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【第2回】メタバース上の仮想オブジェクトはどのように保護されるのか?

July 15th, 2024

はじめに

本コラムでは、メタバース上の仮想オブジェクトが法律上どのように保護されるかについて、アバターが着用する衣服を例に解説いたします。

所有権と仮想オブジェクト

説例1

Xは、メタバース上で使用できるNFTの衣服を所持していた。ところが、不正アクセスによって、Yに同衣服を盗まれてしまった。


NFTとは、Non Fungible Tokenの略称で、代替不可能なデジタル資産を意味します。従来のデジタル資産とは異なり、NFT内ではブロックチェーン上に個別の識別情報が記録されており、オリジナルとコピーを識別することができます。そのため、仮想オブジェクトの「所有」の証明ができるなどと表現されることも少なくありません。しかしながら、民法上、「物」とは有体物をいうと規定されており(同法85条)、現実の姿形を有しない無体物について所有権(物を排他的に支配する権利)は発生しません。そのため、メタバース上で使用できるNFTを含む仮想オブジェクトについて、利用者が民法上の所有権に基づいて排他的支配を及ぼすことは(現行法上は)難しいと考えられます。
このような技術的、法律的な状態を踏まえた表現として、NFTを「保有」するとか、「デジタル所有感」がある等とされることもあります。
したがって、設例1では、被害者Xは、窃盗者Yに対し、衣服の所有権に基づいて返還を求めることはできず、たとえば不法行為に基づく損害賠償請求等により対処せざるを得ないこととなります。

著作権と仮想オブジェクト

説例1

Xは、特徴的な衣服を自ら作成し、現実世界において販売していた。ところが、メタバース上において、Yが全く同じ形状・デザインで、アバターが着用できるような衣服を無断で販売していることが判明した。


現実世界において著作物と認められる物については、基本的にはメタバース上でも著作権の保護が及びます。そのため、例えば、小説や音楽といった著作物がメタバース上で無断で販売されている場合には、著作権者はその販売を差し止めることができます(著作権法112条1項)。
他方で、衣服のような実用品について著作権が認められるためには、実用目的から離れた美的特性を備える必要があるとされるため、創作的な表現としての著作物性が認められにくく、著作権の保護が及ばないことが一般的です。
したがって、設例2では、被害者Xは、Yに対し、著作権侵害を理由としては、衣服の販売の差止めを求めることはできないものと考えられます。

~コラム~ 実用品の著作物性

衣服のような実用品については、「応用美術」すなわち実用品として利用されることを目的とした美的創造物に分類され、著作権で保護されるか否かは厳格に判断される傾向にあります。しかしながら、メタバース上の衣服は、現実世界での物理法則や実用性、価値観等に縛られる必要がないため、今後、メタバース上でしか実現できないような美的特性を備える衣服が作成されることも予想されます。こういった衣服については、実用目的から離れた美的特性を備えるものとして、著作権の対象となる可能性が高まるのではないかという点が指摘されています。


不正競争防止法と仮想オブジェクト

もっとも、設例2において、Xは、不正競争防止法に基づいてYの衣服の販売行為の差止めを求めることが考えられます。
不正競争防止法上、自身の商品の形態を模倣された者は、同商品を譲渡する行為等について、不正競争に該当するとして差止請求をすることができます(不正競争防止法2条第1項第3号)。しかしながら、メタバース上の提供行為を差止めるには、従来、2つの問題点がありました。
1つめの問題点は、同号の差止めの対象は商品の現実世界における提供行為に限定されており、メタバース上において商品を提供する行為は含まれていないという点です。この点については、2023年の法改正により、差止めの対象行為に「電気通信回線を通じて提供」する行為が追加されましたので、差止めの対象は商品のメタバース上における提供行為まで拡張されました。
2つめの問題点は、同号の「商品」の解釈として、メタバース上の商品が含まれないとする説がある点です。すなわち、同号の「商品」の解釈としては、有体物に限られるという考え方(※1)と、無体物も含まれるという考え方(※2)の2つが存在しており、最高裁判例でも明確に決着が付いていません。本改正においても「商品」に無体物が含まれることは明確化されませんでした。
しかしながら、有体物に限定されるという解釈は、同法2条1項1号の対象行為に「電気通信回線を通じた提供行為」が含まれる前の裁判例であり、同項3号に「電気通信回線を通じた提供行為」が追加された現在においては、前者の考え方で判断される可能性は低くなったと考えられます。
したがって、設例2では、被害者Xは、Yに対し、不正競争防止法に基づく形態模倣行為の差止めとして、同販売行為の差止めを求められる可能性が上がったといえるでしょう。

~コラム~ 実世界と仮想世界の交錯

設例2においては、①現実世界の商品の模造品を仮想世界において販売する行為(現実世界→仮想世界)が問題となっていましたが、②仮想世界の商品の模造品を現実世界において販売する行為(仮想世界→現実世界)、③仮想世界の商品の模造品を仮想世界において販売する行為(仮想世界→仮想世界)の場合も、不正競争防止法の差止めの対象となり得ます。現状では想定される模倣行為は①が多いものの、今後メタバースが普及するにつれて、②や③の模倣行為も増加することが予想されます。


おわりに

不正競争防止法の改正により、従来の法制度で保護できていなかった模倣行為に対処する選択肢が増えましたが、今後も、メタバースの一般化・普遍化に伴い、同様の法改正は進んでいくと見込まれます。
今回は衣服に関するメタバース上の権利関係を中心に取り扱いましたが、メタバース上の権利関係は、衣服以外のあらゆる仮想オブジェクトにおいて問題となりますので、詳細については、弊所ITPGチームへご相談ください。

※1 東京高判昭和57年4月28日判時1057号43頁
※2 東京地判平成30年8月17日(平成29年(ワ)21145号)

本記事の内容は、公開日現在のものです。最新の内容とは異なる場合がありますので、ご了承ください。

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