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【第3回】メタバースと肖像権・パブリシティ権

September 15th, 2024

はじめに

今回は、実在の人物に認められている肖像権やパブリシティ権がメタバース上ではどのように扱われるのか、また、メタバース上のアバターにはこれらの権利が認められるのかについて検討します。

肖像権とは

肖像権は、たびたび耳にする権利ですが、実は法律で明確に定められている権利ではありません。しかしながら、判例は「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される」と述べており、肖像権を、憲法が保障する人格権に由来する権利として認めています(最判平成24年2月2日、判例タイムズ1367号97頁)。つまり、人々には、自分の名前や顔、容姿を勝手に利用されない権利が憲法により保障されていることが、判例法理として認められているということです。なお、ここでいう、「みだりに」とは、「正当な理由がないのに」と言い換えることができます。そして、「利用」には、氏名を掲載する、顔写真を撮影するなど、さまざまなものが含まれます。 しかし、肖像権は、同じく憲法により保障されている表現の自由(憲法第21条第1項)をはじめとする他の人権としばしば衝突することがあり、どちらが優先されるかは具体的事案によって異なります。この点について、判例は、肖像権が形式的に侵されたとしても、それによりただちに肖像権侵害となるとものではなく、個別具体的な事情を総合的に考慮して「人格的利益の侵害が社会生活上受忍限度を超えるもの」に限り、肖像権侵害を認めるべきとしています(最判平成17年11月10日、民集59巻9号2428頁)。

メタバースと肖像権

では、メタバースの世界において、肖像権はどのように関わってくるのでしょうか。また、そもそも、なぜ肖像権による保護について検討する必要があるのでしょうか。

アバターの肖像権

まず、メタバースにおいて、ユーザーは、それぞれ好みのアバターを設定し、ユーザー自身がなりたい姿になることができます。そして、3Dモデリング技術の発達により、実在の人物の外見と遜色ない外見のアバターを作成することも可能となっています。そのため、現実世界の人間の肖像権がメタバース空間で侵害される、といった危険性が想定できます。また、メタバースにおいて、ユーザーは、それぞれ好みのアバターを設定し、ユーザー自身がなりたい姿になることができます。ユーザーはアバターをまとうことで、年齢、性別、人種、はたまた動物や空想上の存在、非生物といった様々な姿になることができ、アバターとは、ユーザー自身の個性や、嗜好、理想が如実に表れるものとなり得ます。そのため、アバターの外見が固有のものになればなるほど、ユーザーが、他人からみだりに画像や動画を撮られたり、ユーザー名を利用されることを望まない可能性も高まるでしょう。このような背景から、実在する人物と同じように、アバターにも固有の肖像権を認めて保護すべきではないか、という議論が生まれたのです。
他方、アバターは3D(ないしは2D)モデルですから、著作物に該当し、著作権法による保護を受けられる可能性がありますので、あえて肖像権による保護を認めなくても問題ないのではないかとも考えられます。しかし、著作物と認められるには、創作性等の要件を満たす必要があり、全てのアバターが著作権法の保護を受けられるとは限りませんし、仮にアバターが著作物に該当するとしても、アバターをまとう人がその著作権を保有しているとは限りません。このとおり、著作権による保護と肖像権による保護は、完全に重なり合うものではなく、別途、肖像権による保護の必要性を検討する意義があるといえます。
 そこで、現実世界における肖像権の考え方を基に、メタバース空間において問題となり得るアバター等の肖像権の課題を具体的に検討しましょう。

(1)実在の人物の肖像を模したアバター

上述のように、現実世界に実在する人物には肖像権が保障されています。そのため、メタバースにおいて、あるユーザーが、実在する人物の容貌を緻密に再現したアバターを作成・使用した場合には、当該実在する人物の肖像権侵害となる可能性があります。侵害の可能性は、再現の程度はもちろん、そのアバターにどのような行動・言動をさせるのかによって異なり、例えば、精巧なアバターをまといモデルとなった人物の名誉を著しく損なう発言をする場合には「受忍の限度を超えるもの」と認められる可能性があり、肖像権侵害となる可能性が高まるといえるでしょう。  また、視点を変えて、別のユーザーが、上記のようなアバターをまとったユーザーを無断で撮影した場合にも、その態様によっては、当該実在する人物の肖像権を侵害する可能性があります。

(2)固有のアバター

個性豊かな固有(オリジナル)のアバターは、一般的に著作物と判断されるケースが多いことから、著作権法による保護が図られると考えられます。しかし、前述のとおり、アバターの著作権がアバターをまとうユーザーに帰属しているとは限りません。また、自己の分身として固有の唯一無二なアバターをまとい、自己の人格を投影して活動をしていれば、メタバース空間においては、そのアバターこそが、その人の顔・容姿といえます。そのため、実在する人物に認められている肖像権を、メタバース空間におけるアバターにも認めて、肖像権による保護を及ぼすことがより適切な場合があると考えられます。  仮に、アバターにも特有の肖像権を認める場合には、実在する人物を再現したアバターと同様に、無断撮影・無断公開などがなされた際には、肖像権侵害となる余地が認められることになります。ただし、実在する人物を再現したアバターの場合、肖像権を侵害され得るのは、当該実在人物ですが、固有のアバターの場合、肖像権を侵害され得るのは、アバターの中の人となる点に違いがあります。

(3)メタバース空間への映り込み

現実世界を再現したメタバース空間を作成する際、現実の景色を撮影し、データとして取り込む方法も可能です。もっとも、この場合、路上の歩行者や建物の中にいる人が映り込んでしまうことがあります。メタバースでは、ユーザーが自由に移動することができるため、ある地点では顔が判別できないものの、近づいて画面に大きく映る状態(いわゆる「大写し」)にすると、その人物を識別できるときには、肖像権侵害となるおそれがあります。そして、肖像権侵害の可能性は、歩行者よりも建物の中にいる人の方が一般に大きくなるといわれています。なぜなら、街路や公園などの公共の場であれば、第三者から自己の肖像を見られることが予期ないしは許容されていると一般に考えられるため、それだけ受忍限度を超えるものと判断され難いからです。


次回は、メタバースとパブリシティ権、そして、メタバースビジネスにおける権利侵害を防ぐために必要なことについて解説します。

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