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【第5回】損害賠償リスクを下げる利用規約づくり③

March 15th, 2025

責任制限条項

 利用規約において最も重要な条項の一つが、債務不履行や不法行為が生じた場合の損害賠償責任を民法の原則よりも制限する条項(責任制限条項)です。 第3回でも言及したとおり、責任制限条項を定めればそのとおりの効果が得られるというわけではありません。今回は、実務上よく見られる条項を例に、注意点をご紹介いたします。

主観による責任制限

 まず、サービス提供者側の主観的態様による制限を設ける条項があります。例えば、下記の条項によれば、サービス提供者に故意も重過失もないものの、軽過失がある場合であっても損害賠償責任を一切負わないことになります。

条項例

当社が、本サービスの提供によって利用者に損害を与えた場合、その原因が当社の故意又は重過失にあるときに限り、当社は賠償責任を負います。

 B to Cのサービスにおいては、このような定めは、サービス提供者側が責任の全部を免除する定めを無効とする消費者契約法8条1項1号・3号に抵触すると考えられます。そのため、軽過失の場合であっても、責任を全部免除する内容にするのではなく、損害額の上限を設定することなどにより責任の一部を免除する内容にする必要があります。
 他方、B to Bのサービスであれば、消費者契約法の適用はないため、上記のように軽過失の場合の責任を全部免除する条項を定めることも可能です。ただし、債務者(サービス提供者)に故意又は重過失があるにもかかわらず、一部でも責任制限条項によって賠償責任を免れることは衡平上・信義則上許されないと解されていますので(※1)、故意又は重過失の場合に責任を免除する条項を定めたとしても無効、あるいは故意又は重過失のある場合には適用できないということになります。

損害上限額による責任制限

 また、損害の上限額を設定することにより責任を制限する条項もあります。例えば、下記の条項によれば、サービス提供者の損害賠償義務の上限金額が具体的金額又は受領した利用料となり、これを超える部分については、損害賠償責任を負わないことになります。

条項例

当社が、本サービスの提供によって利用者に損害を与えた場合、XX円を上限として/当社が受領した利用料を上限として賠償します。

 こちらの規定も、B to Cのサービスでは消費者契約法に留意が必要です。サービス提供者に故意又は重過失がある場合に損賠賠償責任を(一部でも)免除する条項は消費者契約法8条1項2号・4号により無効となりますので、少なくとも、サービス提供者に故意又は重過失がある場合にこの条項では免責されません。
 さらに、このような条項は、軽過失にしか適用されないことが明確とはいえず、故意又は重過失がある場合に適用されないだけでなく、令和4年改正で新設された消費者契約法8条3項(※2)により、当該条項全体が無効になってしまい、軽過失の場合にも適用されないおそれがあります。このように、規定の仕方が悪いと、軽過失の場合もこの条項では免責されなくなりますので、気を付けたいポイントです。
 他方、B to Bのサービスであれば、基本的に対等な交渉力のある企業同士の契約である以上、上記のような条項を置くこと自体は問題ありません。ただし、上記で述べたとおり、上限額を定めてもサービス提供者の側に故意又は重過失がある場合には、衡平上・信義則上、責任を免れないことに注意が必要です。
 その他、B to BとB to Cのサービスに共通していえることとして、現実的に発生した損害に対して損害の上限額の設定が著しく低い場合には、上限金額を超える部分の免責の主張が公序良俗に反して許されないリスクがあることにも留意が必要です(※3)。

消費者契約法8条を踏まえたB to Cにおける条項例

 B to Cのサービスであっても、下記のような条項であれば、故意又は重過失の場合についてはサービス提供者の責任を一切制限しておらず、また、軽過失の場合についても責任の一部を免除しているにとどまり、かつ、そのことを明記していますので、消費者契約法8条1項各号・3項の問題は生じないと考えられます。

条項例

(B to Cのサービスにおける条項例)
当社が、本サービスの提供によって利用者に損害を与えた場合、その原因が当社の故意又は重過失にある場合を除き、当社はXX円/当社が受領した利用料の限度でその損害を賠償する責任を負います。




※1 奥田昌道「新版注釈民法(10)Ⅱ 債権(1)債権の目的・効力(2)」(有斐閣、2011年)217頁、最判平成15年2月28日判タ1127号112頁等。
※2 本条項は、令和4年改正法の施行日(令和5年6月1日)以降に締結される消費者契約に適用されることになります。
※3 東京高判平成元年5月9日判時1308号28頁は、航空会社の旅客運送約款中、損害賠償額の最高限度額を定める部分について、事故被害者救済として甚だしく不十分として、公序良俗に反し無効と判断しています。もっとも、責任限度を定めること自体は是認されるため、損害賠償が無制限に認められるのは相当ではなく、合理的な限度が認定されるべきと判示しています。


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