約を解除することはできるのでしょうか。

賃借人が賃料を支払わない場合、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる場合があります。
ただし、賃料の不払いを理由とした解除には、賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されたと認められる必要があります。賃料の不払いが新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う一時的なものと考えられる場合には、賃料の支払いが滞っていたとしても、信頼関係が破壊されたとは認められない可能性があります。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑧】
賃貸人が利用できる融資や給付金として、どのようなものがありますか。

不動産業において活用が想定される支援策(令和2年6月19日時点)の概要が以下のリンク先にまとめられていますので、活用ができるかについてご確認ください。

・国土交通省「不動産業における支援メニュー(概要)」

https://www.mlit.go.jp/kikikanri/content/001349436.pdf

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑨】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で売上が減少したテナントから、敷金を賃料に充当してほしいと求められています。オーナーは、テナントからのかかる要望に応じる義務はあるのでしょうか。

敷金は、賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保するものであることから、オーナーには、敷金を賃料の支払いに充当することに応じる義務はありません。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑩】
テナントからの要望を受け、敷金を賃料の支払いに充当することを検討しています。賃貸借契約の存続中に、充当することは可能でしょうか。また、応じる場合、どういった点に気を付ける必要がありますか。

賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が敷金を賃料の支払いに充当することは可能です(大審院昭和5年3月10日判決・民集9巻253頁)。
敷金を賃料の支払いに充当した場合、充当によって賃借人の賃料未払い状態が一旦解消されることになるため、その後、賃料の不払いが続いた場合に、賃料の不払いを理由とする解除が可能となる時期が遅れてしまう点に留意する必要があります。
また、敷金を賃料の支払いに充当した場合、賃借人の債務を担保するための敷金が充当によって減少してしまいます。賃借人に対して減少した敷金の追加を請求できる旨の規定が、賃貸借契約において存在するかを確認し、このような規定が存在しない場合には、別途、敷金の追加を請求できる旨の合意書等の作成を検討する必要があります。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑪】
賃借人から、敷金の一部を返還してほしいと求められています。オーナーには、このような要望に応じる義務はあるのでしょうか。また、仮に応じた場合、どういった点に気を付ける必要がありますか。

敷金返還請求権は、賃借人が建物を明け渡した際に生じるものであるため、オーナーには、賃貸借契約期間中に敷金の返還請求に応じる義務はありません。
任意に敷金の一部を返還することは可能ではありますが、その場合、テナントが、減少した敷金を追加で支払う旨を、合意書等で定めておくなど、敷金の減少についての対策を検討する必要があります。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑫】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、テナントの意向に関係なく、オーナーの判断でビル全体を閉館することはできますか。

オーナーの判断でビル全体を閉館した場合、賃貸人による賃貸借契約違反となり、賃借人に生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。また、テナントの責めに帰することができない事由により、使用収益ができなくなったとして、使用収益ができなくなった程度に応じて、賃料の減額を請求される可能性があります(2020年4月1日以降に締結・更新された賃貸借契約においては、改正民法第611条第1項が適用され、使用収益できなくなった程度に応じて、賃料が当然に減額される可能性があります)。
ビル全体を閉館する場合は、テナントと十分に協議し、閉館中の賃料額等について予め合意しておく必要があると考えられます。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑬】
テナントから、売上が減少したことを理由に、借地借家法第32条に基づき、賃料減額請求がされました。テナントの売上の減少は、賃料減額の理由になるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う、賃借人の売上の減少は、客観的な情勢の変化でも、当事者間の事情の変動でもないため、賃料減額の直接的な理由にはならないと考えられます。
ただし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による、土地の価格の低下や経済情勢が変動は、賃料の減額を基礎づける事情になる可能性があります。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑭】
テナントから破産も考えていると聞かされました。オーナーとしてどのように対応すべきでしょうか。

テナントが破産した場合、破産開始決定後に発生した賃料債権は、財団債権として優先的に回収できますが、破産開始決定までに発生した賃料債権は、破産債権となり、回収が困難になる可能性があります。そのため、テナントの破産する可能性が極めて高い場合には、一定期間の賃料を免除し、損金として計上するという対策が考えられます。

【賃貸借契約(賃貸人の立場から)⑮】
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う不動産業界の動向に関する情報については、今後、どのように情報収集していけばいいでしょうか。

弊所のホームページにおいて随時更新しております。詳細については、担当の弁護士に直接お問い合わせください。
なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う、賃貸借契約に関する公的機関の発表等は、下記のリンクに掲載されております。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000166.html

【賃貸借契約(賃借人の立場から)①】
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、売上が大きく減少したため、賃料の支払が困難となっています。オーナーに対して賃料の減額・免除・支払猶予を求める根拠はありますか。

最初に、賃貸借契約書に、賃料減額等に関する規定がないかを確認してください。賃料増減額について規定している賃貸借契約は比較的多く存在し、テナントとしては、当該規定に従って賃料減額の請求や協議を求めることができないかをまずは検討することとなります。
賃貸借契約書に賃料減額に関する規定がない場合は、法令上、オーナーに対して賃料の減額・免除・支払猶予を求めることができないかを検討することとなりますが、売上の減少のみを理由として賃料の減額・免除・支払猶予を求める法令上の根拠はなく、オーナーがこれらの申入れに応じる義務はありません。ただし、後述のQ&Aも適宜ご参照ください。
なお、国土交通省は不動産関連団体を通じて、賃貸用ビルの所有者など飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対して、令和2年3月31日付けで、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施を検討するよう要請がされています。もっとも、かかる要請に法的な強制力はなく、賃料の減額・免除・支払猶予に応じるかは、オーナーの判断に委ねられています。
以上のことは、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく都道府県知事から施設の使用停止の要請や指示を受けずに、テナントが自主的に営業を自粛した場合でも、同様と考えられます。
【参照資料】
・国土交通省「新型コロナウイルス感染症にかかる対応について(依頼)」
http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001339166.pdf)。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)②】
新型インフルエンザ等特別措置法に基づき都道府県知事から施設の使用停止を要請又は指示された場合でも、オーナーに対して賃料の減額・免除・支払猶予を求める根拠はないのでしょうか。

新型インフルエンザ等特別措置法に基づき都道府県知事から施設の使用停止の要請や指示を受けた場合は、テナントの責めに帰することができない事由により、事実上、事業用物件としての使用収益ができなくなったとして、使用収益ができなくなった程度に応じて、賃料の減額を請求できる可能性があります(2020年4月1日以降に締結・更新された賃貸借契約においては、改正民法第611条第1項が適用され、使用収益できなくなった程度に応じて、賃料が当然に減額される可能性があります。)。
個別の交渉については、弁護士に直接ご相談ください。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)③】
新型コロナウイルス感染症の蔓延や、緊急事態宣言の発出により、客足が遠のいて売上が減少したことを理由に、オーナーに対して借地借家法第32条に基づいて賃料減額請求ができないのでしょうか。

借地借家法第32条には、賃借人からの賃料減額請求に関する規定があります。なお、賃貸借契約中に契約期間中は賃料減額を行わない旨の規定がある場合でも、借地借家法第32条に基づく賃料減額請求権の行使は妨げられないと解されています。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の蔓延や、緊急事態宣言の発出により、客足が遠のいて売上が減少したことを理由として、借地借家法第32条に基づく賃料減額請求を行うことは困難であると思料されます。
そもそも、借地借家法第32条に基づく賃料(増)減額請求は、客観的な情勢の変化や当事者間の事情の変動によって、賃料が不相当となった場合に行うことができるものです。
テナントの売上の減少は、客観的な情勢の変化や当事者間の事情の変動ではない一方当事者の事情であるうえ、新型コロナウイルス感染症の蔓延等により直ちに不動産の価格が低下するものでもありませんので、借地借家法第32条に基づく賃料減額請求を行うことは困難であると思料されます。ただし、このような状況が続くなどし、物価指数、国民所得等の経済事情が変動したといえる状態に至り、不動産の価格が低下した場合は、賃料の減額を基礎づける事情になる可能性があります。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)④】
賃貸人から、ビル全体を閉館するため、テナントでの営業を禁止すると通告されました。この場合であっても、賃料の減額・免除はされないのでしょうか。

オーナーの判断でビル全体を閉館した場合、オーナーが「賃貸物件を使用収益させる義務」に違反していることとなり、テナントに生じた損害を賠償する責任を負う可能性があります。ただし、緊急事態宣言の発出に伴う、各都道府県知事による施設の使用制限等の要請等に応じての閉館の場合は、オーナーの責に帰すべき事由による閉館ではないため、オーナーに対する損害賠償請求は認められないでしょう。オーナーから閉館の話があった場合は、オーナーとよく協議をし、将来の賃料の取扱い等を決定しておくべきです。
また、テナントの責めに帰することができない事由により、使用収益ができなくなったとして、使用収益ができなくなった程度に応じて、賃料の減額を請求することも考えられます(2020年4月1日以降に締結・更新された賃貸借契約においては、改正民法第611条第1項が適用され、使用収益できなくなった程度に応じて、賃料が当然に減額される可能性があります)。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑤】
テナント家賃の支払に充てられる給付や融資はありますか。

2020年6月12日に令和2年度第2次補正予算が参院本会議で可決されて成立し、家賃支援給付金が創設され、令和2年7月14日(火)に申請受付が開始されました(申請の期間は令和3年1月15日まで)。申請要領や給付規程の詳細は、以下のリンク先(経済産業省「家賃支援給付金に関するお知らせ」)をご参照ください。

なお、家賃支援給付金の支給対象及び給付額の概要は以下のとおりです。

 

1.支給対象

以下の①②③の全てを満たす事業者

①資本金10億円未満の中堅企業、中小企業、小規模事業者、フリーランスを含む個人事業者

②5月~12月の売上高について、

・いずれか1ヵ月の売上高が、前年同月比で50%以上減少

・連続する3ヵ月の売上高が、前年同期比で30%以上減少

③自らの事業のために占有する土地・建物の賃料の支払い

 

2.給付額

給付額は申請時の直近支払家賃(月額)に基づき、給付率及び給付上限によって算出される給付額(月額)の6倍(6ヵ月分)を一括支給。

支払賃料(月額) 給付額(月額)
法人 75万円以下 支払賃料×2/3
75万円超 50万円+[支払賃料の75万円の超過分×1/3]

※ただし、100万円(月額)が上限

個人事業者 37.5万円以下 支払賃料×2/3
37.5万円超 25万円+[支払賃料の37.5万円の超過分×1/3]

※ただし、50万円(月額)が上限

 

・法人の給付額(月額)の具体例

直近支払家賃(月額)が150万円である場合の給付額(月額)は、65万円になります。

計算式:50万円+(150万円-75万円)×1/3=65万円

 

・個人事業者の給付額(月額)の具体例

直近支払家賃(月額)が67万5000円である場合の給付額(月額)は、35万円になります。

計算式:25万円+(67万5000円-37万5000円)×1/3=35万円

 

弊所のホームページにおいても随時情報を更新しますが、最新の情報は、経済産業省のホームページをご確認ください。

また、以下のリンク先(厚生労働省「テナント家賃の支払いを支援する制度について」)に記載された制度による給付金・融資金を、テナント家賃の支払いに充てることも可能です。

【参照資料】

・経済産業省「家賃支援給付金に関するお知らせ」

https://www.meti.go.jp/covid-19/yachin-kyufu/index.html

 

・厚生労働省「テナント家賃の支払いを支援する制度について」

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/yachin_shien.pdf

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑥】
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で収入が減少し、家賃負担が重くなっています。敷金を未払賃料に充てるようオーナーに求めることはできますか。

敷金は、賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保するものであることから、賃借人は、敷金を賃料の支払いに充当することを請求することはできません。
もっとも、賃貸人が、未払賃料に敷金を充当することはできますが、これはオーナーの判断に委ねられています。オーナーとの間で、敷金を賃料に充当することを含め、賃料の支払猶予や賃料の減額・免除を話し合う必要があります。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑦】
オーナーと話し合って、敷金を未払賃料に充当してもらうことになりました。充当した分について、今後、補充する必要があるのでしょうか。

賃貸借契約期間中に賃貸人が敷金の一部を未払賃料に充当したからといって、敷金の減少分の追加を求めることが当然に認められているものではありません。契約期間中に未払賃料に敷金を充当した場合、賃借人に対して敷金の追加支払いを請求できることや支払方法が明記されていることも多いので、その内容を確認する必要があります。
また、敷金の追加に関する規定がない場合であっても、充当に際して、敷金の追加に関する合意書の作成を求められる可能性があります。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑧】
オーナーと話し合って、賃料の減額に応じてもらえることになりました。どのような点に気を付ける必要がありますか。

紛争を防止するために、減額する金額、減額期間、期間経過後の賃料の扱いなどを書面で明確に定めておくことが望ましいです。また、賃貸借契約においては、契約書とは異なる内容の合意を行う場合は書面で合意しなければ効力を生じない旨が定められている場合があり、この場合には必ず書面にて上記の点を合意する必要があります。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑨】
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い売上が減少し、賃料の支払が困難となっています。賃料不払いが発生した場合、賃貸借契約は解除されてしまうのでしょうか。

テナントの賃料不払いを理由に、オーナーが賃貸借契約を解除することができる場合があります。
ただし、賃料不払いがあっても、オーナーとテナントの間の信頼関係が破壊されるまでには至っていない場合は、賃貸借契約の解除は認められません。そこで、信頼関係が破壊されないように、支払いが困難である事情や見通しをオーナーに説明しつつ、一部ずつでも継続的に支払うなどの誠実な態度をとることをお勧めします。
なお、信頼関係の破壊の有無の判断において、一般的には、不払いの期間や総額が重視されますが、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う一時的なものとであることも信頼関係が破壊されるまでには至っていない方向に考慮される事情となる可能性があります。この点、法務省民事局は、最終的には事案ごとの判断となるとしつつも、新型コロナウイルスの影響により3か月程度の賃料不払が生じても、不払の前後の状況等を踏まえ、信頼関係は破壊されておらず、契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられる旨の見解を示しています。
【参照資料】
・厚生労働省「テナント家賃の支払いを支援する制度について」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/yachin_shien.pdf

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑩】
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、テナントでの売上が減少し、採算が合わないため、なるべく早期に撤退したいと考えています。オーナーに対していつまでに退去を申し出ればよいのでしょうか。

期間の定めのある賃貸借契約の場合は、オーナーとの合意によらない限り、当該期間中は賃貸借契約を解約できません。ただし、建物の賃貸借契約書に期間中に解約できる旨が記載されている場合は、その定めに従って解約することができます(解約申入れから解約の効力が生じるまでの期間について定めがない場合は、その期間は3か月となります。)。
期間の定めのない建物の賃貸借契約の場合は、解約の申入れから3か月が経過した時に解約されたことになります。

【賃貸借契約(賃借人の立場から)⑪】
賃貸借契約を解約し、又は賃貸借契約を更新しないこと等により、賃貸借契約を終了させて撤退する場合において、オーナーに原状回復義務を免除してもらうことはできないのでしょうか。

オーナーに原状回復義務の免除を求める法的根拠はなく、あくまでオーナーの判断に委ねられています。
オーナーが居抜きを想定している場合には、原状回復義務を免除してもらいやすいといえるでしょう。また、差し入れている敷金の範囲内で原状回復費用を賄ってもらうよう交渉し、原状回復費用を免除してもらうことも考えられるところです。オーナーとよく協議されてはいかがでしょうか。

【不動産売買(業績悪化による契約の解除要請への対応)】
不動産の売主として売買契約を締結しています。買主が、決済前に、新型コロナウイルス感染症の拡大による業績悪化を理由に、売買契約を解除したいと言われています。売主としては、買主の求める解除に応じなければならないのでしょうか。

買主の求める解除に応じる義務はありません。売主として買主に対して採り得る対処方法については、【不動産売買(売買代金不払いによる買主の法的責任)】をご参照ください。

【不動産売買(決済の延期要請への対応)】
買主から、不動産の決済を実行したいが、新型コロナウイルス感染症の影響により決済準備や資金の準備が遅れそうなので、決済日を延期してほしいと言われています。売主としては、どのように対処すればよいでしょうか。

買主が一方的に決済日を変更できる旨の条項が契約書に設けられていない限り、売主は、決済日の変更に応じる義務を負いません。
もっとも、個別事案によっては、新型コロナウイルス感染症による経済の悪化等に鑑み、買主の決済日の延期申出を受け入れるという判断も、売主の経営判断としてあり得るところです。このように、決済日を延期する場合には、売主としては、延期した後の決済日だけではなく、延期後の決済の実行が困難となった場合にどのように対処するのか(違約金の取り決め、遅延損害金の取扱い等)等についても買主と取り決めておいた方が良いと考えます。

【不動産売買(売買代金不払いによる買主の法的責任)】
買主として不動産売買契約を締結し、決済日が近づいています。ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大による業績悪化を理由に、決済資金の準備の目処が立たず、売買代金を支払うことができそうにありません。このように売買代金を支払えない場合、買主は、どのような法的責任を負うのでしょうか。

買主は、売主に対して決済日までに売買代金を支払うことができない場合には、それによって売主に生じた損害を賠償する責任(債務不履行による損害賠償責任)を負う可能性があります(民法第415条)。また、その場合において、売主から、相当の期間を定めてその支払いの催告がなされ、その期間内に売買代金を支払うことができないときは、その売買に係る契約を解除されてしまう可能性もあります(民法第541条)。なお、契約条項に違約金の定め(売買代金の2割を違約金として支払う等)がある場合、当該条項に基づいて違約金の支払義務を負う可能性もあります。
もっとも、買主が売買代金を支払うことができなくなった原因が新型コロナウイルス感染症の影響である場合には、個別事案によっては、債務者(買主)の帰責事由がないことを理由に、売主による解除が認められない可能性があります。
なお、改正民法の施行日(2020年4月1日)以降に締結された契約については、契約の解除の要件として従来必要とされてきた「債務者の帰責事由」は不要とされています(改正民法第541条~第543条。ここにいう「債務者」は買主を指します。)。そのため、買主が売買代金を支払うことができない理由が新型コロナウイルス感染症による場合であって、個別事案において「債務者(買主)の帰責事由がない」といい得る場合であっても、契約を解除される可能性がありますので、留意が必要です。

【不動産売買(買主の不可抗力免責の有無)】
買主として不動産売買契約を締結し、決済日が近づいています。ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う業績悪化により、売買代金を支払うことができそうにないのですが、買主は、法的責任を免れないのでしょうか。

民法上、金銭債務については特則が設けられており、「不可抗力」を理由に、金銭債務の債務不履行に基づく損害賠償責任は免責されないものと定められています(民法第419条第3項。改正民法も同じ。)。
したがって、債務不履行に基づく損害賠償責任を買主が免れることはできません。
他方で、債務不履行解除が認められるためには、債務者の帰責性が必要とするのが多数説です。債務者の帰責性の有無は、個別事案に応じた具体的な検討が必要となりますが、債務者である買主に帰責性がないといえる場合には、買主は、損害賠償の責任を免れ、又は売主による解除が認められないこととなります。
なお、改正民法の施行日以降に締結された契約の解除に関する留意点は、【不動産売買(売買代金不払いによる買主の法的責任)】のとおりですので、ご参照ください。

【不動産売買(契約締結の拒否)】
不動産を購入する売買契約の締結目前なのですが、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を受けており、売買契約の締結を急遽取りやめたいと考えています。売買契約の締結を拒否しても問題ないでしょうか。

売買契約締結前であれば、契約を締結しないことも原則として自由です。もっとも、個別の事案によっては契約締結上の過失に基づく責任(※)を負い得るので注意が必要です。たとえば、新型コロナウイルスの影響で不動産を購入するつもりがなかった(又は、購入する可能性が低かった)にもかかわらず、その旨を相手方に告げず、しばらく様子見で契約の締結を引き延ばし、契約締結直前に契約締結を拒否した場合などには、早期に契約締結しないことを告げていれば売主に生じなかったであろう支出などについて賠償責任を負う可能性があります。

※契約締結上の過失とは、契約締結の段階またはその準備段階における契約締結を目指す一方当事者の過失のことで、相手方の合理的期待を裏切るような行為をすることにより、契約不成立により相手方に不測の損害を被らせないようにすべき信義則上の義務を言います。

【不動産仲介(重要事項説明・賃貸借契約)】
近々、不動産の賃貸借契約を仲介することを予定している宅地建物取引業者です。ところが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が発出され、外出の自粛が求められていますし、感染拡大防止のためにも、対面での賃借人への重要事項説明は避けたいと考えています。賃借人と対面しない方法で重要事項説明を行う方法はありますか。

賃貸借契約における重要事項説明の場合には、いわゆるIT重説(宅建業法第35条に基づき宅地建物取引士が行う重要事項説明を、テレビ会議等のITを活用して行うもの。)の方法により、賃借人と対面しない方法で重要事項説明を行うことが可能です。
IT重説を行うには、以下の要件を満たすことが必要です。

① 宅地建物取引士及び重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること。
② 宅地建物取引士により記名押印された重要事項説明書及び添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ送付していること。
③ 重要事項の説明を受けようとする者が、重要事項説明書及び添付書類を確認しながら説明を受けることができる状態にあること並びに映像及び音声の状況について、宅地建物取引士が重要事項の説明を開始する前に確認していること。
④ 宅地建物取引士が、宅地建物取引士証を提示し、重要事項の説明を受けようとする者が、当該宅地建物取引士証を画面上で視認できたことを確認していること。

なお、宅地建物取引士は、IT重説を実施している途中で、何らかの理由で映像の視認や音声の聞き取りに支障が生じた場合には、直ちにIT重説を中断する必要があり、問題の解消を図り支障がない状況にしてからのみ、IT重説を再開することができます。
その他、具体的なIT重説の対応方法は、国土交通省が策定した「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」にて規定されておりますので、詳しくは下記URLをご参照ください。
【参照資料】
・国土交通省「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」
https://www.mlit.go.jp/common/001201030.pdf

【不動産仲介(重要事項説明・売買契約)】
近々、不動産の売買契約を仲介することを予定している宅地建物取引士です。買主が遠隔地に住んでいることから、対面で重要事項説明を行うとなると、長距離かつ長時間の移動が必要となるのですが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が発出されている状況でもあるので、移動を避けたいと考えています。そこで、買主と対面しない方法で重要事項説明を行いたいのですが、IT重説によることは可能でしょうか。

IT重説は、現時点では、賃貸借契約に関する取引に限定されているため、売買契約においてIT重説を行うことはできません。現在、売買契約に関してもIT重説の導入に向けた社会実験が実施されているものの、現時点ではいまだ認められていません。
重要事項説明自体を省くことはできませんので、買主と対面で重要事項説明を行うことは避けられないということになります。

【不動産仲介(重要事項説明・感染症の発生)】
前借主(あるいは前所有者)が当該物件において新型コロナウイルス感染症で死亡したことを重要事項として説明しないといけないのでしょうか。

現時点では告知義務まではないと考えられます。一般的に、自殺や他殺については心理的瑕疵に該当するとされる場合が多いですが、自然死や病死等の事件性がないものについては心理的瑕疵に該当しないものとして告知義務が否定される傾向にあります。よって、新型コロナウイルス感染症で死亡した場合も心理的瑕疵に該当する程度とまでは考えられておらず、少なくとも、消毒作業などが適切にされていれば、告知をしなくても問題ないと考えられます。もっとも、個別事案ごとの判断であり、特定の建物で新型コロナウイルス感染症への感染事例が発生したことが報道に取り上げられるなどして、社会的に当該建物が着目されたような場合などには、告知義務が肯定される可能性もあることにご留意ください。

建設/建築

担当: 川原大輝 弁護士

【工事延期と債務不履行】
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、工事に必要な資機材又は人材の確保が困難になりました。この場合、受注者は、発注者に対して、工期遅延などに関して、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うのでしょうか。

工期内に工事を完成させることができなかったことにつき、受注者に帰責事由が認められる場合、受注者は、発注者に対して、履行遅滞による損害賠償責任を負います(改正前民法第412条第1項、同第415条)。
この点について、国土交通省の令和2年4月17日付「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態措置の対象が全国に拡大されたことに伴う工事等の対応について」において、「受発注者の故意又は過失により施工できなくなる場合を除き、資機材等の調達困難や感染者の発生など、新型コロナウイルス感染症の影響により工事が施行できなくなる場合は、建設工事標準請負契約約款における「不可抗力」に該当するものと考えられます」と記載されており、不可抗力によるものとして、受注者に帰責事由がないと判断される可能性は高いと考えられます。
他方で、通常、受注者として十分な在庫を用意しておくべき資機材が不足したに過ぎない場合等、工期内に工事を完成させることができなかったことにつき新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響が必ずしも認められないような場合には、不可抗力によるものとは言い切れず、帰責事由が認められ、受注者は、発注者に対して、履行遅滞による損害賠償責任を負う可能性もあります。
【参照資料】
・「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態措置の対象が全国に拡大されたことに伴う工事等の対応について」(令和2年4月17日付・国土建第7号)
https://www.mlit.go.jp/common/001342732.pdf

【工事延期に伴う受注者の対応①】
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、工事延期をすることを検討しています。この場合、受注者は、発注者に対して、どのような対応を採るべきでしょうか。

工事に必要な資機材又は人材の確保が困難になり、工期内の工事完成が不可能となることが予想される場合には、工事請負約款での約定に従って、まず当該事情を発注者に説明し、他の資機材で代替できないか等、代替策を提案し、代替策で対応できないかどうか協議するべきであると考えます。その上で、代替策で対応することができず、工事延期がやむを得ない場合は、発注者との間で、工事延期(あるいは一時中止)の合意書を作成しておくべきと考えます。

【工事延期に伴う受注者の対応②】
工事延期(あるいは一時中止)の合意書を作成することになりましたが、どのような条項を規定するべきでしょうか。

受注者は、損害賠償責任を負うことを回避するためにも、工事延期(あるいは一時中止)の合意書には、「受注者及び発注者は、工事延期(あるいは一時中止)は「不可抗力」によるものであることに加えて、工事延期に伴って遅延損害金は発生しないことを相互に確認する。」旨の条項を規定するべきであると考えます。

【工事費用増加への対応①】
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、材料費・人件費が高騰し、工事費用の増加が見込まれます。この場合、受注者は、発注者に対し、増加分の工事費用を請求できるのでしょうか。

請負報酬は仕事の完成に対する対価でありますから、増加した分も含め、原則として受注者が工事費用を負担することとなり、増加分を発注者に請求することはできません。
他方、民間連合協定工事請負契約約款では、「契約期間内に予見することのできない…経済事情の激変などによって、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」(29条1項e)、及び「中止した工事又は災害を受けた工事を続行する場合、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」(29条1項g)には、理由を明示して請負代金の変更を求めることができるとの規定がありますので、当該約定に従って、発注者と協議することが考えられます。
但し、「請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」に該当するのは、例外的な場合に限られるものと考えられ、受注者が、発注者に対し、増加分の工事費用を請求できる場面は限定されると考えられます。

【工事費用増加への対応②】
受注者が、発注者に対し、増加分の工事費用を請求し、工事費用の変更を求めてきました。この場合、発注者は、どのような対応をすべきでしょうか。

原則として受注者が工事費用を負担することとなり、増加分を発注者に請求することはできません。
ただし、受注者が、発注者に対し、民間連合協定工事請負契約約款29条1項に基づき、工事費用の返還を求めてきた場合、発注者としては、①受注者の材料の入手や労務手配の段取りに誤りがないか、②約定の請負代金額とその支払条件のもとでは、受注者が最小限の利益さえ確保することができないのかどうかなどといった事情を考慮して、「請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき」に該当するかどうかを判断することになると考えられます。

【工事費用増加に伴う資金繰り対策】
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響で、工事費用が増加し、資金繰りが悪化するなどの影響が懸念されます。資金繰り対策として、とりうる方法はあるのでしょうか。

政府としては、資金繰り対策として以下の施策を講じており、以下の施策をご活用することができるのではないかと考えます。なお、日々刻々と各種制度は更新されますので、最新の情報を確認する必要がございます。
〇資金繰り対策
・日本政策金融公庫等による実質無利子・無担保融資の融資枠の拡充、既往債務の実質無利子・無担保債務への借換
・民間金融機関による実質無利子・無担保融資
〇雇用の維持
・雇用調整助成金の特例措置の更なる拡大(助成率引き上げ、助成対象の非正規雇用労働者への拡充等)
経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は
出向を行い、労働者の雇用維持を図った場合に、休業手当等の一部を助成する制度であり、種々の特例を措置
〇事業継続に困っている中小・小規模事業者等への支援
・中小・小規模事業者等に対する新たな給付金(「持続化給付金」)の創設
〇税制措置
・納税の猶予(無担保・延滞税なしで1年間猶予)
・中小事業者等に対する固定資産税等の減免
【参照資料】
・「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態措置の対象が全国に拡大されたことに伴う工事等の対応について」(令和2年4月17日付・国土建第7号)
https://www.mlit.go.jp/common/001342732.pdf
・経済産業省「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

介護事業

担当: 滝口広子 弁護士 塩津立人 弁護士 齋藤龍作 弁護士

職員自身に感染が疑われる症状が出たり、職員が濃厚接触者に該当する恐れがあるなどの事情が重なって、配置基準に従った人員の配置を維持できない恐れがあります。配置基準に従った人員の配置を維持できない場合、どのような問題が発生するでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、職員自身に感染が疑われる症状が出たり、職員が濃厚接触者に該当する恐れがあるなどの事情が重なって、人員の配置基準を一時的に維持できない場合について、柔軟な取扱いを可能とする旨の事務連絡が、厚生労働省から各都道府県・各指定都市・各中核市に対して出されています。このため、一時的に指定等基準や介護報酬の算定要件に係る人員基準を満たすことができない場合でも、介護報酬の請求が可能となることがあります。詳細は、下記の参照資料をご覧ください。

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年2月17日付事務連絡『新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601694.pdf

・厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱いについて」のまとめ

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045312/matome.html

配置基準を下回る人員配置の状態で、利用者の転倒や誤嚥などの介護事故が発生した場合、施設側に損害賠償責任が認められてしまうのでしょうか。

介護事故によって施設側に損害賠償責任が認められるかは、施設側に過失(注意義務違反)が認められるかによります。配置基準を下回る人員配置の状態であること自体が、直ちに施設側の過失に結び付く可能性は低いと考えますが、通常の運営がなされている場合の、施設側に注意義務の違反があるかどうかの判断と比較して、配置基準をどの程度下回った人員配置であったか、その配置の中で事故の発生を避ける手当がどのようになされていたのかなどの点も総合考慮したうえで、合理的な注意を尽くしていれば介護事故の発生を回避できたのに怠った、といえる場合には、施設側に責任が認められることになると考えられます。

もっとも、最終的な判断は事案毎に異なりますので、詳細については、弁護士にご相談ください。

職員自身に感染が疑われる症状が出たり、職員が濃厚接触者に該当する恐れがあるなどの事情が重なって、必要な人員体制を組むことが困難となってきています。今は、なんとか回せていますが、この状態が続けば、施設や事業所の休業も検討せざるをなくなりそうなのですが、施設、事業所を休業することはできるのでしょうか。

施設、事業所を休業するに際しては、入居者・利用者と協議の上、一定期間のサービス提供の中止又は契約終了などについて、契約書の内容次第ではありますが、原則として、入居者・利用者の同意を取り付ける必要があると考えられます。

まずは、入居者・利用者との間で締結している契約書の記載内容を確認してください。標準的な契約書では、感染症の感染拡大等を理由にして、事業者側から一方的に中途解約ができる旨の条項は存在していないことが普通かと思いますが、事業者側からの中途解約が広く認められている条項が存在するのであれば、その条項に基づき解約などを行うことが可能かを検討することになります。契約書の読み方については、必要に応じて弁護士にご相談ください。

なお、利用者・入居者の同意の有無にかかわらず、施設、事業所を休業する場合には、以下の2点に留意するよう、厚生労働省からの事務連絡があります。

①休業を決定してから、実際に休業するまでに、十分な猶予期間を設けるとともに、居宅介護支援事業所と連携し、事前に利用者に対して、休業等の事実や代替サービスの確保等について丁寧な説明を行うこと。

②利用者に必要なサービスが提供されるよう、居宅介護支援事業所を中心に、自主的に休業やサービスを縮小している事業所からの訪問サービスや、他の事業所による介護サービスの適切な代替サービスの検討を行い、関係事業所と連携しつつ、適切なサービスの提供を確保すること。

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年4月24日付事務連絡『介護サービス事業所によるサービス継続について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000625348.pdf

 

職員に新型コロナウイルス感染症が疑われる発熱等の症状がある場合、どのように対応すべきでしょうか。

就業規則の定めに基づき、出勤停止や自宅待機を命令することが考えられますし、仮に就業規則に規定がない場合であっても、感染の可能性の合理的根拠がある場合は、業務命令としての自宅待機命令等も検討すべきで、施設は、具体的な症状等に応じて、他の職員への感染拡大を防ぐため、出勤停止や自宅待機命令等を行うべきです。

例えば、厚生労働省の令和2年4月7日付事務連絡等にも、「職員は、各自出勤前に体温を計測し、発熱等の症状が認められる場合には出勤を行わないことを徹底すること。なお、過去に発熱が認められた場合にあっては、解熱後24時間以上が経過し、咳などの呼吸器症状が改善傾向となるまでは同様の取扱いとする。」等とされています。

ただし、発熱などの症状があることのみをもって、感染が確認される以前に、職員を休ませる措置をとる場合のように、施設の自主的な判断で休業させる場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。(職員の請求があれば、年次有給休暇として取扱うことでも差し支えありません。)

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年2月24日付事務連絡『社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスを除く)における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601686.pdf

・厚生労働省「令和年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

 

デイサービスやショートステイなどの通所・短期入所等のサービスを提供する事業を運営しているのですが、利用者や濃厚接触者に該当する同居のご家族の発熱、体調不良等の場合、サービスの利用自粛をお願いしています。もし、これらについて、利用者やご家族のご了承をいただけない場合は、契約書で定めるとおりのサービス提供を継続しなければならないのでしょうか。

利用者の新型コロナウイルス感染症の感染が確定した場合には、病院あるいはその他施設等に収容されることになるため、実際上、サービス提供を継続することにはならないと考えられます。

これに対し、利用者に発熱が認められる場合には、本来的には、利用者との間で締結している契約書の記載内容によりますが、利用を断ることに関する直接的な記載がなくても、通所・短期入所等のサービスを提供する社会福祉施設等においては、他の利用者に対しても安全配慮義務を負っている関係から、利用を断る取扱いができると考えられます。また、過去に発熱が認められた場合には、解熱後24時間以上が経過し、呼吸器症状が改善傾向になるまでは、発熱が認められる場合と同様に、利用を断る取扱いができると考えられます。ただし、利用者の利用を断る取扱いをする場合には、社会福祉施設等から、当該利用者を担当する居宅介護支援事業所又は相談支援事業所等に情報提供を行うと共に、必要に応じて、訪問介護等の提供を検討するなど、代替サービスの確保に努める必要があると考えられます。

また、利用者が、「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」(※)に該当する場合、その利用者へのサービスの提供について、「帰国者・接触者相談センター」に電話連絡し、指示を受ける必要があります。また、利用者が、「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」に該当しない場合であっても、濃厚接触者であって感染が疑われる者に該当する場合(利用者のご家族が新型コロナウイルス感染症の感染が判明した場合など)には、保健所に相談し、その指示を受ける必要があります。

 

※「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」とは、社会福祉施設等の利用者等であって、次の①~④のいずれかの場合に該当し、PCR陽性等診断が確定するまでの間の者を指すと考えられます。

①息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合

②重症化しやすい者(高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等))がある方、透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方など)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

③①及び②以外の場合で、比較的軽い風邪の症状が続く場合

④医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う場合

(令和2年5月11日時点の情報です。弊所のホームページにおいても随時情報を更新しますが、最新の情報は、念のため、ご自身でもご確認ください。)

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年2月24日付事務連絡『社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスを除く)における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601686.pdf

・厚生労働省「令和年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

・厚生労働省「令和2年5月11日付事務連絡「『新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安』の改定について」

https://www.mhlw.go.jp/content/000630286.pdf

訪問介護等の居宅を訪問してサービスを提供する事業を運営しているのですが、利用者や濃厚接触者に該当する同居のご家族の発熱、体調不良等の場合、サービスの利用自粛をお願いしています。もし、これらについて、利用者やご家族のご了承をいただけない場合は、契約書で定めるとおりのサービス提供を継続しなければならないのでしょうか。

利用者の新型コロナウイルス感染症の感染が確定した場合には、病院あるいはその他施設等に収容されることになるため、実際上、サービス提供を継続することにはならないと考えられます。

これに対し、利用者が、「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」(※)に該当する場合は、感染の可能性がかなり高い状況にあり、利用者に対する安全配慮義務を尽くす観点からも、検査等を優先すべき場面も想定されることから、その利用者へのサービスの提供について、「帰国者・接触者相談センター」に電話連絡し、指示を受ける必要があります。また、利用者が、「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」に該当しない場合であっても、濃厚接触者であって感染が疑われる者に該当する場合(利用者のご家族が新型コロナウイルス感染症の感染が判明した場合など)には、同様に、保健所に相談し、その指示を受ける必要があります。

これらに該当しない場合に、サービスの提供を停止できるかは、本来的には、利用者との間で締結している契約書の記載内容によります。このため、契約書の記載内容や事情を踏まえての判断になりますが、厚生労働省から、各都道府県・各指定都市・各中核市に対して、居宅を訪問して行うサービスの提供にあたっては、地域の保健所とよく相談したうえで、居宅介護支援事業所等と連携し、サービスの必要性を再度検討の上、感染防止策を徹底させてサービスの提供を継続することに留意すべき旨の事務連絡が出されているため、サービスの提供の停止については、これらの事務連絡を踏まえ、利用者やご家族と協議をしていただくことが必要になると考えられます。

 

※「新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる者」とは、社会福祉施設等の利用者等であって、次の①~④のいずれかの場合に該当し、PCR陽性等診断が確定するまでの間の者を指すと考えられます。

①息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合

②重症化しやすい者(高齢者、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等))がある方、透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方など)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

③①及び②以外の場合で、比較的軽い風邪の症状が続く場合

④医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う場合

(令和2年5月11日時点の情報です。弊所のホームページにおいても随時情報を更新しますが、最新の情報は、念のため、ご自身でもご確認ください。)

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年2月24日付事務連絡『社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスを除く)における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601686.pdf

・厚生労働省「令和年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

・厚生労働省「令和2年5月11日付事務連絡「『新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安』の改定について」

https://www.mhlw.go.jp/content/000630286.pdf

 

高齢者の入居系施設で、クラスターが発生している例が、実際に起きています。クラスターが発生した場合、施設は利用者との関係において責任を負うことになるのでしょうか。

高齢者の入居系施設は、介護契約上その施設内を管理する者として、利用者に対しても安全配慮義務を負っていると考えられます。高齢者は感染症に対する抵抗力が弱いため、高齢者が集団で生活する入居系施設では、感染症が広がりやすい状況にあることに留意し、利用者を院内感染のリスクから保護すべく十分な配慮をすることが求められます。

入居系施設内でクラスターが発生し、利用者が施設内でコロナウイルスに感染した場合に、感染したという事実のみで、直ちに安全配慮義務違反による責任が生じるわけではないものの、実際にとられた感染防止対策の内容如何によっては、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任(民法415条、709条)を負うおそれがあります。

新型コロナウイルス感染拡大防止との関係で、高齢者の入居系施設が、一般的に利用者に対して負う安全配慮義務の内容はどのようなものでしょうか。

高齢者の入居系施設等における新型コロナウイルス感染拡大防止に関する国の情報は、日々更新されておりますので、安全配慮義務の履行としては、これらの情報を収集して、具体的な対策をたてて、これを実施する必要があると考えられます。

なお、例えば、厚生労働省の令和2年2月24日付事務連絡「社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。)における感染拡大防止のための留意点について」や、同省の同年4月21日付事務連絡「介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について」は、感染拡大防止の対応策として、職員、利用者、委託業者等のマスクの着用、アルコール消毒の徹底、利用者の健康状態や変化の有無の把握、職員の検温、面会の制限等を行うべきである旨示しています。

また、前記令和2年2月24日付事務連絡は、感染拡大防止のため「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(改訂版)」を参考にすることとしており、たとえば、インフルエンザの項において示されている、施設ごとに感染対策委員会の設置し予防対策及び行動計画を策定すること、こまめな換気等は、新型コロナウイルス対策においても参考にすることができると考えられます。

 

【参照資料】

・厚生労働省「介護事業所等における新型コロナウイルス感染症への対応等について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00089.html

・厚生労働省「令和2年2月24日付事務連絡『社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。)における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601685.pdf

・厚生労働省「令和年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

・厚生労働省「令和2年5月4日付事務連絡『介護老人保健施設等における感染拡大のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000627656.pdf

・厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版」

https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

高齢者の入居系施設で新型コロナウイルスに感染が疑われる利用者がいる場合、他の利用者に対する安全配慮義務の履行として、どのような対策をとるべきですか。

利用者が新型コロナウイルス感染が疑われる者に該当する場合についての、入所系施設が行うべき対応については、厚生労働省から令和2年3月6日付事務連絡「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について」が示されていましたが、その後、同施設等でクラスターが多発している状況をうけて、同省から同月19日付事務連絡別添資料「社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。)において新型コロナウイルス感染が疑われる者が発生した場合の対応について」等が示されておりますので、これらを踏まえた対応(情報共有、消毒・清掃の実施、濃厚接触が疑われる利用者・職員の特定、濃厚接触が疑われる利用者に係る適切な対応の実施、濃厚接触が疑われる職員に係る適切な対応の実施等)を実施することが求められると考えられます。

また、施設としては、他の利用者へ感染が拡大することを防ぐため、新型コロナウイルス感染が疑われる者及びその者と濃厚接触が疑われる利用者等を特定して、他の利用者との接触を回避するよう努める必要もあります。

これらを踏まえて適切な対応が履行されていれば、基本的には、安全配慮義務との関係でも問題は生じないと考えられます。なお、同省からは、随時、事務連絡が発出され、その内容が更新されていますので、こまめな情報チェックが必要なことは、言うまでもありません。

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年2月24日付事務連絡『社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。)における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000601685.pdf

・厚生労働省「令和2年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年3月19日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための取組の徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000610599.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

施設内での感染拡大などを避けるため、現在、従前施設内で実施していた運営懇談会やケアマネージャーと入居(契約)者とのケアプラン作成のための打合せなどが実施できない状態が続いています。新型コロナウイルスが収まるまで、このままでよいでしょうか。

現時点では、結論としては、やむを得ないものと思われます。もっとも、長期的な施設運営の観点から、今後、対面での打合せ等に代えて、電話会議やWeb会議等を利用して実施することなどを検討することが望まれます。

 

介護施設に入居されている方は一般の方に比して、免疫力が低下しており新型コロナウイルスに感染しやすく、感染した場合に重症化しやすいこと、及び、介護施設では人と人との接触度が高いため、一度ウイルスが持ち込まれるとクラスター感染が発生する危険性が高いことが指摘されており、厚生労働省からも、感染拡大の観点から相次いで事務連絡が出される等、介護施設では、一般の施設に比して高いレベルでの警戒が求められています。

かかる警戒の観点から、新型コロナウイルスの感染経路となりかねない人同士の接触を避けるため、人が集まる運営懇談会や、対面でのケアマネージャー、入居(契約)者との打合せは極力避けるべきと考えられます。

一方で、介護施設の運営の面では、運営懇談会や各種打合せ等の実施も重要なものであり、新型コロナウイルスの収束については未だいつになるかの目途も立っていないことから、介護施設では、長期的な観点から新型コロナウイルスに対応した介護サービスを維持する仕組みを検討していく必要があります。

その観点からは、従来人を集めて実施していた運営懇談会は、施設への要望を書面やメールで募集し、それに対して、書面やメールで回答をすること等の方法で代替することや、従来対面で実施していた打合せについても、電話会議、Web会議を用いた方法に切り替えていく等、従来実施していた懇談会や打合せ等の機能をなるべく損なわずに代替しうる方法の模索等の対応を、長期的な取り組みとして検討・実施していく必要があるものと思われます。

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年3月19日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための取組の徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000610599.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

新型コロナウイルスに感染することを恐れて出勤しない職員がいます。出勤しない日についての賃金も支払う必要があるのでしょうか。また、業務命令として、出勤を命じましたが、出勤しません。かかる職員を業務命令違反として処分してもよいでしょうか。

まず、厚生労働省から示されている社会福祉施設等における感染防止対策(例えば、令和2年4月7日付事務連絡「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)」等)がとられているか確認いただく必要がありますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、職員にも様々な形で不安が生じていることが予想されますので、新型コロナウイルスへの感染を恐れて出勤しない職員について、当該職員が何を不安に感じているのか聴取するとともに、改めて、施設としての感染防止対策を説明し、当該職員の不安を除去するよう努めることが重要です。その上で、当該職員が出勤すべき業務上の必要性を伝え、自主的な出勤を促しましょう。

 

もっとも、法的には、労働契約上、施設は職員に対して、定めた賃金を支払う義務を負っており、一方、職員は施設に対して、定めた条件で施設の指示に従って誠実に働く義務を負っています。

 

職員が新型コロナウイルスへの感染を恐れて出勤しない場合には、通常は、職員の責めに帰すべき事由によって上記誠実に働く義務を履行していないことになりますので、当該職員は、その日の分の賃金を請求することはできません。したがって、施設としては、当該職員に対して、出勤していない日についての賃金を支払う義務はないものと思われます(なお、理由はどうであれ、時季変更権を行使すべき場面でない限り、職員が年次有給休暇を取得することは可能です。)。

また、労働契約上職員が出勤すべき日については、職員に対して、業務命令として出勤を命じることができます。なお、業務命令をする際には、命令の事実が明確になるように、書面やメール等で残しておくことが望ましいでしょう。

 

出勤命令に関わらず、当該職員が出勤しない場合には、業務命令違反となりますので、就業規則上、業務命令違反が懲戒事由として定められているのが通常でしょうから、その懲戒事由に基づいて懲戒処分を行うことを検討することになりますが、職員の言い分の合理性の有無やその程度に応じて考える必要があります。また、懲戒処分を選択する場合には、就業規則等に定められた適切な手続に則った上で、過去に(特に同種の)懲戒歴がある等特別に重い処分を選択すべき事情がなければ、比較的軽微な懲戒処分から行うことが妥当であるように思われます。

 

【参照資料】

・厚生労働省「令和2年3月6日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000605425.pdf

・厚生労働省「令和2年3月19日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための取組の徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000610599.pdf

・厚生労働省「令和2年4月7日付事務連絡『社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000619845.pdf

・厚生労働省「令和2年4月21日付事務連絡『介護サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症対策の再徹底について』」

https://www.mhlw.go.jp/content/000624121.pdf

 

ASEAN

担当: 坂元靖昌 弁護士

【アセアン各国の動向】

アセアン各国の状況について概括的な情報を把握したいのですが、どうすればよろしいでしょうか?

刻一刻と状況は変化しておりますが、外務省、各国に駐在する日本国大使館、ジェトロ等の公的機関が情報を収集しタイムリーな情報提供がなされております。

それぞれのリンク先は以下のとおりとなっています。

 

【ジェトロ】 https://www.jetro.go.jp/world/covid-19/asia/

【外務省及び各国駐在の日本国大使館】

・タイ

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_007.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.th.emb-japan.go.jp/itpr_ja/covid2019-index.html

 

・インドネシア

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_002.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.id.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 

・マレーシア

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_017.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.my.emb-japan.go.jp/itpr_ja/newinfo_20032020B.html

 

・ベトナム

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_015.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/corona0423.html

 

・カンボジア

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_004.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.kh.emb-japan.go.jp/itpr_ja/b_000218.html

 

・フィリピン

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_013.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00084.html

 

・シンガポール

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_005.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.sg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/covid19.html

 

・ラオス

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_020.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.la.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 

・ミャンマー

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_018.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.mm.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 

・ブルネイ

外務省の安全性情報

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo_014.html#ad-image-0

日本大使館

https://www.bn.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

 

【国際機関日本アセアンセンター】https://www.asean.or.jp/ja/invest-info/20200330/

【アセアン各国の規制】

アセアン各国ではコロナウィルスの感染拡大に関してどのような規制がとられているのでしょうか?

概要については、我が国の規制と同様に外出制限並びに事業所閉鎖の措置が取られており、その反面としてそれぞれの国の実情に応じて(特に中小企業を対象として)税の減免、低金利の融資提供等の事業継続支援がなされております。詳細につきましては、前述のリンク先から各国の状況をご確認ください。

中国

担当: 酒井大輔 弁護士 日野真太郎 弁護士 池野幸佑 弁護士 常偉 外国弁護士

中華人民共和国の企業が債務を履行してくれないので履行するよう求めたところ、新型コロナウイルス感染症が不可抗力だから責任を負わないといわれています。不可抗力である以上、あきらめざるを得ないのでしょうか。

そんなことはありません。以下のQAで述べるとおり、中華人民共和国(以下「中国」といいます。)の法律には、不可抗力に関する規定があり、かつ、新型コロナウイルス感染症やそれによる影響が不可抗力事由に該当すること自体は否定できません。しかし、中国法においても、不可抗力によって免責されるには、不可抗力に「よって」債務が履行できなくなったこと等いくつかの要件が充たされることが必要です。たとえば、不可抗力以外の理由でたまたま債務が履行できていない場合や、不可抗力事由が解消された後の責任等は、免責されない可能性が十分あります。

中国の企業から、不可抗力を理由として責任が免除されるとして、契約の履行を拒否されています。どう対応するのがいいでしょうか。

以下で述べる通り、その中国の企業が主張する不可抗力による免責等の効果が認められるためには、新型コロナウイルス感染症が中国で流行した時期に履行期が到来したというだけではなく、一定の要件が充たされる必要があります。したがって、まずは先方がそのような要件を充たすのかを検討したうえで、先方の資力も踏まえた回収可能性とそれに要するコストを整理し、交渉での回収を図るのか、弁護士に委任して法的手続による回収を進めるのかという検討をするのが望ましいかと思います。つまり、不可抗力による反論が成立するかどうかという点を除けば、通常の債権回収と同じフローで対応すれば足りると考えられます。

日本企業である当社と中華人民共和国の企業との取引で不可抗力が問題になった場合、適用される法律はどこの国の法律でしょうか。

実は、簡単には答えにくい問題です。まず、前提として、中国との取引では、一般に、社内で中国企業との取引と思われていても、実際は香港企業を通じて取引していることもありますので、契約相手が真に中国企業であるかどうかを確認してください。
そのうえで、中国企業が取引相手の場合、以下のように整理されます。
① 契約書で準拠法が日本法か中国法のいずれかと定めていた場合:原則として合意した国の法律が適用されると考えられます。
② 契約書で準拠法の定めがない場合:訴訟又は仲裁が提起された地の国際私法(日本の場合は法の適用に関する通則法、中国の場合は渉外民事関係法律適用法)によって、日本又は中国のいずれかの法律の適用が指定されると考えられます。
③ 契約書を締結していない場合:②と同じ結論になります。
なお、取引が売買又は一部の製作物供給に属する場合、ウィーン売買条約が適用されるため、以下のように整理されます。
① 契約書で準拠法が日本法か中国法のいずれかと定めており、ウィーン売買条約の適用を排除していた場合:原則として合意した国の法律の不可抗力の定めが適用されると考えられます。
② 契約書で準拠法の定めがあるがウィーン売買条約の適用が排除されていない場合:ウィーン売買条約が適用される可能性が高いです。
③ 契約書で準拠法の定めがない場合:②と同じ結論になります。
④ 契約書を締結していない場合:②と同じ結論になります。
以上のとおり、中国企業との取引だからといって、必ず中国法が適用されるわけではないことには注意が必要です。以下では、中国法が適用される場面についてご説明します。

中国の法律において、新型コロナウイルス感染症の発生は「不可抗力」に該当するのでしょうか。

中国では、予見することができず、回避することができず、かつ克服できない客観的状況を「不可抗力」と定義しています(民法総則180条、契約法117条)。この点、新型コロナウイルス感染症は中国国内では、「突発的異常事件」とされ、医学界においても絶対的に有効な方法で当該ウィルスの感染を防止する方法がなく、まさに予見できず、回避できずかつ克服できない客観的状況です。そうしたことから、中国各地の高級人民法院(裁判所)の見解としても、新型コロナウイルス感染症の発生は、「不可抗力」に該当すると意見が出されています。

不可抗力によって債務が履行されない場合、その扱いはどうなるのでしょうか。

当事者間で締結した契約で、不可抗力事由が生じた場合について規定があれば、原則としてその内容に従います。規定がない場合については、以下のQAをご参照ください。

当事者間の契約で不可抗力について定めがない場合や、契約書を作成していない場合でも免責されるのでしょうか。

中国法では、法律に不可抗力が生じた場合の効力の定めがありますので、これに従って債務不履行の責任が免除され、又は契約の解除が認められる可能性があります。なお、2020年4月16日に、中国の最高裁判所が、新型コロナウイルス感染症に関する民事事件の処理について、指導意見を公布しました。これには、以下に述べる不可抗力に関する考え方等が記載されており、今後の中国の裁判では参照されると考えられます。詳細は、弊所のニューズレター(https://www.kitahama.or.jp/wp-content/uploads/2020/05/Newsletter-on-International-Legal-AffairsChina-Vol.-35.pdf)をご参照ください。

当事者間の契約で定めがない場合、中国法ではどのようなときに不可抗力によって債務不履行責任が免除されるのでしょうか。新型コロナウイルス感染症との関係ではどうなるでしょうか。

不可抗力により免責されるための要件は以下のとおりです(契約法117条、118条)。
① 履行期前に不可抗力事由が発生したこと
② 債務不履行が発生したこと
③ ②が①の不可抗力事由によって発生したこと
④ 不可抗力によって契約を履行できなくなったことが速やかに通知され、合理的期間内に証明が提出されたこと(詳細は以下のQA参照)
これらの要件が充足されると、不可抗力の影響の程度により、責任の一部または全部が免除されます。特に重要なのは③です。新型コロナウイルス感染症が流行った時期の債務の全てが免責されるわけではなく、新型コロナウイルス感染症によって履行ができなかった範囲での債務が免責されるにすぎません。したがって、実際に免責が認められるかどうかは、個々の判断ということになります。

不可抗力によって契約を履行できなくなった場合にすべき通知と証明とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

当事者の一方が不可抗力によって契約を履行できなくなったときは、相手方に与える損失を軽減させるため、速やかに相手方に通知し、また、合理的な期間内において証明を相手に提出しなければなりません(契約法118条)。
このうち通知の方法については特に定めはありませんが、実務的には、相手方にしっかりと伝わり、かつ、通知したことが記録される方法によるべきと考えられます。
また、証明については、中国国際貿易促進委員会(https://www.rzccpit.com/)から取得することができます。取得にあたっては、同委員会に以下の資料の提出が必要です。
① 会社所在地の発行する公的書類
② 運送の遅延、キャンセル等の通知書
③ 履行できなくなった契約の契約書等

当事者間の契約で定めがない場合、中国法ではどのようなときに不可抗力によって契約が解除できるのでしょうか。新型コロナウイルス感染症との関係ではどうなるでしょうか。

不可抗力により契約を解除するための要件は以下の通りです(契約法94条)。
① 履行期前の不可抗力事由の発生
② 契約目的が達成できなくなったこと
③ ②が①の不可抗力事由によって発生したこと
したがって、新型コロナウイルス感染症の影響により、契約の目的を達成できない場合は、契約を解除することができます。契約の目的を達成できない場合かどうかの判断は容易ではありませんが、2003年にSARSが流行した際に、医薬品製造業者が、医薬品が政府に調達されたことで、医薬品の売買契約を履行できなくなった場合や、鳥インフルエンザが流行した際に、生きている動物の運搬が禁止されたことで、鳩の売買契約が履行できなくなった場合には、契約の目的が達成できないことを理由に解除が認められています。

労働契約について、新型コロナウイルス感染症により企業が休業した場合、従業員に対してその期間の賃金を支払う必要があるのでしょうか。

この点について、政府当局(人力資源社会保障部)からは、①当局は、従業員が、新型コロナウイルス感染症が原因で職場復帰できない場合、企業と従業員間の賃金の支払いについての協議を支持すること、②休業期間中において、有給休暇等が消化されてもなお職場復帰できない場合は、企業に対し、国の休業期間の賃金支払いに関連する規定を参照して従業員と協議し、企業の業務停止及び営業停止が1つの賃金支払周期内である場合には、労働契約に従い労働者に賃金を支払わせ、1つの賃金支払周期を超える場合には、生活費を支払うよう指導することが、意見として示されています。そのため、これらの意見を踏まえて現実的に対応する必要があると思われます。
なお、「生活費」は、地方政府の関連政策に従う必要があるとされていますが、現地の最低賃金の70%や80%とされるのが一般的です。この点は、現地当局に問い合わせる必要があります。

新型コロナウイルス感染症に罹患した従業員と労働契約を解除することができるのでしょうか。

企業は、労働者が新型コロナウイルス肺炎の感染患者、新型コロナウイルス肺炎の疑いがある患者、無症状感染者、法に従い隔離された者又は労働者が疫病の流行状況が比較的深刻な地域から来ていることのみを理由に労働関係を解除することはできないとされています。また、政府当局(人力資源社会保障部)の意見では、企業は、新型コロナウイルス肺炎の感染患者、新型コロナウイルス肺炎の疑いがある患者、密接接触者が医療隔離期間または医学監察期間及び政府の実施する隔離措置またはその他の緊急措置をとることにより通常の労働を提供できない従業員に対して、企業は当該期間における賃金を支払うべきであり、労働契約法第40条、第41条に従い、労働者と労働契約を解除してはならないとされています。ただし、労働法第26条及び労働契約法第40条の要件を充足しており、使用者が30日の事前書面通知をすることで労働者と契約を解除できる場合はこの限りでありません。また、従業員と労働契約を合意解除することもできますが、その場合は、経済補償金を支払う必要があります。

従業員が会社の業務を従事したことで新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、労災認定されるのでしょうか。

政府当局(人力資源社会保障部)の意見では、新型コロナウイルス感染症の予防及び治療業務において、医療看護及び関連作業者が業務を履行したことにより、新型コロナウイルス感染症に罹患し又は新型コロナウイルス感染症により死亡した場合は労災と認定され、労災保険待遇を受けることができるとされています。一方、それ以外の場合については、当該意見には言及がありませんが、労災とは認定されない可能性が高いと考えられます。

新型コロナウイルス感染症期間において、企業は、従業員と書面による労働契約の締結ができない場合、従業員に対して2倍の賃金を支払う法的責任を負う必要があるのでしょうか。

使用者が、雇用の日から1ヶ月以降1年未満の間に、書面による労働契約を締結しない場合、労働者に対し、毎月2倍の賃金を支給しなければならないとされています(労働契約法第82条)。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響により、書面による労働契約を締結できない場合、使用者は労働者と合意の上で、電子による労働契約の締結することが認められています。具体的には、本人特定のできるEメールやWe chat等で行うことができるとされています。

企業の操業再開にあたって、満たしておくべき条件はありますか。

オフィス及びエレベータ、トイレ、食堂等の感染予防、抑止措置の実施、従業員に対する予防作業を行う必要があるとされています。ただし、各地における取り組みが少し異なることもあるので、操業再開をする際には、現地の政府当局に問い合わせる必要があります。

労働者との関係に関して当局が発出している通知や意見を確認するにはどうしたらいいでしょうか。

中国では、当局の通知の多くがウェブサイトで確認できます。参考までに、以上のQAに関連して、政府当局(人力資源社会保障部)から現段階で発出されている通知をご紹介します(中国語)。

新型コロナウイルス感染症予防期間の労働関係問題についての通知
http://www.mohrss.gov.cn/gkml/zcfg/gfxwj/202002/t20200227_360811.html

新型コロナウイルス感染症予防期間において労働関係を安定させ、企業の操業再開を支持する意見について
http://www.mohrss.gov.cn/gkml/zcfg/gfxwj/202002/t20200207_358328.html

業務職責を履行したことにより新型コロナウイルス感染症に感染した医療及び関連する就労者に対する保障についての通知
http://www.mohrss.gov.cn/gkml/zcfg/gfxwj/202001/t20200123_357525.html

電子労働契約の締結に関する問題に係る文書
http://www.mohrss.gov.cn/gkml/zcfg/gfxwj/202003/t20200310_362037.html

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、社会保険料等についての軽減措置がありますか。

社会保険料及び住宅積立金の納付について、減免・納付猶予措置が、全国的に実施され、政府によっても実施されています。具体的な適用については、現地の当局に問い合わせをしたうえで検討するのが望ましいと考えられます。全国的な措置の詳細は以下をご参照ください(中国語)。
http://www.mohrss.gov.cn/gkml/zcfg/gfxwj/202002/t20200221_360350.html

税制上の軽減措置等は設けられているのでしょうか。

中国の国家税務総局において、企業の負担を軽減するため、個人所得税、企業所得税及び増値税について免除の措置が講じられています。また、新型コロナウイルス感染症対策に必要とされる業界、物資に関する増値税の免除等の措置も打ち出しています。詳細は以下をご参照ください(中国語)。
http://www.chinatax.gov.cn/chinatax/n810341/n810755/c5145868/content.html

データプロテクション&個人情報

担当: 生田美弥子 弁護士 若井大輔 弁護士

当社は顧客の個人情報を自社サーバ内でデータベース化して、顧客名簿として管理・運用しています。この度、この顧客名簿を業務で取扱う従業員についてもテレワーク業務を認めようと思うのですが、テレワークにおける個人情報の取扱いについて、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

個人情報取扱事業者としてすでに講じている安全管理措置について、テレワークに対応した措置が講じられているかにつき、組織的・人的・物理的・技術的な観点から点検し、必要に応じてルールを変更し、変更したルールを周知しつつ、ルールに対応した物理的・技術的な措置のための設備・機器を用意する必要があります。もっとも、取り扱っている個人情報の情報項目や種類、管理・運用形態等に基づき、テレワークにおける漏えいのおそれ(リスク)の内容・程度について洗い出し、場合によっては、個人情報の一部または全部についてはテレワークでの取り扱いを認めないという判断も考えられるところです。
また、テレワークにおける個人情報の取扱いに関するルールや設備・機器の変更におけるポイントは、テレワークを行う上で守るべき注意点を洗い出しルールや設備・機器を整備するのみならず、これを従業員に周知・徹底することです。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる義務を負います(個人情報保護法第20条)。必要かつ適切な措置の内容は、個人情報保護委員会(PPC)のガイドライン(通則編)にも例示されています。
加えて、PPCが、令和2年4月15日に注意喚起として公表した「新型コロナウイルス感染症対策として、事業者等においてテレワーク等を活用する場合のマイナンバーの取扱いについて」が、マイナンバーも含めた個人データのテレワークの取扱いにおいて参考となります。
すなわち、①すでに講じている物理的安全管理措置がテレワークの環境下においても継続できるようにすること、②テレワークにおける個人データの取扱いを認める場合であって、社内規定では自社外での個人データの取扱いを禁止しているときは、当該規定を変更する必要があること、また、③たとえば、自社サーバの顧客情報を管理・運用する領域には特定の区域からのアクセスしか認めていないのであれば、テレワークに対応して、こうした技術的措置も変更する必要があること、他方で、④そもそも「漏えい等を防止するための安全管理措置を講ずる必要がある」のであり、従前の安全管理措置と同様のレベルでの漏えい防止が自社のテレワーク環境下において担保できないのであればテレワークにおける個人情報の取扱いは認めるべきではないこと等が示されていると言えます。
上記④については、たとえば、Ⓐ一定の範囲の従業員に貸与している端末からであれば専用アプリを通じていつでも自社サーバ内の顧客名簿データベースにアクセスできるという場合においてテレワークを行うときと、Ⓑ顧客名簿のデータベースに顧客からの売上やクレーム、販路、価格、信用情報等の自社にとって重要な情報も紐づけており自社内に固定された特定の端末からしかアクセスできないようにしている場合においてテレワークを行うときとを想定してみてください。ⒶとⒷでは、テレワークにおける個人データの漏えいのおそれ(リスク)の内容・程度が異なり、テレワークにおいて講ずべき追加的な安全管理措置が異なるのは、想像に難くありません。また、自社内において、Ⓐの部署とⒷの部署があるのであれば、部署ごとにテレワークの可否・追加的な安全管理措置も異なってくるでしょう。
このように、取り扱っている個人データの項目や種類ごとにテレワークにおける漏えいリスクについて洗い出し、当該リスクを低減化することが難しい個人データがある場合には、当該個人データについてはテレワークにおける取扱いを認めないという判断をすることも考えられます。なお、当該個人データを取扱うため出勤が必要となる従業員については、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針が示す「職場に出勤する場合でも、時差出勤、自転車通勤等、人との交わりを低減する取組」を検討・実施することが望ましいでしょう。
最後に、個人情報の漏洩について参考になる資料をご紹介します。たとえば、平成28年度において事業者が公表した個人情報漏えい事案263件のうち、最も割合の高かった情報漏えいの原因は、「従業者の不注意」によるものでした。よって、安全管理措置を講じるにおいては、よく言われるように、物理的・技術的安全管理措置も重要ですが、従業員教育も同様に重要と言え、これはテレワークにおいても異ならないものと言えます。

(出典)個人情報保護委員会「平成28年度個人情報の保護に関する法律施行状況の概要」(平成29年11月、https://www.ppc.go.jp/files/pdf/personal_sekougaiyou_28ppc.pdf)19頁(赤丸部分筆者)

なお、テレワークにおける個人データも含めたセキュリティ対策については、総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第4版」(平成30年4月)等をご参照ください。

また、企業規模によっては、テレワーク導入支援のための「働き方改革推進支援助成金」を利用できる場合があります(詳細は、経産省のサイト(https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200312003/20200312003-1.pdf)をご参照ください。)。

【参照資料】

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(平成31年1月)

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/190123_guidelines01.pdf

内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)「テレワークを実施する際にセキュリティ上留意すべき点について」

https://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/telework20200414.pdf

総務省「テレワークセキュリティガイドライン 第4版」(平成30年4月)

https://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf

総務省「Wi-Fi利用者向け簡易マニュアル~安全なWi-Fi利用に向けて~」(平成27年3月10日)

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/cmn/wi-fi/Wi-Fi_manual_for_Users.pdf

【行動履歴追跡アプリ】

コロナに感染した陽性者の行動履歴を追跡できるアプリ(コンタクトトレーシングアプリ)があるようですが、どのような問題があるのでしょうか?

アプリによって行動履歴を取得する主体によっても問題の所在が異なることとなりますが、そもそも陽性になるまでは、単なる一般人の普段の行動履歴が集積されることになるわけです。これを第三者が継続的に取得してしまうため、個々の情報が個人情報に該当しないものだったとしても、複数の行動履歴から個人が容易に特定されてしまう現実からすれば、個人のプライバシーの侵害となることが懸念されます。

しかし、陽性と判明してから過去の行動履歴を知ろうとしても、本人も正確に覚えていないことが考えられ、仮に覚えていても言いたくないなどの主観的な理由で、感染拡大が起きている現状からすれば、行動履歴を遡って追跡することができれば、有用であることは明らかです。そのため各国でコンタクトトレーシングアプリの導入が議論されており、実際に、二次、三次感染を防止するに役立つ場合があるものと考えられます。

もっとも、多くの人が導入すればするほど、感染拡大防止に寄与することから、情報量が大量になることが想定され、漏洩した場合のリスクも大きくなるでしょう。

病歴の有無は要配慮個人情報ですので、アプリの導入には、本人の同意を前提することになるでしょうが、広範な行動履歴が情報として蓄積され、漏洩すればその個人のプライバシーが丸裸となりかねないことからすれば、アプリの利用目的について、十分かつ具体的に伝えた上で同意を得る必要があるでしょう。

(参考)

個人情報保護委員会「新型コロナウイルス感染症対策としてコンタクトトレーシングアプリを活用するための個人情報保護委員会の考え方について」

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/20200501_houdou.pdf/

【従業員の行動履歴の第三者に対する開示】

当社の従業員で新型コロナウィルスに感染した者がおり、当該従業員が働いていたビルに出入りしていた第三者から、具体的な行動履歴の公表を求められています。どのように対応したらよいでしょうか?

第三者の目的に応じて対応すべきでしょう。例えば、第三者が、感染者と接触した可能性を知りたいというのであれば、当該第三者が、従業員が所属する事業所を訪ねてきた日時と従業員の行動履歴が重複する範囲で、その日時の可能性についてのみ回答し、保健所の指示に従った対応をした旨を説明すれば足りるでしょう。従業員が新型コロナ陽性であることは、個人の病歴と考えられ、要配慮個人情報ですので、氏名や所属は明らかにしなことを前提にするとしても行動履歴を明らかにすることによって、個人が特定されることがないように注意する必要があります。個人の行動履歴を必要以上に第三者に開示することは、従業員のプライバシーの侵害にも当たりかねません。しかし、二次感染を防止するなどの公衆衛生の観点から、必要と判断される場合には、必要と考えられる範囲で開示することは許されるべきと考えられます。

 

(参考)

個人情報保護委員会「新型コロナウィルス感染症の拡大防止を目的とした個人データの取扱いについて」

https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/covid-19/

サイバーセキュリティ

担当: 若井大輔 弁護士

【サイバーセキュリティ】

企業におけるサイバーセキュリティ対策の必要性については平時からよく聞きますが、テレワークの実施にあたり、個々の従業員にサイバーセキュリティ対策を任せてしまうと、会社法上、問題が生じますか。

適切なサイバーセキュリティを講じる義務は、取締役の内部統制システム構築義務に含まれると考えられます。

(詳細は、阿久津匡美弁護士が作成に携わった、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)による「サイバーセキュリティ関係法令Q&Aハンドブック」(令和2年3月)のQ3等をご覧ください(https://www.nisc.go.jp/security-site/files/law_handbook.pdf))

【サイバーセキュリティとテレワーク】

それでは、テレワークにおけるサイバーセキュリティ対策として、何をしたらいいのでしょうか。

具体的にどのような体制を構築し運用すべきかについては、他のリスクに関する管理体制と同様に、サイバーセキュリティ対策の実施にあたっても、企業の規模や業種等に応じて個別具体的に決まるものであって、一義的に定まるものではありませんが、参考になる資料が数多く提供されています。

たとえば、総務省「テレワークセキュリティガイドライン第4版」(平成30年4月、https://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf)は、「ルール」を定めた上、テレワーク勤務者やシステム管理者等の「人」に当該ルールに沿って行動してもらいつつ、「技術」的な対策で補完し、バランスよく対策すべきとして、Ⓐテレワーク端末への電子データの保存の有無、Ⓑオフィスで利用する端末との関係、Ⓒクラウドサービスを利用するかどうかの3つの観点から6種類に分類したテレワークのパターンごとに対策の考え方を提案し、また具体的なテレワークセキュリティ対策のポイントも紹介しています。

あわせて、NISCも、4月14日に「テレワークを実施する際にセキュリティ上留意すべき点について」(https://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/telework20200414.pdf)を公表しています。このうち、一般的な事業者において参考になるものとしては、「テレワーク実施者の方へ」としてまとめられています(https://www.nisc.go.jp/security-site/telework/index.html)。

また、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第3版」(令和元年12月、https://www.ipa.go.jp/security/keihatsu/sme/guideline/index.html)には、「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」という付録があり、自社の全体的なサイバーセキュリティ対策のレベルを診断することもできます。IPAからは、「テレワークを行う際のセキュリティ上の注意事項」も提供されています。(https://www.ipa.go.jp/security/announce/telework.html

そのほかにも、総務省の「テレワーク情報サイト」で公開されている「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」(平成28年3月、https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/furusato-telework/guidebook/pdf/teleworkintroduction.pdf)においても、小・中・大企業ごとにテレワークセキュリティ対策の実施事例などが紹介されており、参考となるでしょう。

なお、テレワークの導入にあたっては、助成金の提供等もあります(経産省のテレワーク関係のまとめサイトはこちらhttps://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200312003/20200312003-1.pdf)。

適切なテレワークセキュリティ対策を実施し、自社の情報資産や取引先など他社から預かっている秘密情報等の漏えいや意図せざる流出を防ぎましょう。

食品衛生法(テイクアウト販売)

担当: 田島圭貴 弁護士

【飲食店による食品のテイクアウト販売】

飲食店を経営していますが、新型コロナウイルスの影響を受けて店内で飲食をするお客が減ったため、店の食事メニューのテイクアウト販売を始めました。店の営業につき飲食店営業許可を受けていますが、テイクアウト販売について新たに許可を取得する必要がありますか。

新たに許可を取得する必要があるか否かは、テイクアウト販売をする食品の種類によります。例えば、以下の食品を製造してテイクアウト販売をする場合には、飲食店営業許可に加えて、それぞれ以下の許可の取得が必要となります。

 

食品の種類 必要な許可
パン、ケーキ・クッキー・プリンなどの菓子類 菓子製造業
アイスクリーム アイスクリーム類製造業
牛・豚・鶏などの生肉 食肉販売業
鮮魚介類 魚介類販売業
自家製のハム、ソーセージ、ベーコン 食肉製品製造業
生めん、ゆでめん、乾めん めん類製造業
缶詰めまたは瓶詰めの食品 缶詰又は瓶詰食品製造業
煮物、焼物、揚物、蒸し物、酢の物、あえ物 そうざい製造業

 

上記の他にも、テイクアウト販売する場合に新たな許可が必要となる食品が多くありますので、注意が必要です。また、新たな許可が必要か否かは、客の注文を受けてから調理するか否か、客へ直接販売するものか否か、どの程度の時間作り置きをしておくかなどの事情も考慮され、個別具体的に判断されますので、テイクアウト販売を始めるにあたっては、事前に保健所にご相談ください。

 

なお、飲食店営業許可の範囲内でテイクアウト販売をする場合の食品は、飲食店営業の許可を得た店内で製造されたものでなければならず、別の場所で製造したものを店舗に持参して販売することは認められませんので、ご注意ください。

【飲食店による酒類のテイクアウト販売】

在庫のビールなど、酒類のテイクアウト販売をしたいと考えています。飲食店営業許可に加えて新たに許可を取得する必要がありますか。

酒類の販売をしようとする場合は、販売場所の所在地の所轄税務署長から、酒税法に基づく酒類小売業免許を受ける必要があります。もっとも、今回の新型コロナウイルスが飲食業の事業者に多大な影響を与えていることから、国税庁は、免許の申請手続の簡素化・免許処理の迅速化を図る観点から、一般の酒類小売業免許とは別に、新たに「料飲店等期限付酒類小売業免許」を設けました。

 

この料飲店等期限付酒類小売業免許の付与の対象となるのは、2020年6月30日(火)までに提出のあった免許申請書に限られていますので、酒類のテイクアウト販売を考えておられる場合は、速やかに所轄の税務署へご相談ください。

【テイクアウト販売における表示義務】

店舗で作った食品を容器に詰めて店頭で販売する場合、加工食品品質表示基準に基づく表示は必要でしょうか。

加工食品品質表示基準とは、加工食品の品質に関し、製造業者又は販売業者等が加工食品の容器又は包装に表示すべき事項を定めた基準です。具体的には、加工食品の名称、原材料名、内容量、賞味期限、保存方法などを表示しなければならないとされています。

ただし、飲食料品を製造又は加工し、一般消費者に直接販売する場合には、加工食品品質表示基準に基づく表示は不要とされています。

 

そのため、小売店の店内で弁当を作って容器包装に入れて販売する場合や、店舗と同一敷地内の施設で作って容器包装に入れて販売する場合は、製造又は加工をした者が一般消費者に直接販売していると考えられるため、表示の必要はありません。

 

もっとも、加工食品品質表示基準に基づく表示が必要でない場合であっても、客の身体の安全を確保する観点からは、アレルゲン、消費期限や保存方法などの安全・安心に関する情報は伝えるようにしておくことが望ましいといえます。

【テイクアウト販売と食中毒】

テイクアウト販売をした食品により食中毒が発生した場合、客に対してどのような責任を負うのでしょうか。また、飲食店営業許可に関連してどのような処分がされるのでしょうか。

客に対しては、食中毒により被った身体的ないし財産的な損害につき、製造物責任法又は民法上の損害賠償責任を負うリスクがあります。また、人の健康を損なうおそれがある食品を販売したとして、都道府県知事により、飲食店営業許可の取り消し、又は営業の停止処分が下される可能性があります。

税務

担当: 米倉裕樹 弁護士 塩津立人 弁護士 安田雄飛 弁護士 磯野賢士 弁護士 髙倉慎二 弁護士

【新型コロナウイルス感染症の影響下における取引先に対する債権(売掛金、賃料等)の免除】

当社は、新型コロナウイルス感染症や外出自粛要請等の影響により経営状態が悪化している国内の取引先のため、既存の債権の支払を一部免除するとともに、当面の間、取引価格を引き下げることを検討しています。こうした取引先に対する支援策につき、税務リスクはありますか。

国税庁は、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大状況等に鑑み、当面の税務上の取扱いに関するFAQを公表し、その中で、復旧支援のために、賃料の減額やチケット料・スポンサー料の払戻し辞退をした場合について、一定の要件の下で寄附金に当たらないとする取扱いを示しています。

これらの取扱いは、災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除等に関する解釈を示した法人税基本通達9-4-6の2の具体的場面への当てはめを示したものであり、あくまで例示ですので、それ以外の場面でも通達の要件を満たせば寄附金に当たらないものとして取り扱われます。

また、上記通達の要件を満たさない場合でも、他の通達が定める要件を満たせば寄附金に当たらないものとして取り扱われます。

これらの通達の要件を満たすか否かについてどのように判断すれば良いか、下記ニューズレターにおいて詳細に解説しておりますので、こちらもあわせてご参照ください。

https://www.kitahama.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/Newsletter-on-tax-vol.1.pdf

 

【参考資料】

・国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の「5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」問4~5‐2

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

・「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」Q16、17

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/h30/pdf/0018007-094_01.pdf

【新型コロナウイルス感染症の影響下での役員給与の減額の法人税法上の取扱い】

新型コロナウイルス感染症の影響により業績が悪化したため、役員給与を減額することにしましたが、この場合法人税法上の取扱いはどのようになるのでしょうか。また、新型コロナウイルス感染症の影響によって業績の悪化が見込まれるので、役員給与を減額する場合はどうなるのでしょうか。

役員給与を減額する場合、減額後の役員給与を定期同額給与として損金算入できるのかという点が問題になります。

この点、国税庁が公表する「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(以下「新型コロナウイルス感染症FAQ」といいます。)では、業績等が急激に悪化して家賃や給与等の支払いが困難となり、取引銀行や株主との関係からもやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況にある場合(新型コロナウイルス感染症FAQ 5新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係第6問参照)や、観光客等が回復する見通しが立たず、経営環境が著しく悪化し、また、今後、役員給与の減額などといった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況の悪化が不可避といえる場合(同第6-2問参照)には、業績悪化改定事由(法人税法施行令69条1項1号ハ)があるものとして、減額後の役員給与を損金算入できるとされています。ここで問題となる業績悪化改定事由を充足するのはどのような場合であるのかという点を中心にしつつ、通常改定(同号イ)や臨時改定(同号ロ)を用いた役員給与の減額や、減額後の役員給与を元に戻す場合の問題などについて、下記ニューズレターにおいて詳細に解説しておりますので、こちらもあわせてご参照ください。

https://www.kitahama.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/Newsletter-on-Tax-Affairs-vol.2-.pdf

 

【参考資料】

・国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf

・国税庁「 役員給与に関するQ&A」

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf

【新型コロナウイルス感染症の影響により生じた損失・費用の「災害損失欠損金」該当性と法人税法上の取扱い】

当社は、新型コロナウイルス感染症の影響により,多数の資産を廃棄処分することとなったほか,感染防止のために多額の費用を支出することとなり,当期は欠損が生じる見込みです。新型コロナウイルス感染症の影響によって生じた損失・費用について,法人税法上,当社にとって何か有利な取扱いを受けることはできないのでしょうか。

法人が,新型コロナウイルス感染症の影響により資産を廃棄処分した場合や,新型コロナウイルス感染症による被害拡大防止等のために費用を支出した場合で,かつ,それらと同事業年度において法人に欠損が生じているような場合には,発生した損失・費用が「災害損失欠損金」に該当するとして,通常の「欠損金」よりも会社にとって有利な取扱いを受けられる可能性があります(法人税法80条5項)。

この点に関連して,国税庁が公表する「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(以下「新型コロナウイルス感染症FAQ」といいます。)の中では,「災害損失欠損金」に該当しうる損失・費用の例が複数提示されています。

新型コロナウイルス感染症FAQ記載の各例の分析や,災害損失欠損金の法人税法上の具体的な取扱いについては,下記ニューズレターにおいて詳細に解説しておりますので、こちらもあわせてご参照ください。

https://www.kitahama.or.jp/wp-content/uploads/2020/07/Newsletter-on-Tax-Affairs-vol.3-1-3.pdf

 

【参考資料】

・国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の「5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」問2

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf