IT関連法令の最新動向 AI推進法
June 25th, 2025
はじめに
「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI推進法」といいます。)が、2025年5月28日に成立し、同年6月4日に公布されました。
これまで政府は、AIのポテンシャルを認めつつも、リスクへの対応も必要であるとして、政府が司令塔機能を発揮して国として戦略を策定し推進していく必要があると指摘していました(2025年2月4日付けAI戦略会議・AI制度研究会「中間とりまとめ」参照)。AI推進法の内容は、そのような戦略を明確に位置付けつつ、AI技術の推進に関してはじめて法的な枠組みを提示するものであり、今後我が国が「AI立国」を目指すにあたり、礎となるものといえます。
そこで、本稿では、AI推進法の内容を紐解くとともに、民間事業者に与える影響について、解説いたします。
AI推進法の内容について
● 法律の目的と基本理念
AI推進法は、AI関連技術の研究開発・活用の推進に関する施策について、基本的な計画の策定等の基本となる事項を定めるとともに、人工知能戦略本部を設置することにより、AI関連技術の研究開発・活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図ることなどを目的としています(1条)。 また、法律の基本理念として、我が国がAI関連技術の研究開発を行う能力を保持するとともに、AI関連技術に関する産業の国際競争力を向上させること、AI関連技術が有する犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害等のリスクに対応するため、AI関連技術の研究開発・活用の過程の透明性の確保が必要であること、国際的協調の下での推進を旨とし、我が国が国際協力において主導的な役割を果たすことを目指すこと等を定めています(3条)。このように、AI推進法では、前掲の中間とりまとめでも指摘されていたイノベーション促進とリスク対応の両立及び国際協調という基本的な考え方が改めて確認されています。
● 各プレイヤーの責務
AI推進法では、法の目的を達成するため、国をはじめとする各プレイヤーの責務を次のとおり定めています(4条~8条)。また、国、地方公共団体、研究開発機関、活用事業者の相互の連携が重要であるため、これらの者の間の連携強化に必要な施策を国が講ずるものとしています(9条)。
プレイヤー | 責務の内容 |
国 |
|
地方公共団体 |
|
研究開発機関 |
|
活用事業者 |
|
国民 |
|
● 国等が講ずるべき具体的な施策について
以上の基本理念及び責務を踏まえ、国は、AI関連技術の研究開発・活用の推進に関する施策を実施するために必要な法制上又は財政上の措置等を講ずるものとしています(10条)。また、そのような施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、人工知能戦略本部を置くこととし(19条)、その本部長を内閣総理大臣が務めることとされています(22条1項)。報道によれば、政府は、今秋までの人工知能戦略本部の立ち上げを目指しているようです。
また、国は、AI関連技術の技術開発の成果の移転のための体制の整備や、成果に係る情報の提供といった施策を講ずるものとされており(11条)、これにより、基礎段階の研究から実用化までの一貫した研究開発を推進することが意図されています。
さらに、国は、AI関連技術の研究開発・活用に必要となる設備等(大規模データセンター、データセット等)を広く利用可能とすることや、専門的かつ幅広い知識を有する人材の養成や、国民の教育・学習の振興、国内外のAI関連技術の研究開発・活用の動向や、AI関連技術に伴うリスクにかかる調査・研究についても、必要な施策を講ずるものとされています(12条、14条、15条、16条)。
加えて、政府は、これらの基本的施策を踏まえ、「人工知能基本計画」を定めるものとされています(18条)。報道によれば、政府は、今冬までの人工知能基本計画の策定を目指しているようです。
また、国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正な実施を図るためにガイドラインを整備することとされており(13条)、これらの基本計画及びガイドラインの整備が目下の取組みとなります。
民間事業者に与える影響について
上記のとおり、AI推進法の内容は、主として今後国が進めていく施策の指針となるものであり、民間事業者に具体的な義務や罰則を課すものではありません。
もっとも、国の施策への協力が、活用事業者にとっての「責務」とされるなど、今後の国の調査等への一定の協力を求められることが予想されます。また、基本理念に照らしても、国は、特にAI関連技術が有する犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害等のリスクに対し強い関心と懸念を抱いていることが明らかであり、今後策定される基本計画及びガイドラインにおいて、活用事業者がそのようなリスクに対して一定の対応を行うことが事実上要求される可能性があります。特に、我が国のAI戦略は、EUのような“規制先行型”や、米国のような“市場先行型”とも異なり、リスクへの対応と利活用の推進をバランスよく進めていくことを狙いとしているものと理解できますので、ガイドラインのようなソフトローを中心に柔軟に対応していくことになるのではないかと予想されます。
いずれにせよ、民間事業者においては、今後の基本方針及びガイドライン策定の動きを注視するなど、継続的に情報のアップデートを行い、自社の方針を見直す必要がないか、タイムリーに検討していくことが求められます。
本記事の内容は、公開日現在のものです。最新の内容とは異なる場合がありますので、ご了承ください。