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【第2回】電子商取引と利用規約②

March 15th, 2024

利用規約を内容とした契約が成立するという意味

民法の原則では、契約当時に認識しておらず合意の対象になっていない契約条件には契約当事者は拘束されません。それでは、利用規約をすみずみまで読んでいない利用者は、「途中までしか読んでいないので、後半の条項には同意していない」等という主張ができるのでしょうか。

個別の相手と契約条件の交渉を予定しない利用規約は、ほとんどの場合、民法上の定型約款(民法548条の2)に該当します。定型取引(※1)については、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたときには、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされます。つまり、利用規約の各条項をきちんと確認していなくても、その利用規約を契約内容にするという合意があれば、その利用規約に定める全ての契約条件に拘束されることになります。

このように、事業者側としては、利用規約を契約内容とする合意をすることによって、あらかじめ自分が準備した契約条件で取引を行うことができるという強力な効果があります。

利用規約の内容についての制約

他方、利用規約を契約内容とする合意さえすれば、どのような内容でもよいわけではありません。民法上、信義則に反して一方的に相手方を害するような条項(過大な不利益を与える条項や、予測できない不意打ち条項)については、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。

    【合意をしていないものとみなされる例】
  • 売買契約において、本来の目的となっていた商品に加えて、想定外の別の商品の購入を義務付けるような抱き合わせ販売条項
  • 企業の故意又は重過失による損害賠償責任を免責する条項
  • 高額な解約手数料を定める条項

また、利用者が消費者である場合には、消費者契約法によって無効となることもあります。詳しくは、別稿にてご紹介します。

利用規約を内容とした契約が成立するための同意の取り方

利用規約を内容とした契約を成立させるためには、利用規約が契約条件に組み入れられることについて、利用者の同意を得る必要があります。 具体的な同意の取得方法としては、最低限、利用規約の内容の開示を請求するきっかけとなる情報があればよく、利用規約の存在と利用とを利用者が認識できれば、「定型約款を契約の内容とする旨の合意」として足りるとされています(※2)。また、法解釈の指針として機能している経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」23頁(令和4年4月)では、以下のような方式であれば契約の内容とみなされるとしており、例2が必要最低限の方法といえます。

表示例1利用規約を端末上に表示させるとともに、その末尾に「この利用規約を契約の内容とすることに同意する」との文章とチェックボックスを用意し、そのチェックボックスにチェックを入れなければ契約の申込みの手続に進めないようにする
表示例2申込みボタンや購入ボタンのすぐ近くの場所に、事前に契約の内容とすることを目的として作成した利用規約を契約の内容とする旨を表示する

もっとも、例2の方法による場合、利用者から、利用規約の内容を示すよう請求された場合には遅滞なく応じる必要があり(民法548条の3第1項)、正当な理由なく応じなければ、利用規約は契約内容になりません(同条2項)。利用者の求めに応じて逐一やり取りをする手間を考えると、取引を開始するために利用規約を必ず表示させる仕組みにしておいたり(例1の方法)、利用規約へのリンクを掲載しておいたりすることが望ましい手法であると考えられます。

利用規約を変更する場合

利用規約の中には、「当社は、利用規約を変更することができ、利用者は1週間以内に異議を述べなかった場合、変更に承諾したものとみなす。」というように、企業が一方的に内容を変更できる定めを置いているものが非常によく見られます。 しかし、このような定めを置いていても、定型約款の変更についての要件(民法548条の4)を満たさなければ、変更の効力が生じないというリスクがあることには注意が必要です(※3)。

事業者が利用規約を一方的に変更できる場合として、以下のア)及びイ)の要件が定められています(民法548条の4第1項)。しかし、ア)の場合には、変更の効力を争う利用者はいないと考えられるので、実際には、イ)の要件を満たしているかが問題となることが通常です。

ア)定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合する(同項 1 号)
イ)変更が契約の目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、  変更条項の有無及びその内容その他変更に係る事情に照らして合理的なものである(同項 2 号)

将来的に、利用規約の条項を変更することが見込まれる場合には、利用規約の変更を将来行うことがある旨、変更を実施する条件、変更を実施するための手続き等を具体的に定めておくことで、当該変更条項に沿った変更には合理性が認められやすくなります。 また、上記の要件に加えて、変更の効力発生時期を定めて、事前に利用者に対して、利用規約を変更する旨及び変更後の利用規約の内容並びにその効力発生時期をインターネット等で周知する必要もあります(民法548条の4第2項)。 なお、利用者から、利用規約の変更について個別に同意を取得すれば、もちろん有効に変更できます。しかし、「特段の申出がない限り、変更後の約款の内容に同意をしたものとみなします。」等と通知しても、個別に変更の同意を得たとはいえません。

まとめ

ここまで利用規約を契約内容とする方法、利用規約の条項が無効にならないような定め方、利用規約を変更する場合の要件・手続についてご説明しました。 利用規約は、利用者がすみずみまで読んでくれるものではありません。しかし、利用規約を作成する事業者としては、法律の仕組みを理解した上で、自社の利用規約のすみずみまで目を光らせておく必要があります。

※1 「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又 は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」をいいます。
※2 村松秀樹=松尾博憲『定型約款の実務 Q&A〔補訂版〕』68 頁(商事法務、2023年) 参照
※3 松村ほか・前注 2・141 頁。このような条項は、民法 548 条の4第 1 項 2 号の「この条 の規定により定款を変更する旨の定めの有無」として、変更の合理性の一事由として考慮 されます。

本記事の内容は、公開日現在のものです。最新の内容とは異なる場合がありますので、ご了承ください。

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