
Cross-Border Talks
Title
世界の弁護士とのネットワークと国際紛争解決の実績と知見により、ベストソリューションを提供する。
企業活動のグローバル化に伴い、法的トラブルの備えは必須であり、また有事の際は企業の権利・利益を守るため俊敏な対応が問われる。北浜法律事務所では、日本における日本企業と外国企業間の訴訟だけでなく、国際仲裁や国際調停にもいち早く取り組んできた。今回は「国際紛争」に焦点を当て、国際紛争を未然に防ぐためには何が必要か、また法的な解決が避けられなくなったときにどういう選択をすべきかを探っていく。
国際紛争解決への備えは
契約時に始まる
児玉 国際ビジネス紛争の解決方法としては、主に、当事者間で話し合う「交渉」、第三者である調停人を入れて話し合う「調停」、国家機関が白黒を決める「裁判」、より当事者の意思を反映して民間人の仲裁人が白黒を決める「仲裁」の4つが挙げられますね。このどれを使ってどう紛争を解決するかは、もめごとが起こって初めて考えるのではなく、実は仲良く取引を始めるときから備えが始まりますよね。
河浪 取引開始にあたって、取引条件を巡って交渉するのは当然ですが、もめた時にどの国・地域の法律を適用するかという準拠法の問題や、どの場所でどういう手段で解決するかという紛争解決条項をどのように決めておくかで、いざもめた時の交渉ポジションが全然違ってくることがあります。私たち弁護士には、紛争になってしまった後にご依頼いただくことが多いのですが、契約段階で私たちに依頼して契約書を作っておけば、こんなもめることにならなかったのに、あるいは、もめたとしてもこちらに有利に紛争解決を進めることができたのに、と思うことがよくあります。
生田 予想外の法律が適用されることが分かり、法的に争うとかなり不利な結論が予想されるとか、民事訴訟のルールも言葉すらも分からない外国で裁判をしないといけないとなると、交渉のスタートからハンデを負う状態になりますね。最近もご相談を受けたのですが、取引が長年続いている中で、契約書がないとか、契約書があってもその中身が薄すぎて困るというケースがままあります。例えば、日本の製品をヨーロッパの代理店に売ってもらう、というような代理店契約やブランドの販売契約などでは、長年更新してきた口約束、または口約束中心のような契約書しかないときに、いざ紛争になると、準拠法はどうなる、相手の国で裁判を起こされたら、また日本で裁判を起こしたらどうなるんだ、といった複雑な検討が必要になります。
児玉 ヨーロッパの裁判所ならまだしも、発展途上国で、裁判所がしっかりしていないとか、裁判官が賄賂を取るような国で裁判になると非常にまずいですよね。
児玉 そうならないよう、契約段階から紛争解決経験のある弁護士が関わるのが第一だと思いますし、生田さんの例のように契約書がない、薄いということに気づいたら、もめる前に弁護士と相談して、しっかりした契約書を巻き直すようにしていただければと思います。
河浪 北浜法律事務所は、ほとんどの弁護士が紛争案件を経験していますし、迷ったら気軽に所内の紛争解決専門の弁護士に相談するカルチャーもありますから、紛争になっても有利な条項、少なくとも不当に不利ではない条項を提案できますね。
生田 法体系の違いが、契約の書き方にも影響してくることもあります。フランスと日本は、いずれも大陸法系の国なので、契約書の書き方や在り方は似たところが多いです。ところが日本とフランスの当事者間の契約書の言語はほとんどの場合英語です。準拠法はフランス法を選ぶにせよ日本法を選ぶにせよ、法律体系はいわゆるローマ法、大陸法系ですので、法概念として、フランス語の表現と日本語の表現を直接比較する場合には、ほぼ一対一対応していることも多いのです。ところが、これらの同じ法概念を、日本語から英語、フランス語から英語に置き換えて表現しようとすると、英米法にはその概念をぴったり正確に表現できる用語がなかったりします。法体系が全く異なるからなんですね。それどころか、安易に意味が近そうな英米法の用語を使って置き換えると、本来の意味から離れてしまい、あとで誤解や解釈の違いが争いになることがあります。これをどう誤解のないようにどう書くかには工夫が必要で、この点にはいつも注意しています。

交渉でも紛争をにらんだ
弁護士のサポートを
児玉 次にもめごとが発生して企業間で交渉をする段階ですが、ここでも早めに弁護士に相談いただいてよかったということがありましたね。
河浪 はい。当事者間で交渉を進められる段階でも、我々は交渉の前面には出ずに、依頼者に対し、こういう表現は避けたほうがあとで本格的な紛争になった時に揚げ足を取られないとか、こういう提案をして相手の手の内が読める手掛かりが得られれば後の紛争の準備がしやすい、というアドバイスをして、それが後に仲裁になったときに役立ったこともありました。

制度や文化の違いを
意識して伝える
河浪 生田先生は、フランス、ニューヨーク、日本と3つの国の資格を持っていますが、国際紛争において特に注意しておられる点はありますか?
生田 国が変わると法制度だけでなく、そのバックグラウンドとなる法文化も変わることに注意が必要です。例を一つ挙げますと、まだフランスの法律事務所にいた駆け出しのころに、家賃未払いにより借主に退去するよう求める裁判を担当したことがありました。日本の方がオーナーの物件について、オーナー側で裁判をしたのですが、フランスでは、寒いときに借主を路頭に迷わせると死に至る危険があるため、退去を執行する時期が制限されています。具体的には、11月から3月の間は立ち退きを執行できないと法で定められています。しかも、7月後半から9月上旬は裁判所のバカンスの影響で期日が入りません。そのため、訴えてもなかなか期日が入らない、やっと判決が出ても執行ができない、その間は家賃の回収が見込めない、という貸主にとって絶望的な状況が続くという現実がありました。日本人オーナーは、家賃を支払わないのに一向に退去しようとしない借主に、まさかそんなに長い間家賃を払ってもらえないだけでなく、煩わされることになるとは思っていなかったと思います。このような経験からわかるように、外国での紛争解決にあたっては、日本との文化的背景の違いを理解して、依頼者にこれを説明できるようになることが重要だと思い、この点に気を付けてきました。こうすることによって、そうでなくても先が見えない紛争解決についての予測の困難さをやわらげ、少しでも依頼者の「いつ」「何が」「どうなるんだろう」という不安を解消しながら進めることが大事だと思っています。
児玉 裁判官や仲裁人が外国人である場合、日本では当たり前の企業文化や慣習が、外国人である裁判官や仲裁人にはなじみがないので、彼らを説得するために、意識的に丁寧にわかりやすく日本特有の事情を説明することもありますね。たとえば、相手に契約違反があった時に、なぜとがめだてせずに相手を助けようとしたのか、なぜこの売買取引では売主と買主の間に商社が入っているのか、稟議決裁ってなんだとか。
生田 日本の常識と外国の常識の違いを押さえて伝える意識、能力は大事ですね。
新しい「調停」という
解決策の選択
河浪 私は、国際紛争の事案ごとに、どれだけ幅広い引出しをもち、そのどれを選択するかも大事だと思っています。たとえば、どの紛争解決手段を選択するか、という場面で言えば、私はハーバード・ロースクールで交渉術を学んだこともあって、話し合いによる解決が望ましい事案であれば、調停の有用性に注目しています。調停前には自社のみならず相手方の真の利害を分析・整理した上で、調停時の交渉においては、複数の選択肢を提示し、可能な限りWin-Winとなる合意を目指すことが求められます。パイを奪い合うのではなく、パイを広げる姿勢が重要であることを代理人としてお伝えし、長期的な観点から依頼者にとって何がベストな解決策となるのかを、依頼者と共に検討するようにしています。国際調停では、トレーニングを積んだ調停人が当事者の間に入り、ときには非常に柔軟な発想で、当事者が和解合意に至れるよう支援もしてくれます。

児玉 私はイギリスのCEDRという機関の研修を受けて認可調停人となりましたが、その研修は、心理学的な要素も取り入れたもので、これだけ工夫すれば確かに調停成功率も上がるなと思いました。一般的に調停成功率は70%、調停人や調停機関によっては80%以上とも言われおり、日本企業が活用するメリットはとても大きいと思いますね。
生田 フランスでは、家事事件では従前からありましたが、10年ほど前から民事事件全般に調停前置主義が採用されて、裁判の前に調停のプロセスを経なければならなくなりました。当初こそ、調停の意義が実感として感じられておらず、多くの弁護士に聞くと、致し方なく形式的に短期間の調停を経ていると聞いていましたが、最近は調停による解決のメリットも理解されるようになってきたと聞いています。
河浪 調停は、時間やコスト面のメリットも大きいですよね。例えば国際仲裁だと、場合によっては1~2年かかり、それに伴い弁護士費用も億単位になることも珍しくありません。その点、調停ですと準備も短い期間でできますし、調停自体は1日や2日程度で終わらせることができます。仮に調停が不成立となった場合でも、調停準備のためにメリハリをつけて厳選した重要な証拠や事 実関係の整理は、その後の仲裁や裁判でも有用となります。
生田 決定的な決裂を避けて関係性を維持できる可能性が高いという点で、判決や仲裁判断よりも調停が有効という場合があると思います。企業間の仲裁の場合などは、とくにそう言えると思います。仲裁ということは、当初、企業間で仲裁合意を含む契約を締結したわけですよね。その機会には、両者が同じ方向を向いていた、つまり、一緒にビジネスをしようと前を向いていたということです。その後、もめたとはいえ、元は協力関係にあった会社どうしですので、紛争になったとしても紛争自体を解決できて、かつそのあともビジネス関係が続くことが望ましい。調停であれば、互いのビジネスを尊重しつつ紛争解決することができます。紛争となった事情だけでなく、少し周辺の事情も取り込んで幅広に紛争解決することもできるので、実現すればメリットが大きいと思います。日本でも、もっと国際調停が知られて、利用されるようになってほしいですね。
仲裁・裁判の過程での
選択肢の提案力
児玉 国際紛争が話し合いで解決できず、仲裁や裁判になる場合も、いろいろな選択をする場面は次々に現れますね。主に仲裁を念頭に置いて言えば、仲裁地や準拠法が日本以外の場合に外国の法律事務所と協働するか、仲裁人に誰を選ぶか、把握している事実関係や証拠をどのタイミングで出すか、相手が持っていそうな文書の開示をどれほど求めるか、仲裁の途中で和解交渉・調停を切り出すかなど、法的な手続きが始まってからも、いろいろな選択肢の中でベストと思われるものを依頼者に提案する機会があります。
生田 北浜法律事務所では、過去に北浜の弁護士が働いたり、研修をしたり、その他の方法でかかわって案件処理を協働したことがある法律事務所や、国際会議などを機に知り合った法律事務所などと、相互に協力体制を築いてきました。30年ほど前から弁護士の海外留学も進めてきましたので、海外留学後に海外の法律事務所で研修して、その関係を深めてきた実績もあります。そういう意味でも、海外の法律事務所とのネットワークは幅が広いだけでなく柔軟なものとなっており、私たちの事務所は国際案件を進めやすい環境にあると思います。
河浪 例えば、シンガポールでシンガポール法を準拠法とする仲裁を行う場合は、シンポールの弁護士と連携して対応する、という具合です。
児玉 その際、案件の大きさや金額によって、ベストだと思う法律事務所と連携するようにしています。金額が大きい場合は、大規模法律事務所と連携するということもありますし、逆にリーズナブルな額でやってほしいとクライアントが望む場合は、小規模な事務所を選んだりします。クライアントのニーズに合わせて多彩な連携先から選ぶことができるのも、私たちの強みのひとつですね。
河浪 いろいろなパターンを押さえたうえで、そのクライアントのその案件のその場面でベストな提案をする、というのは、難しいですがやりがいを感じますね。今日はどうもありがとうございました。
2025.04.01

児玉実史
パートナー / 弁護士
大阪事務所
東京大学法学部卒。ニューヨーク、シンガポールでの実務経験を経てニューヨーク州弁護士登録。2007年より弁護士法人北浜法律事務所代表社員。複雑化・長期化・高額化しがちな国際紛争を、訴訟・仲裁・調停などのクライアントにとって最適な手段で解決する。国際案件の仲裁ができる数少ない専門家として企業の信頼が厚く、日本仲裁人協会常務理事、国際商業会議所・国際仲裁裁判所メンバーも務める。

生田美弥子
パートナー / 弁護士
東京事務所
フランス共和国、米国ニューヨーク州、日本での弁護士資格(第二東京弁護士会)を持つ。2012年北浜法律事務所入所。ヨーロッパ・プラクティス・グループ責任者。長年の海外勤務の経験をベースに、コーポレート・コンプライアンス、M&A、知的財産・アート、環境、訴訟・仲裁等国際紛争等渉外全般を取り扱う。幅広い欧州でのネットワークを生かし、GDPRなど、データプロテクションに対応。

河浪潤
パートナー / 弁護士
大阪事務所
2013 年弁護士登録。2020 年ハーバード大学ロースクール修了(LLM) 。2021年ニューヨーク州弁護士登録。シンガポール・フィリピンの大手法律事務所での実務経験を活かし、国際的かつ複雑な商事紛争において多くの企業を代理。国際仲裁に関するガイドラインの和訳や原稿執筆、学生向けの国際模擬仲裁・模擬交渉の審査員、大学での非常勤講師(ネゴシエーション科目)等、教育活動にも積極的に従事。