【第1回】電子商取引と利用規約①
February 15th, 2024
はじめに
ECサイトで商品を売買したり、デジタルコンテンツを購入したりといった取引はすっかり日常的になり、また、プラットフォームサービスやシェアリングエコノミー等のビジネスモデルに伴う市場規模は拡大の一途を辿っています。
インターネットを介して成立する取引関係では、事業者が、画一的な内容で不特定多数の利用者に対して商品・サービスを提供する傾向があります。多くの場合、事業者が提供するサービスの利用や事業者との取引についてのルールは、利用規約という形で事業者のウェブサイトで示されています。利用者が、この利用規約の内容に同意して事業者と取引を行うことで、この利用規約が事業者と利用者との間の契約内容の一部となります。インターネット上の取引では、紙の書面で契約書を取り交わすことはほとんどなく、ウェブサイトで示された利用規約が当該取引を規律する唯一の契約内容となることが多いといえます。
事業者の目線からすると、自社の商品・サービスを提供する取引において契約が重要であることは言うまでもありません。たとえビジネスモデルが似ているとしても、安易に他社の利用規約やひな形を流用してしまうと、自社の事業実態にそぐわない内容となっていたり、最新の法令に対応していない内容になっていたりすることがあります。また、利用規約の内容が不十分なために、利用者との紛争を予防できなかったり、その紛争の中で事業者に想定外の責任が課されてしまったりといった事態にもなりかねません。
さらに、消費者との取引においてあまりに一方的に事業者側に有利な内容を定めると、民法や消費者契約法上の問題を生じるおそれもあります。例えば、東京高裁令和2年11月5日判決(令和2年(ネ)1093号事件)は、ポータルサイトの利用規約について、「他の会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合」「その他、会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合」には会員資格の取消ができ、その措置により会員に損害が生じても、会社は一切損害を賠償しないという内容の条項が定められていたという事案で、「合理的な判断」の意味内容は著しく明確性を欠き、複数の解釈の可能性があるとし、会社が当該条項を自己に有利なように解釈・運用して全部免責規定として運用していることも踏まえ、この利用規約の条項は消費者契約法が禁止する不当条項に該当すると判示しています。最近では、消費者契約法の改正がなされ、免責範囲の不明確な条項は無効となりますので、条項の定め方を見直す必要もあります。
そこで本連載では、インターネット上でサービスを開始するにあたり、新たに利用規約を作成する際に、一般的に利用規約に定めておくべき内容をご紹介しつつ、①利用者から有効に同意を得る方法、②民法や消費者契約法に違反して、効力が否定されないような条項の定め方、③利用規約の内容を変更する際の注意点等を紹介していきたいと思います。
利用規約に定めておくべき事項の概要
一般的に、利用規約に定められている事項としては、以下のようなものがあります。
1
利用規約上使用される用語の定義
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2
サービスの内容や法律関係の整理
提供するサービスの具体的内容です。例えば、事業者が利用者に商品・サービスを提供する取引であれば、提供する商品・サービスの内容・提供方法、商品代金やサービスの利用料金、各種手数料、契約の成立等に関する規定がこれに該当します。
また、インターネットオークション、フリマサイト等の複数の利用者間の取引を仲介するプラットフォームサービスのように、多数の当事者が登場するサービスでは、関係する当事者間の法律関係を適切に整理する必要があります。例えば、利用者間の取引の場を提供するだけのプラットフォーム事業者は、基本的に利用者間の個別の取引については契約責任を負いませんので、そのことを明記しておくことが有用です(もっとも、プラットフォーム事業者が一切の責任を負わないわけではありません)。
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3
サービス利用における遵守事項、禁止事項
登録者以外の者にサービス利用させない、目的外利用の禁止、第三者の権利を侵害するような行為の禁止等、サービスの内容・実態に即して設定されるルールです。違反した場合には、契約解除や損害賠償の対象となるように、ペナルティとセットで定められることが一般的です。
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4
損害賠償に関する事項
事業者の免責条項、利用者に対する違約金条項等の定めです。民法や消費者契約法上の問題が生じやすい項目であり、定め方によっては裁判で無効とされる場合もあります。
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5
契約解除(利用停止)に関する事項
契約を解除できる事由(例えば利用規約違反等)や解除の方法、再度の利用登録の禁止等、契約関係の解消に関する定めになります。
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6
個人情報の取扱い
事業者は、通常、利用者の個人情報等を取得することになりますので、取得する個人情報の項目、個人情報の利用目的、第三者提供についての同意等、個人情報の取扱いに関する定めです。なお、個人情報の取扱いについては、別途プライバシーポリシーに定めるとおりとする旨のみが規定され、別途、プライバシーポリシーを作成することも多くあります。
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7
利用規約の変更に関する事項
事業者の判断で、利用規約を変更することがある(できる)旨の定めです。ただし、このような規定があるからといって、常に、事業者が一方的に利用規約の内容を自由に変更できるわけではなく、一定の制約があり得ます。
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8
裁判管轄
サービスの利用に関して紛争が生じた場合に、どこの裁判所で裁判を行うかという定めです。例えば、事業者の本店所在地を唯一の裁判所とすることで、訴訟に関する費用を抑えることが期待できます。
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本稿では、利用規約の概要についてご説明しました。次回以降、個別の条項についてご説明していく予定です。 なお、利用規約は事業者側が作成するものであり、基本的に個別の利用者との間で交渉をして利用者ごとに条項を変更することは予定されていません。事業者にとってある程度有利な内容で作成できますが、上述したように一定の限界があります。法的に有効な利用規約を、自社のサービスにフィットした形で作成していくことが肝心です。とはいえ、実際に作成した利用規約が、自社のサービス内容に照らして、有効かつ実効的に機能する内容になっているかどうかを判断することは必ずしも容易ではありませんので、弁護士のリーガルチェックを受けることが望ましいと言えます。
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